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UXリサーチとは?目的・手法・活用ポイントを解説

UXリサーチとは?目的・手法・活用ポイントを解説

デジタルプロダクトやサービスの競争が激化する中で、ユーザー体験(UX)の質は、選ばれ続けるための重要な差別化要因となっています。機能や価格だけでなく、「使いやすいか」「期待に応えているか」「継続して利用したいと感じるか」といった体験全体が、サービス評価に大きく影響します。その体験の質を高めるために欠かせない取り組みがUXリサーチです。

UXリサーチは、ユーザーの行動や意見を集めるだけの活動ではありません。利用前の期待から利用中の感情、利用後の評価に至るまで、体験全体を体系的に理解し、設計判断に活かすためのプロセスです。主観や経験則に頼らず、事実に基づいて体験価値を評価できる点に大きな意義があります。

本記事では、UXリサーチの基本概念から目的、UIリサーチとの違い、代表的な手法、実務での活用ポイント、注意点までを整理します。UX改善を一過性の施策ではなく、継続的な価値創出の仕組みとして運用するための視点を提供します。 

1. UXリサーチとは 

UXリサーチとは、ユーザー体験(UX:User Experience)を向上させるために、ユーザーの行動やニーズ、心理を調査・分析するプロセスを指します。サービスや製品が実際にどのように使われているかを理解することで、デザイン改善や機能追加の方向性を科学的に導き出すことができます。単なるアンケートや意見収集ではなく、ユーザー行動や体験全体を体系的に観察・評価する点が特徴です。 

観点 

内容 

定義 ユーザー体験を理解・改善するための調査・分析活動 
目的 UXの課題発見、改善策の立案、ユーザー満足度向上 
手法 インタビュー、アンケート、ユーザビリティテスト、行動観察、アクセス解析 
対象 現行ユーザー、潜在ユーザー、ターゲット層全般 
データ種類 定性データ(意見・感情)、定量データ(行動ログ・利用統計 
活用タイミング サービス企画段階、デザイン検証段階、リリース後の改善 
メリット デザイン判断の精度向上、ユーザー満足度改善、離脱率低減 
注意点 サンプル偏り、解釈の主観化、実施コスト 

UXリサーチは、ユーザー中心設計(UCD)の基本プロセスの一部として位置づけられます。ユーザーの実際の行動や心理を把握することで、直感や経験だけに頼らない、科学的かつ効果的なUX改善が可能になります。 

 

2. UXリサーチの目的 

UXリサーチの目的は、ユーザーがサービス全体を通じてどのような体験をしているのかを把握し、その価値や違和感の正体を明らかにすることにあります。画面操作に限らず、利用前の期待や利用後の印象まで含めて捉えることで、体験全体の質を俯瞰的に理解できます。 

また、UXリサーチはユーザーの行動や選択の背景にある動機や感情を読み解くための手段でもあります。なぜその行動が起きたのか、どの場面で満足や不満が生まれているのかを深掘りすることで、表面的な改善ではなく、本質的な体験向上につながる示唆を得られます。 

さらに、UXリサーチはプロダクトやサービスの方向性を判断するための基盤となります。機能追加や体験設計の判断をユーザー理解に基づいて行うことで、ビジネス目標とユーザー価値の両立を図り、継続的に選ばれる体験を設計することが可能になります。 

 

3. UIリサーチとの違い 

デジタルプロダクトの改善においては、「何を解決すべきか」を探る視点と、「どう見せ、どう操作させるか」を検証する視点の両方が求められます。その中で混同されやすいのが、UXリサーチとUIリサーチです。両者は対象や目的が異なり、役割を正しく理解しないと、調査結果を設計に十分活かせなくなります。 

UXリサーチがユーザー体験全体を捉えるための調査であるのに対し、UIリサーチは画面設計や操作要素といった視覚・操作面に焦点を当てます。どちらか一方ではなく、目的に応じて使い分けることが重要です。 

観点 

UXリサーチ 

UIリサーチ 

主な対象 利用全体の体験や行動 画面・操作要素 
関心領域 課題、動機、利用文脈 視認性、操作性、理解度 
調査目的 本質的なニーズの把握 UIの分かりやすさ検証 
実施タイミング 企画・設計の初期段階 デザイン設計後〜実装前後 
データの性質 定性情報が中心 定性・定量の両方 
改善対象 サービス構造や導線 レイアウト、色、文言 
成果物 ペルソナ、カスタマージャーニー 改善点リスト、UI修正案 
影響範囲 プロダクト全体 特定画面・機能単位 

このように、UXリサーチは「体験の方向性」を決めるための調査であり、UIリサーチは「具体的な表現や操作」を磨き込むための調査です。目的が異なるため、同じ手法や視点で代替することはできません。 

プロダクトの品質を高めるためには、UXリサーチで得た示唆を基に設計方針を定め、その上でUIリサーチを通じて細部を検証・改善していく流れが重要です。この役割分担を意識することで、調査結果を実装に確実につなげることができます。 

 

4. 主なUXリサーチ手法 

UXリサーチは、ユーザーがサービスやプロダクト全体を通じてどのような体験をしているのかを理解するための調査活動です。個々の機能や画面に限定せず、体験の流れや文脈を含めて把握することで、ユーザー視点での価値や課題を明確にします。 

画面単位の操作性や視認性に焦点を当てるUIリサーチに対し、UXリサーチでは利用前の期待、利用中の感情、利用後の評価や継続利用に至る意思決定までを含めて捉えることが求められます。これにより、表面的な使いやすさにとどまらない、体験全体の質を向上させるための判断が可能になります。 

 

4.1 ユーザーインタビュー 

ユーザーインタビューは、UXリサーチにおいて最も基本かつ重要な手法の一つです。実際の利用者に対して直接話を聞くことで、行動の背景や価値観、サービスに対する期待を深く理解できます。 

数値データだけでは把握できない「なぜその選択をしたのか」「どの瞬間に不満や満足を感じたのか」といった体験の文脈を捉えることができ、UX改善の方向性を定めるうえで重要な示唆を得られます 

 

4.2 カスタマージャーニーマップ 

カスタマージャーニーマップは、ユーザーがサービスを認知してから利用・継続・離脱に至るまでの体験を時系列で整理する手法です 

各フェーズでの行動、思考、感情、接点を可視化することで、UX上のボトルネックや改善余地を俯瞰的に把握でき、部門横断で共通認識を持つためのツールとしても有効です。 

 

4.3 アンケート調査・満足度調査 

アンケートやNPS(顧客推奨度)などの満足度調査は、多数のユーザーから広く意見を収集するための定量的UXリサーチ手法です。 

個々の体験を深く掘り下げることは難しいものの、全体傾向や変化を把握しやすく、改善施策の効果測定や課題の優先順位付けに役立ちます。 

 

4.4 行動観察・コンテキスト調査 

行動観察やコンテキスト調査は、ユーザーが実際の利用環境でどのようにサービスを使っているのかを直接観察する手法です。 

インタビューでは言語化されにくい無意識の行動や、利用環境に起因する課題を発見できるため、実態に即したUX設計を行ううえで有効です。 

 

4.5 ログ分析・定量データ分析 

利用頻度、継続率、離脱ポイントなどのログデータ分析は、UXの結果を数値として評価するための重要な手法です。 

「どこで体験が途切れているのか」「どの機能が継続利用につながっているのか」を客観的に把握でき、定性調査で得た仮説を検証する役割も果たします。 

 

4.6 ペルソナ設計 

ペルソナ設計は、複数のUXリサーチ結果を基に、代表的なユーザー像を具体化する手法です 

ユーザーの目的、課題、利用シーンを明確にすることで、UX設計や機能判断の軸がぶれにくくなり、チーム全体で一貫した体験設計を進めやすくなります。 

 

UXリサーチは、画面の使いやすさを評価するだけの取り組みではなく、ユーザー体験全体の質を継続的に向上させるための基盤となる活動です。体験の中で生まれる期待や不満、満足感の背景を理解することで、長期的な価値創出につながる判断が可能になります。 

定性・定量のリサーチ手法を組み合わせ、UIリサーチと連携させて活用することで、課題の所在と原因を多角的に捉えられます。その結果、部分的な改善にとどまらず、実効性の高いUX改善を継続的に実現できるようになります。 

 

5. UXリサーチの活用ポイント 

UXリサーチは、ユーザーの声を集めること自体が目的ではなく、プロダクトやサービス全体の体験価値を高めるための意思決定を支える基盤です。断片的な意見や感想ではなく、行動や背景を含めて構造的に捉えることで、体験設計に活かせる示唆が生まれます。 

そのためには、得られたリサーチ結果を単なる「知見」として蓄積するのではなく、要件定義や設計判断、改善施策にどのように反映させるかを明確にすることが重要です。UXリサーチを継続的な設計・改善プロセスに組み込むことで、再現性のある体験価値の向上が可能になります。 

 

5.1 課題設定を明確にしたうえで実施する 

UXリサーチを行う際は、「何を知りたいのか」「どの意思決定に使うのか」を事前に明確にすることが重要です 

目的が曖昧なままリサーチを実施すると、データは集まっても解釈が分散し、具体的な改善アクションにつながりにくくなります。仮説や課題意識を持ったうえで設計することで、リサーチの価値は大きく高まります。 

 

5.2 定性・定量データを組み合わせて解釈する 

UXリサーチでは、インタビューや観察による定性データと、ログ分析やアンケートによる定量データを併用することが有効です。 

数値だけでは把握できないユーザーの心理や文脈を定性情報で補完し、主観的な意見の偏りを定量データで検証することで、より信頼性の高い判断が可能になります。 

 

5.3 ユーザー視点とビジネス視点を切り分けて整理する 

UXリサーチの結果には、ユーザーの理想的な要望と、ビジネス上すぐに実現できない意見が混在します。 

そのため、「ユーザー価値」と「事業インパクト」を切り分けて整理し、どの課題を優先的に対応すべきかを判断することが重要です。両者のバランスを意識することで、実行可能性の高い改善につながります。 

 

5.4 チーム内で共通認識として共有する 

UXリサーチの知見は、個人や一部の担当者だけで抱え込まず、開発・デザイン・マーケティングなど関係者間で共有することが重要です。 

ユーザーの声や行動背景を共通言語として持つことで、意思決定の軸が揃い、UI設計や機能改善に一貫性が生まれます 

 

5.5 継続的な改善サイクルに組み込む 

UXリサーチは一度実施して終わりではなく、改善と検証を繰り返すサイクルの中で活用することが重要です。 

施策実施後に再度リサーチを行い、仮説が正しかったかを検証することで、UXの成熟度は段階的に高まっていきます。短期的な成果だけでなく、中長期視点での体験価値向上を意識することが求められます。 

 

UXリサーチを有効に活用するためには、調査そのものを目的化せず、目的設定からデータ解釈、関係者への共有、改善施策への反映までを一連のプロセスとして設計することが重要です。各工程が分断されていると、得られた示唆が実務に活かされず、単なる情報収集で終わってしまいます。 

リサーチ結果を意思決定に結びつけるためには、施策判断や優先順位付けに直接使える形で整理し、チームの判断軸として組み込むことが不可欠です。UXリサーチを「調査」ではなく「意思決定を支える仕組み」として運用することが、継続的に質の高いUX設計を実現する土台となります。 

 

おわりに  

UXリサーチは、ユーザー体験を構造的に理解し、設計や改善の判断精度を高めるための重要な基盤です。ユーザーの行動や感情、その背景にある文脈を把握することで、表面的な使いやすさにとどまらない、本質的なUX改善が可能になります。 

一方で、UXリサーチは実施すること自体が目的ではありません。明確な課題設定、仮説に基づく調査設計、定性・定量データの適切な解釈、そして改善施策への反映までを一連のプロセスとして運用することが不可欠です。これらが分断されると、得られた知見は意思決定に活かされず、価値を十分に発揮できません。 

UXリサーチを継続的な改善サイクルの中に組み込み、UIリサーチやデータ分析と連携させて活用することで、ユーザー価値とビジネス価値の両立が可能になります。ユーザー理解を判断の軸として持ち続けることが、長期的に信頼される体験設計を支える土台となります。