ローコードでCRMシステムを作る手順|効率的な顧客管理アプリ開発ガイド
CRM(Customer Relationship Management)は、顧客データを整理し、営業活動やマーケティング施策、アフターサポートの質を向上させるための重要な仕組みです。しかし、既存のCRM製品をそのまま導入すると「自社の業務フローに合わない」「機能が多すぎて使われない」といった問題が起こることがあります。加えて、従来のカスタム開発は高コスト・長期化のリスクがあり、中小企業やスタートアップにとっては導入のハードルが高いものでした。
この課題を解決する手段として注目されているのがローコード開発による自社専用CRMの構築です。ローコードであれば、非エンジニアを含むチームでも短期間で必要な機能を備えたCRMを作ることができ、運用後の改善や拡張も柔軟に行えます。本記事では、その手順をわかりやすく段階的に解説します。
1. 要件定義とシステム設計
最初のステップは「どのようなCRMを作るのか」を明確にする要件定義と設計です。これを疎かにすると、せっかくシステムを作っても現場で利用されない可能性が高まります。
ステップ | 内容 | 具体例 |
目的設定 | 解決すべき業務課題を特定 | 顧客データの分散を防ぎ、一元管理を実現 |
利用者特定 | どの部署・役職が利用するか明確化 | 営業部、サポート部門、マネジメント |
必須機能の洗い出し | 業務に直結する最小限の機能を決定 | 顧客登録、商談管理、レポート機能 |
データ設計 | どの情報を管理し、どう関連付けるかを定義 | 顧客基本情報、案件ステータス、購入履歴 |
運用フロー設計 | 実際の業務手順に沿った利用シナリオを整理 | 新規顧客登録→商談進行→成約→アフターサポート |
拡張性の検討 | 将来的に追加される機能やユーザー数増加を考慮 | API連携を前提に設計、クラウド基盤を選択 |
評価基準の設定 | 成功を判断するためのKPIを明確化 | 顧客対応スピード短縮率、営業成約率の向上 |
ポイントは「すべてを最初から作ろうとしない」ことです。MVP(Minimum Viable Product)の考え方を取り入れ、まずは必要最低限の機能を実装し、利用者のフィードバックを得ながら拡張していくのが成功の近道です。
2. ローコードツールの選定
次に、CRM開発に適したローコードツールを選びます。ツール選びはプロジェクトの方向性を大きく左右するため、慎重な検討が必要です。
ツール | 特徴 | 適用シーン |
Microsoft Power Apps | Microsoft 365と統合しやすく、社内データと連携可能 | 既にOffice環境を利用している企業 |
OutSystems | エンタープライズ規模の開発に対応、拡張性が高い | 大企業や複雑な業務フローを持つ組織 |
Mendix | 柔軟なUI設計と多様な拡張性 | 中規模〜大規模CRMのカスタム構築 |
kintone | 国産で扱いやすく、テンプレートも豊富 | 中小企業のスピード導入 |
Retool | データ操作や管理画面構築に強い | 内部ツールや社内CRMに最適 |
選定の基準は 「利用者のITリテラシー」「既存システムとの親和性」「必要な拡張性」 の3点です。例えば営業チーム主体なら操作性を重視し、全社的に使うなら拡張性や統合性を重視するとよいでしょう。
3. データベースとUI設計
CRMの価値を決めるのは「データベースの設計」と「使いやすいUI」です。どんなに機能が多くても、入力しにくければデータが蓄積されず、システムは形骸化してしまいます。
3.1 データベース設計
顧客、案件、活動履歴などのエンティティを設計し、それぞれをリレーションでつなぎます。顧客データと案件データを関連付けることで「この顧客の過去の商談履歴」がすぐ確認できるようになります。
3.2 UI設計
UIは「利用者が迷わず操作できること」が最優先です。営業担当者は案件一覧を最初に見たい、サポート担当者は問い合わせ履歴をすぐに確認したい、マネジメント層はダッシュボードで進捗を把握したい、など役割ごとに設計を工夫します。
画面 | 設計例 |
顧客管理画面 | 顧客情報+やり取り履歴を1画面に集約 |
案件管理画面 | カンバン形式で案件ステータスを直感的に管理 |
レポート画面 | 営業実績やKPIをグラフ化して可視化 |
通知画面 | 重要な更新(新規案件、顧客からの返信など)を即座に把握できるように設計 |
検索・フィルター画面 | 顧客や案件を条件指定で素早く絞り込めるようにする |
設定画面 | ユーザー権限や表示カスタマイズを簡単に操作できるようにする |
4. 実装ステップ
設計が固まったら、実際にローコードツールで実装します。
4.1 フォームと画面作成
ドラッグ&ドロップで顧客登録フォームや案件一覧画面を作成します。ツールに備わる標準コンポーネントを活用することで、短時間で完成度の高い画面を構築できます。
4.2 ビジネスロジック設定
商談が一定期間停滞したら自動通知、重要顧客が更新されたらチーム全体に共有、といったワークフローをGUIで設定します。これにより現場の作業を自動化し、CRMが「便利だから使う」存在になります。
4.3 外部サービス連携
CRMは単独で完結するものではなく、メールやチャット、会計ソフトなどと連携することで真価を発揮します。Slack通知やGmail連携、会計ソフトとの同期などを設定し、業務の中心として機能させます。
4.4 権限管理とセキュリティ設定
営業担当・マネージャー・管理者などの役割に応じて閲覧権限や編集権限を設定します。情報漏洩防止や内部統制の観点からも必須のステップです。
4.5 テストとフィードバック
実装後は、実際の営業・サポート担当に試用してもらい、操作性や不具合を確認します。小規模なユーザーテストを繰り返し、改善点を迅速に反映させることで現場に浸透しやすくなります。
5. コード例:ローコード+カスタムの実践
ローコードではGUI操作が中心ですが、必要に応じて小さなコードを組み合わせることで、業務にフィットしたCRMを作れます。
5.1 入力チェック(kintone / JavaScript)
(function() {
"use strict";
kintone.events.on('app.record.create.submit', function(event) {
var phone = event.record['顧客電話番号'].value;
if (!phone) {
event.error = "顧客電話番号は必須入力です。";
}
return event;
});
})();
フォームに必須項目を設定し、入力漏れを防ぎます。
5.2 案件成約時のSlack通知(Node.js / Retool + Slack API)
const { WebClient } = require('@slack/web-api');
const web = new WebClient(process.env.SLACK_TOKEN);
async function notifyDealClosed(deal) {
await web.chat.postMessage({
channel: '#sales',
text: `🎉 新しい契約が成立しました!\n顧客名: ${deal.customer}\n金額: ${deal.amount}円`
});
}
契約成立をチーム全体に即時共有できます。
5.3 顧客一覧のダッシュボード表示(SQL / Power Apps + Azure SQL)
SELECT CustomerID, CompanyName, ContactName, Phone, LastPurchaseDate
FROM Customers
ORDER BY LastPurchaseDate DESC;
最新購入履歴を基にしたダッシュボードをローコードで作成可能。
5.4 問い合わせ自動返信メール(Power Automate)
<html>
<body>
<p>{{顧客名}} 様</p>
<p>この度はお問い合わせいただきありがとうございます。</p>
<p>担当者より {{対応期限}} までにご連絡いたします。</p>
</body>
</html>
顧客への初期対応を自動化し、信頼性を高めます。
6. 運用と改善
CRMはリリースして終わりではなく、運用を通じて成長していくシステムです。
フェーズ | 活動内容 | 成果 |
初期運用 | 利用者からフィードバックを収集 | UI改善・入力率向上 |
定着期 | KPI(利用率・入力率)をモニタリング | システム利用の習慣化 |
改善期 | 新機能追加や高度な分析機能を導入 | CRMを経営基盤として拡張 |
ローコードの強みは「変更が容易」な点です。利用データに基づいて改善を繰り返すことで、システムが業務に自然に溶け込み、長期的に価値を発揮します。
おわりに
ローコードでCRMシステムを作ることは、従来のシステム導入に比べて短期間・低コストで実現可能です。さらに運用後の改善も柔軟に行えるため、変化の激しい市場環境にも対応できます。
重要なのは「最初から完璧を目指さず、必要最小限で始め、改善を繰り返す」姿勢です。そうすることでCRMは単なる顧客管理ツールではなく、企業の成長を支える戦略的資産となるでしょう。