顧客体験(CX)が注目される背景・測定指標・改善ツールを徹底解説
現代の企業経営において、製品や価格だけで差別化する時代は終わりつつあります。市場のコモディティ化が進む中、消費者は機能的価値よりも「体験的価値」を重視する傾向が強まっています。これにより、顧客体験(CX)が企業戦略の中心的テーマとして注目されるようになっています。
さらに、SNS、モバイルアプリ、実店舗、コールセンターなど、顧客との接点はますます多様化しています。この多様化は一貫した体験設計の重要性を高め、企業にとってCXの戦略的管理は避けて通れない課題となっています。
また、サブスクリプションモデルの拡大により、顧客の解約率低減と収益安定化が直結する構造が生まれています。優れたCXは解約率を下げ、LTVを高める生命線となるため、単なるマーケティング施策ではなく、経営全体の競争力を左右するテーマとなっています。
1. CXが注目される背景
CX(カスタマーエクスペリエンス)は製品や価格競争の限界を背景に、マーケティングを超えて経営戦略の中心へと位置づけられるようになっています。

- 市場のコモディティ化:製品や価格差での競争が限界に達し、差別化の源泉が「体験」に移行しています。顧客は「機能的価値」ではなく「体験的価値」を基準にブランドを選ぶ傾向を強めています。
- 顧客接点の多様化:SNS、モバイルアプリ、実店舗、コールセンターと顧客接点は増え続けています。この多様化は一方で複雑性を生み、一貫したCX設計の重要性を増大させています。
- サブスクリプションモデルの拡大:解約率の低減=収益安定化という直結した構造を持つサブスクにおいて、CXは生命線です。優れたCXは解約率を下げ、LTVを高めます。
これらの背景からCXは単なるマーケティング戦略ではなく、経営全体を左右するテーマとなっています。
2. CXを測定する代表的な指標
顧客体験(CX)は定性的に語られることが多い一方で、企業が改善活動を効果的に進めるためには、客観的な『指標』による測定が欠かせません。ここでは、代表的な3つの指標であるNPS、CES、CSATについて、それぞれの特徴や活用法を解説します。

2.1 NPS(ネット・プロモーター・スコア)
NPSは、世界中の企業で広く活用されているロイヤルティ指標であり、CX改善の基本ともいえる存在です。単なる満足度ではなく、顧客が他者へ薦めたいかどうかを測る点で、将来の行動を予測できる指標として注目されています。
NPS = 推奨者割合 − 批判者割合
項目 | 内容 |
測定対象 | 顧客が「他者に薦めたいか」という推奨意向 |
測定方法 | 0〜10点で評価し、推奨者・中立者・批判者に分類。 |
活用の意義 | 長期的な顧客ロイヤルティやLTVと相関が強く、企業成長性の指標として投資家や経営層が重視する。 |
活用事例 | サブスク解約率の低下施策、ブランド評価測定、国際的市場での比較分析。 |

NPSは顧客の「未来の行動意欲」を数値化することで、企業にとって持続的な成長戦略を描く際の羅針盤となります。
2.2 CES(カスタマーエフォートスコア)
顧客は「感動体験」よりも「ストレスなく目的を達成できること」を強く望む場合があります。CESは、この観点から顧客の負担を数値化し、離脱リスクを予測するために用いられる指標です。
CES = 回答の総和/合計回答数
項目 | 内容 |
測定対象 | 顧客が問題解決や購入に必要とした「労力」 |
測定方法 | 「どの程度の労力がかかりましたか?」を5〜7段階で評価。低スコア=努力が少なく良い体験。 |
活用の意義 | サポートや購入プロセスのボトルネックを特定し、ストレス要因を排除できる。 |
活用事例 | チェックアウトプロセス改善、FAQ整備による自己解決率向上、カスタマーサポート効率化。 |
CESを継続的に測定することで、顧客体験に潜む「隠れた摩擦」を発見し、離脱防止や満足度向上に直接結びつけられます。
2.3 CSAT(顧客満足度スコア)
顧客が特定の接点や体験に対して、どの程度満足しているのかをシンプルに測定できるのがCSATです。直感的でわかりやすく、現場レベルでの改善に直結する指標として長年利用されてきました。
項目 | 内容 |
測定対象 | 製品・サービス、または接点に対する「満足度」 |
測定方法 | 「満足しましたか?」を4〜5段階で評価。 |
活用の意義 | 短期的な改善効果を即時に把握でき、現場施策の評価に適する。 |
活用事例 | 購入直後のアンケート、カスタマーサポート対応後の評価、セミナー参加者調査。 |
CSATスコア = (満足と回答した顧客数 ÷ 全回答者数) × 100
CSATは「今この瞬間」の体験を把握するのに最適であり、CX改善の出発点として活用価値の高い指標です。
NPS・CES・CSATはいずれも顧客体験の重要な断面を数値化する指標ですが、測定対象や目的は異なります。NPSは長期的なロイヤルティ、CESはストレス度合い、CSATは短期的な満足度を測るため、互いに補完し合う関係にあります。
したがって、企業はこれらを単独で使うのではなく、組み合わせて運用することが効果的です。多面的な視点からCXを把握することで、改善施策の優先順位を明確にし、持続的に顧客体験を高める戦略的な判断が可能となります。
3. CX改善に役立つツール
CX改善を実現するには、顧客理解の深化から体験のリアルタイム最適化までを支える「ツール」の活用が不可欠です。ここでは代表的な4種類のツールを、表形式で整理しながら詳しく解説します。
3.1 CRM(顧客管理システム)
CRMは顧客データを一元管理し、営業・マーケティング・サポートなど複数部門での活用を可能にします。顧客接点を横断的に把握することで、一貫したコミュニケーションを提供でき、結果としてCX全体の向上に直結します。

項目 | 内容 |
代表例 | Salesforce, Microsoft Dynamics 365, Zoho CRM |
役割 | 顧客情報や接点を一元管理し、部門間で共有 |
特徴 | 購買履歴・問い合わせ履歴・行動ログを集約して「顧客360度ビュー」を提供 |
メリット | 一貫性のある対応が可能になり、顧客満足度と信頼性が向上 |
CRMは、全社的に顧客情報を共有することで「どこでも一貫した体験」を実現できる、CX改善の基盤となるツールです。
3.2 MA(マーケティングオートメーション)
MAは、見込み顧客を効率的に育成し、購買意欲を高めるための自動化ツールです。行動データを活用して適切なタイミングで施策を打つことができ、パーソナライズされた体験の提供に直結します。

項目 | 内容 |
代表例 | HubSpot, Marketo, Pardot |
役割 | 見込み顧客の獲得・育成を自動化 |
特徴 | ユーザー行動をスコアリングし、シナリオに沿ったメール配信や広告配信を実現 |
メリット | 顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーションを実施し、購買率を向上 |
MAは「適切なタイミングで適切な情報を届ける」ことを可能にし、顧客育成から購入に至るまでの体験を滑らかに支える存在です。
3.3 CDP(カスタマーデータプラットフォーム)
CDPは、オンラインとオフラインに散在するデータを統合し、顧客像を立体的に可視化します。CRMやMAでは不十分だった匿名ユーザーの行動まで統合でき、オムニチャネルでの高度なパーソナライゼーションが可能になります。

項目 | 内容 |
代表例 | Treasure Data, Segment, Tealium |
役割 | 社内外に分散する顧客データを横断的に統合 |
特徴 | 匿名ユーザーの行動データも含めて個人単位で名寄せが可能 |
メリット | 顧客像を360度で把握し、CX施策の精度を向上 |
CDPは「分断された顧客データ」を統合し、より精緻で実効性の高いCX施策を展開するための強力な基盤となります。
3.4 CXプラットフォーム
CXプラットフォームは、CX改善に特化したツール群で、リアルタイムに顧客行動を解析し、即時にアクションを取れる点が最大の特徴です。サポート・パーソナライズ施策を統合的に管理できるため、CXの質を高める即効性があります。

項目 | 内容 |
代表例 | Zendesk, KARTE, Qualtrics |
役割 | 顧客体験をリアルタイムに測定・改善 |
特徴 | 問い合わせ一元管理、行動解析、ポップアップやチャットで即時対応 |
メリット | その場で顧客の課題を解決し、CX全体の満足度を大幅に改善 |
CXプラットフォームは「今この瞬間の顧客体験」を改善する実行力を持ち、CXをリアルタイムで最適化するための最前線ツールです。
3.5 ツール選定のポイント
CRM・MA・CDP・CXプラットフォームはそれぞれ強みが異なるため、自社の目的に応じて段階的に導入するのが理想です。まずは基盤となるCRMを整備し、MAでリードを育成、CDPでデータを統合し、最後にCXプラットフォームで体験をリアルタイムに改善する――この流れが最も効果的と言えます。
ツールの導入は単なるシステム選定ではなく、CX戦略全体の設計に直結します。目的とフェーズに応じて最適なツールを組み合わせることが成功の鍵となります。
おわりに
CXは長期的な顧客ロイヤルティの向上や離脱防止に直結するだけでなく、企業全体の成長戦略を支える重要な指標です。NPS、CES、CSATといった多面的な指標を活用し、顧客の「未来の行動意欲」や「体験のストレス度合い」「満足度」を正確に把握することが、改善施策の優先順位を明確にする鍵となります。
さらに、CRM、MA、CDP、CXプラットフォームなどのツールを組み合わせることで、顧客体験をリアルタイムで最適化できます。これにより、一貫性のあるサービス提供とパーソナライズ体験を実現し、持続的な顧客満足度向上と企業成長を同時に達成することが可能となります。