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ローコードによる投資対効果(ROI)を最大化する戦略

ローコードによる投資対効果(ROI)を最大化する戦略

近年、ローコード(Low-Code)開発は、企業のデジタル変革(DX)を支える中核的な手段として注目されています。従来のフルスクラッチ開発と比較して、専門的なプログラミング知識を持たないユーザーでも業務アプリを迅速に構築できる点は大きな魅力です。しかし、単に導入するだけではROI(投資対効果)を十分に得られるとは限りません。戦略的に導入し、業務や組織に適した形で活用することこそが、ROIを最大化するためのカギとなります。 

本記事では、ROI(投資対効果)の観点からローコード開発を整理し、導入から運用、評価までのプロセスを解説します。業務領域の選定や導入時の注意点、ROIを最大化するための戦略的活用法を具体例とともに紹介し、組織全体の効率化や業務改善につなげる方法を示します。 

 

1. ROIとローコード開発の基本的な関係 

ROIは「投資から得られる利益の割合」を示す指標であり、システム開発においては、投資額に対してどの程度の業務効率化や売上増加、コスト削減につながったかを評価する基準になります。従来型のフルスクラッチ開発では、高度なプログラミングスキルや長期間の開発プロセスが必要であるため、ROIが実現するまでに時間がかかるケースが多く見られます。一方、ローコード開発は以下の複数の観点から、ROIに直接的かつ迅速に寄与します。 

ローコード開発がROIに与える影響
  • 開発コスト削減:再利用可能なコンポーネントやテンプレートでエンジニアリソースを抑える 
  • 市場投入スピード向上:プロトタイプやMVPを短期間で構築し、ビジネスニーズの変化に対応 
  • 運用・保守コスト低減:業務部門がアプリを改善し、IT部門の負荷を軽減 
  • 柔軟性・適応力向上:ビジネスプロセスの変更や新規機能追加に対応 
  • ガバナンス・品質管理向上:標準化された開発フレームワークやセキュリティ管理機能で開発効率と品質を両立 

項目 

従来型開発 

ローコード開発 

初期開発コスト 高い(フルスクラッチ 低い(再利用可能なコンポーネント 
開発スピード 数か月〜年単位 数週間〜数か月 
保守性 IT部門依存 業務部門主体でも可能 
ROI実現スピード 遅い 早い 
柔軟性・変更対応 低い 高い 
ガバナンス・品質管理 開発者に依存 標準化・自動化が可能 

ローコード開発は単なる開発手法ではなく、「短期間でROIを確保し、変化に対応可能な仕組み」として捉えることが重要です 

また、導入する業務領域や組織体制によってもROIの効果は変わるため、戦略的に適用範囲を検討することが成功のカギとなります 

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2. ROI最大化におけるローコードの利点と課題 

ROIを最大化するには、ローコードのメリットだけでなく、潜在的な注意点も理解しておくことが大切です。 

観点 

強み 

課題 

スピード 開発を短期間で進められる 複雑なカスタマイズには向かない 
人材活用 非エンジニアでもアプリを作れる ガバナンスが不十分だと混乱する可能性がある 
コスト 開発や運用の負担を減らせる プラットフォーム利用料がかかる 
柔軟性 環境や業務の変化に素早く対応できる 複雑な要件には対応しにくい 
メンテナンス 保守やアップデートが簡単 ベンダー依存になるリスクがある 
セキュリティ 標準機能で一定の安全性を確保できる カスタマイズ次第で脆弱性が生じることもある 
スケーラビリティ 部門単位での導入がしやすい 大規模展開では管理が難しくなる 
イノベーション アイデアを素早く形にできる プロトタイプに留まりやすい場合がある 

 

こうした利点と課題を理解した上で、ローコードを適切な領域で活用することが、ROIを最大化するための基本です。 

 

3. ROIを最大化するための戦略的アプローチ 

ROIを高めるためには、単なる導入ではなく「戦略的なアプローチ」が欠かせません。 

ROIを最大化するための戦略的アプローチ

3.1 適用領域の明確化 

ローコードは全てのシステムに万能ではありません。業務効率化を目的とした業務アプリや、社内フローを改善するアプリなど、定型的・反復的なプロセスへの適用が効果的です。 

 

3.2 IT部門と業務部門の協働 

ROIを最大化するには、IT部門がガバナンスを保ちつつ、業務部門が主体的に活用できる体制を整えることが必要です。シチズンデベロッパーの育成がROIを高めるカギになります。 

 

3.3 ROI評価指標の設定 

導入前に「開発時間短縮率」「運用コスト削減額」「業務効率化による人件費削減」などの指標を定義することで、導入効果を定量的に評価できます 

 

3.4 ガバナンスとセキュリティの確立 

ROIを長期的に維持するためには、セキュリティ基準やデータガバナンスを徹底することが不可欠です。特に、業務部門によるアプリ開発では、アクセス権限の管理やコンプライアンス遵守を明確に設計する必要があります。 

 

3.5 スケーラビリティと拡張性の確保 

初期導入時にROIが高くても、システムの拡張性が欠けると中長期的にコスト増大や再開発リスクを招きます。ローコードのプラットフォーム選定時には、既存システムとの連携性やスケーラビリティを重視することが重要です。 

 

3.6 継続的改善とPDCAサイクルの導入 

導入後もアプリの利用状況をモニタリングし、利用者からのフィードバックを迅速に反映させる仕組みを作ることで、ROIは持続的に向上します。定期的なKPIレビューと改善サイクルの実装が有効です。 

関連記事: 

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3.7 人材育成と組織文化の醸成 

ROIを短期的に高めるだけでなく、長期的に維持するためには、人材育成と組織文化の変革が不可欠です。ローコードを活用できる人材を計画的に育成し、部門横断で「自ら改善する文化」を浸透させることで、ROIの最大化が可能になります。 

 

4. ROI評価のためのフレームワーク 

ROI(投資利益率)の基本式は以下のとおりです。

ROI(投資利益率)の基本式

このシンプルな式をローコード導入に適用する場合、単に「コスト削減」だけでなく直接効果(数値化しやすい部分)と間接効果(数値化しにくいが重要な部分の両方を整理して評価することが求められます 

ROI評価の分解要素 

ROI要素 

測定方法 

具体例 

評価ポイント 

開発スピード 従来型開発と比較した工期 6か月 → 2か月 市場投入の早さが競合優位に直結する。特にBtoC領域では数か月の差がシェア獲得に大きく影響 
コスト削減 人件費・外注費削減 年間500万円削減 単なる「工数減」だけでなく、保守・運用の効率化も含めて算出 
売上貢献 新サービス投入による収益増 早期リリースで市場シェア拡大 売上シナリオを複数パターンで設定し、悲観・中立・楽観の3ケースで比較。 
保守工数削減 年間メンテナンス時間の減少 月40時間 → 月10時間 障害対応や機能追加にかかる負担を定量化 
品質向上効果 不具合件数やリリース後修正回数の減少 バグ件数30%減 品質改善が長期的なコスト削減に結びつく 
従業員満足度 ヒアリング調査・離職率 残業時間20%減 人材流出リスクの低下や採用コスト削減につながる 

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5. グローバル展開とROI最適化 

グローバルに事業を展開する企業では、ローコードによるROI最大化のアプローチも異なります 

  • 多言語対応アプリを短期間で開発し、海外拠点の業務を効率化 
  • 共通プラットフォームを利用することで、国ごとに異なるシステムの統合コストを削減 
  • リージョナル規制への対応:ローコード基盤で迅速にコンプライアンス要件を反映 

グローバルな文脈では「スピードと一貫性」がROIに直結するため、ローコードの価値はさらに高まります 

 

6. ケース別ROI最大化の実践シナリオ 

ローコード開発は、導入の仕方によってROIに大きな差が生まれます。以下の代表的なケースを通じて、具体的な効果とROI向上のポイントを整理します。 

項目 

バックオフィス業務の効率化 

顧客向けアプリの迅速開発 

既存システムとの連携 

活用内容 経費精算、稟議承認、勤怠申請といった定型業務をローコードで自動化。ワークフローを統一し、人的リソースの依存度を低減 顧客ポータル、予約・決済システム、カスタマーサポートアプリを短期間で構築。市場ニーズに合わせた柔軟な改善も容易 ERP・CRMなどの基幹システムとローコードアプリを連携。現場部門が必要な拡張機能を迅速に追加可能。 
効果 ・処理時間の短縮 
・人件費の削減 
入力ミスの削減 
・顧客接点の拡大 
・UX向上による満足度強化 
新規顧客獲得スピードの加速 
・システム間のデータ一元化 
・入力・転記作業の削減 
運用負荷の軽減 
ROIへの貢献 コスト削減:定常業務の工数削減により運用コストを圧縮 
開発スピード:業務改善を短期間で実現 
売上増加:顧客基盤の拡大やリピート率向上に直結 
市場投入スピード:競合より早くサービスを展開できる 
効率化と柔軟性:既存投資を活かしつつ追加開発コストを抑制 
・ ROI最大化:新規開発よりも低コストで機能拡張が可能。 

これらのシナリオを戦略的に適用することで、単なるコスト削減にとどまらず、スピード・効率・収益性のすべてを同時に押し上げることができます。 

 

おわりに 

ローコード開発は単なるコスト削減ツールではなく、ROIを戦略的に高めるための投資手段です。適切な領域に適用し、IT部門と業務部門の協働体制を整えることで、開発スピード・コスト削減・売上増加のすべてに寄与します。 

ROIを最大化するには「ROI測定指標の明確化」「業務適用領域の選定」「ガバナンスと自由度のバランス」が不可欠です。グローバルな事業展開においても、ローコードは迅速性と柔軟性を両立する戦略的な武器となるでしょう。