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DX推進における予算策定・戦略策定・リスク管理・効果測定

【データでみる】DX推進における予算策定・戦略策定・リスク管理・効果測定

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、競争力維持・強化の鍵となる戦略であり、推進には計画的な予算編成と的確なリソース配分が不可欠です。Grand View Researchによると、世界のDX市場は2030年までに4兆6,177億8,000万ドルに達し、2024年〜2030年の年平均成長率(CAGR)は27.6%と見込まれています。 

本記事では、拡大するDX市場を踏まえ、CFOが果たすべき役割と、予算編成・リソース配分のポイントを解説します。戦略的な投資が企業成長と競争力にどうつながるのか、ぜひご覧ください。 

主なポイント
  • DX市場は2030年までに大規模に拡大し、高い成長が期待されます。 
  • DXは企業のブランド向上、顧客体験改善、従業員生産性向上に寄与します。 
  • 戦略に連動した予算計画で、短中長期のリターンを見込む必要があります。 
  • ROIなどの具体的なKPIを設定し、定期的にレビューいたします。 
  • 主要コストの柔軟な管理と、内部外部資金の効果的な組み合わせが不可欠です 

 

1. DX投資と市場動向 

主なポイント

写真:株式会社富士キメラ総研

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、もはや単なるITプロジェクトではなく、企業の競争力を維持・強化するための戦略的イニシアチブです。富士キメラ総研の調査によると、2020年度の国内DX市場は1兆3,821億円であり、2030年度には5兆1,957億円に達すると予測されています。 

DX市場は、ビッグデータクラウドなどへの企業投資拡大を背景に成長を続けています。中でも、顧客体験向上を目的としたDXPへの関心が高まり、ユーザー視点のサービス設計が進んでいます。 

IoT、RPA(業務自動化)、機械学習(Machine Learning)、AI(人工知能)といった先進技術の進化も、企業のデジタル化を加速させる要因となっています。これらの技術活用を通じて、業務効率の向上や新たな価値創出が期待されています。 

またCOVID-19の影響によりクラウド導入が急速に進み、事業継続のためのデジタルソリューションに対するニーズが一気に高まりました。パンデミック後もこの流れは止まらず、企業はリアル中心の業務からデジタルへの移行をさらに加速させています。 

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2. DXを成功に導くの予算策定 

主なポイント
  • 企業全体のビジネス戦略とDX予算の整合性確保が不可欠 
  • 短期・中期・長期のリターンを考慮した予算計画の策定 
  • 明確なKPIと定期的なレビューによる投資価値の可視化 

DXを推進するうえで、予算策定は単なるコスト管理ではなく、企業の競争力と成長を左右する戦略的プロセスです。財務部門に加え、IT・事業・経営企画・人材部門が連携し、全社視点で設計することが求められます。本節では、特に重要な4つの視点からDX予算策定の要点を解説します。 

 

2.1 戦略との連動 

DX投資経営戦略と連動して初めて効果を発揮します。中長期的な事業目標に基づき、各DX施策の目的と成果目標を明確にすることが重要です。たとえば、売上構成の見直しやサービスモデルの転換を目指し、必要なDX投資を逆算して計画する手法が有効です。 

また、部門ごとに施策を進める場合でも、全社視点での優先順位付けとリソース配分が不可欠です。個別最適に偏ると、非効率や重複投資のリスクが高まります。そのため、予算策定時から横断的なガバナンス体制を整え、施策の整合性を確認することが重要です。 

 

2.2 KPIとROI設計 

DXへの投資効果は、財務指標だけでなく、顧客体験意思決定の質など非財務的な観点も含めて評価することが重要です。定量・定性の両面から、総合的に価値を測る視点が求められます。 

そのため、KPIは初期段階から設計し、短期・中期・長期で段階的に成果を測定する体制が必要です。たとえば、初年度はPoCの成果、次年度は業務効率顧客維持率、3年目には収益への貢献といった形でKPIを設定できます。 

また、KPIを可視化するダッシュボードを導入すれば、経営層との認識共有が進み、予算見直しや意思決定の迅速化にもつながります。 

 

2.3 柔軟な予算設計 

DXの予算設計には、技術や市場の変化に対応できる柔軟性が求められます。そのため、プロジェクトを段階的に進め、各フェーズでの成果を踏まえて次の投資判断を行う「ステージゲート方式」が有効です。これにより、初期リスクを抑えながら投資効果を最大化できます。 

さらに、計画の変更や追加コストに備えて、定期的な予算の見直しと調整が重要です。柔軟な設計により、成功施策への迅速な資源配分が可能となり、DXの推進力を高めることができます。 

 

2.4 経営と現場の連携 

DXは企業変革の一環であり、経営層と現場の連携が不可欠です。予算策定においても、両者が共通の目標と評価軸を持つことで、施策の整合性と実行力が高まります。 

経営層には、収益性や競争力といった観点に加え、業界比較や費用対効果のシミュレーションなどの客観的データを提示することが有効です。現場とはガバナンス体制を整え、予算や成果を定期的に確認する仕組みを設けることで、実行状況の可視化と改善が可能になります。 

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3. DX費用構造とリソース最適配分 

主なポイント
  • 主なコストはインフラ、ソフトウェア、人材、コンサルティング 
  • クラウドやモバイルアプリへの投資がますます重要に 
  • 人材育成と文化改革がDX成功のカギ 

DXプロジェクトの予算策定では、主なコストカテゴリを把握し、的確にリソースを配分することが重要です。代表的なカテゴリは以下の通りです

 

3.1. 技術基盤 

クラウドセキュリティなど基盤ITへの投資は、DXの土台となります。特にコロナ以降、クラウド移行が加速しており、初期費用だけでなく運用・保守を含めた総所有コスト(TCO)での予算検討が重要です。既存システムとの連携や拡張性に備えた追加投資も考慮すべきです。 

 

3.2. システム・アプリ投資 

デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム(DXP)、業務自動化ツール、データ分析ソリューションなど、 DX推進にはソフトウェアやアプリへの投資が欠かせません。市販ソフトの導入、カスタム開発、またはその組み合わせを戦略的に選択することが重要です。特にモバイルアプリは、IoT、RPA、ML、AIといった革新的技術との統合により、その重要性が高まっています。 

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3.3. 人材とスキル開発 

DXの成功には、人材の確保と育成が欠かせません。IPAによると、DX人材が十分にいる日本企業はわずか10.9%で、米国の73.4%と大きな差があります。 

IPAによると、 DX人材が「充足している」と回答した企業は、日本で10.9%、米国では73.4%と大きな差がありました。特に日本では「大幅に不足している」が49.6%に達し、前年より悪化しており、人材の量的確保が喫緊の課題となっています。 

DXを推進する人材の「量」の確保
写真:IPA

 

さらに、Gartnerによると、DXの成果を上げている企業は、スキル活用に加え、「人材育成指標」や「業績指標」など明確な評価基準を設定している割合が高く、成果が出ていない企業ほど指標を定めていない傾向が見られます。これは、スキル開発だけでなく、評価指標の整備もDX人材戦略に不可欠であることを示しています。 

利用している成果の測定指標別に見た実成果の割合
写真:Gartner

そのため、技術人材の採用や社内研修、組織文化の見直しにしっかりと予算を充てることが重要です。あわせて、変化管理やインセンティブ制度への投資も、DXを定着させる鍵となります。

 

3.4. コンサルティングや専門支援サービス 

多くの企業は、DX戦略の立案・実行において外部の専門知識を積極的に活用しています。ビジネスコンサルティング市場は、2023年から2028年にかけて年間平均成長率(CAGR)10.1%で拡大を続け、2028年には1兆1,714億円に達するとIDCは予測しています。特に製造業や金融業を中心に需要が拡大しており、DX推進において重要な役割を果たしています。 

国内ビジネスコンサルティングサービス市場 支出額予測: 2023年~2028年
写真:IDC Japan

 

4. DXプロジェクトの資金調達戦略 

主なポイント
  • 内部・外部資金を組み合わせた柔軟な資金調達が有効 
  • 段階的に投資し、成果が見えた施策に集中投入 
  • サブスク型モデルで初期負担やキャッシュフローを抑制 

DXの資金調達には、内部と外部を組み合わせた柔軟な対応が有効です。調達手段は、企業の財務状況やプロジェクトの規模・期間、リスクへの姿勢によって最適な形が異なります。

 

4.1. 内部資金の活用方法 

多くの企業は、運転資金利益剰余金などの内部資金を活用してDXプロジェクトに投資しています。これにより、追加の借入を避けつつ、外部の干渉を受けずに柔軟な意思決定が可能となります。 

また、収益性の低い事業や不要な資産を売却し、そこから得た資本をDXに再配分するアプローチも有効です。 

初期成果を見極めて段階的に投資する「ステップ型戦略」は、リスクを抑えた効果的な資金配分に有効です。Grand View Researchによれば、DXは市場ニーズへの対応力と収益性の向上に寄与しており、このような柔軟な投資戦略が投資効率の最大化に繋がります。 

 

4.2. 外部資金の活用方法 

デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する際、外部資金の調達は重要な選択肢となります。主な方法として、以下が挙げられます:  

  1. 銀行融資、社債発行、株式発行:低金利下では、DXなど長期価値のあるプロジェクトへの負債調達が有効です。  
  2. 戦略提携・JVによる協業推進 :テクノロジーベンダーやスタートアップ、業界パートナーとの連携により、技術とリソースを共有しつつ、DXを効果的に推進できます。 
  3. 政府の助成金や支援プログラム:政府はDX推進に向け、行政のデジタル化やデータ基盤整備などを重点的に進めています。 

さらに、経済産業省は「DX支援ガイダンス」を通じて、中堅・中小企業等に対する補助金や税制優遇措置などの支援策を展開しています。 

外部資金調達オプションを適切に活用することで、企業はDXプロジェクトの実行力を高め、持続的な競争力の強化につなげることが可能です。 

 

4.3. ハイブリッドアプローチの検討 

日本政府は、企業のデジタル化を後押しするため、クラウドSaaSなどの導入支援を行っています。これにより、初期投資を抑えつつ成長に応じた支払いが可能な「ペイ・アズ・ユー・グロー」モデルの採用が促進されています。 

さらに、「ウラノス・エコシステム」など、政府主導の取り組みも進行中で、これらの施策は、企業が外部リソースやパートナーシップを活用し、効果的なデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための環境整備を目的としています。 

 

5. DX投資のリスク管理と効果測定 

主なポイント
  • 技術・運用・市場・財務リスクを体系的に管理 
  • 財務・非財務KPIを組み合わせた多面的な効果測定 
  • 定期的なレビューと柔軟な再配分で投資効率を最大化 

DXプロジェクトへの投資は、リスク管理効果測定が不十分であれば成果を最大化できません。CFOは、財務的観点からその健全性と実効性を担保する中心的な役割を果たします。 

 

5.1. リスク管理戦略 

デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資に際しては、以下のようなリスクが指摘されています:  

  • 技術的リスク: 既存システムの老朽化や複雑化により、新しいデジタル技術の導入が困難となり、DXの推進が妨げられる可能性があります。 
  • 運用リスク: DXを推進するための人材不足やスキルギャップが、プロジェクトの遅延や品質低下を引き起こす可能性があります。  
  • 市場リスク: デジタル技術の急速な進化に伴い、競合他社の動向や市場の変化に迅速に対応できない場合、競争力の低下を招く恐れがあります。  
  • 財務リスク: DX投資が計画以上のコストを要する場合や、期待される投資対効果(ROI)が得られない場合、財務的な負担が増加します。  

これらのリスクを管理するには、発生確率と影響度に基づく包括的なリスク評価を行い、対応策を計画・予算化することが重要です。さらに、段階的な実装と定期的なレビューにより、リスクの早期発見と柔軟な対応を実現できます。 

 

5.2. KPI設計と成果可視化 

DX投資の効果を測定するためには、適切なKPIを設定することが不可欠です。財務的KPI(ROI、コスト削減、収益増加など)と非財務的KPI(顧客満足度、従業員生産性、プロセス効率化など)をバランスよく組み合わせることが重要です。 

Grand View Researchによると、DXはブランド評価顧客体験、顧客維持率の向上に加え、従業員の教育生産性向上、ビジネス目標の達成にも寄与します。これらの効果を的確に把握するには、包括的なKPIフレームワークが不可欠です。 

 

5.3. 継続的改善 

デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資効果を最大化するには、継続的な改善プロセスの確立が不可欠です。 日本政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において、施策の進捗や成果を定期的に確認し、PDCAサイクルを徹底する重要性を強調しています。 

さらに、経済産業省が策定した「デジタルガバナンス・コード3.0」では、DX推進による企業価値向上に焦点を当て、データ活用やデジタル人材の育成・確保、サイバーセキュリティ対策の重要性が指摘されています。 

 

6. 終わりに 

DXの予算策定とリソース配分は、企業の成否を左右する戦略的プロセスであり、投資の優先順位付けやリスク管理、価値創出において財務部門が重要な役割を担います。 

効果的なDX推進には、テクノロジーや人材、ソフトウェア、外部支援などのコスト要素を把握し、内部・外部資源を最適に活用する視点が不可欠です。経営戦略から業務・システム導入までを一体で捉える総合的なアプローチが、持続的成長と競争優位の鍵となります。