ユーザーリサーチの代表的な手法15選
プロダクトやWebサービスを改善するとき、社内の担当者だけで「ユーザーはきっとこう考えるはず」「この機能を追加すれば便利になるはず」と推測しながら意思決定を進めてしまうことがあります。しかし、開発者や企画担当者が想定している使い方と、実際のユーザーが置かれている状況や行動には、大きな違いがあることも珍しくありません。機能を追加したにもかかわらず利用率が上がらない、画面構成を変更したのに離脱率が改善しない、問い合わせ件数が減らないといった問題は、必ずしも実装品質だけが原因ではなく、ユーザーについて十分な理解ができていない状態で施策を決めていることが原因になっている場合があります。
そこで重要になるのがユーザーリサーチです。ユーザーリサーチでは、実際のユーザーやターゲットに近い人々の行動、課題、価値観、利用環境、意思決定プロセスなどを調べ、プロダクト開発やUX改善の判断材料として活用します。ただし、ユーザーリサーチには一つの万能な手法が存在するわけではありません。ユーザーがどのような課題を抱えているのか深く知りたい場合と、どのUI案の方が高い成果につながるのか数値で比較したい場合では、必要となる情報も調査方法も大きく異なります。
例えば、ユーザーインタビューでは「なぜその行動を取ったのか」「そのとき何を不安に感じていたのか」といった背景や動機を深く理解しやすい一方、アクセス解析では「何人のユーザーがどの画面で離脱しているのか」「どの機能が実際によく使われているのか」を大量の行動データから確認できます。さらに、ユーザビリティテスト、行動観察、日記調査、カードソーティング、A/Bテストなどを組み合わせることで、一つの手法だけでは捉えにくいユーザーの実態を多角的に把握できます。
重要なのは、最初から「インタビューをしよう」「アンケートをしよう」と手法を決めるのではなく、まず「何を知りたいのか」「その結果をどの意思決定に使いたいのか」を明確にすることです。同じプロダクトでも、企画初期、設計段階、リリース前、リリース後では調査目的が異なるため、適切なリサーチ方法も変化します。
本記事では、プロダクト開発やUX改善で活用される代表的な15のユーザーリサーチ手法について、それぞれの特徴、適している目的、実施方法、注意点を詳しく解説します。また、定性調査と定量調査の違いや、複数手法をどのように組み合わせれば実際の改善につなげやすいかについても整理します。
1. ユーザーインタビューでニーズや課題を深掘りする
ユーザーインタビューは、対象ユーザーと直接会話し、その人がどのような経験をしているのか、何に困っているのか、どのような価値観や判断基準を持っているのかを深く理解するための定性調査です。アンケートのように、あらかじめ決められた選択肢から回答を得るのではなく、参加者の発言に応じて質問を掘り下げられるため、調査する側が事前には想定していなかったニーズや課題を発見しやすいという特徴があります。
特に、新しいサービスを企画している段階や、既存サービスに何らかの問題があることは分かっているものの、その原因を十分に特定できていない段階で有効です。例えば、アクセス解析によって「会員登録ページの離脱率が高い」という事実は確認できても、それだけでは入力項目が多すぎるのか、個人情報を入力することに不安を感じているのか、料金体系が理解できないのかまで判断することはできません。ユーザーインタビューによって実際の経験を詳しく聞くことで、数値の背後にある理由を理解しやすくなります。
1.1 実際の経験を中心に質問する
ユーザーインタビューでは、「この機能があったら使いますか」「こういうサービスがあれば便利だと思いますか」といった未来の仮定を中心に質問するよりも、「最後にこの作業を行ったのはいつですか」「そのとき最初に何をしましたか」「途中で何に困りましたか」のように、過去の具体的な経験について質問することが重要です。
ユーザー自身も、自分が将来どのような行動を取るのかを正確に予測できるとは限りません。インタビューでは「使いたい」と答えていたとしても、実際にサービスが提供された際には利用しない場合があります。そのため、単純な利用意向だけではなく、現在ユーザーがどのような方法で課題を解決しているのか、その問題がどの程度の頻度で発生しているのか、現在の方法にどれほど不満を感じているのかまで確認することが重要です。
例えば、「ホテル予約が面倒です」という発言があった場合、その言葉をそのまま課題として扱うのではなく、「どの部分が一番面倒でしたか」「前回予約したときはどのサービスを使いましたか」「どの程度時間がかかりましたか」「途中で他のサイトを確認しましたか」と掘り下げていくことで、本当に改善すべきポイントが見えやすくなります。
1.2 誘導質問を避ける
インタビューでは、質問の仕方によって参加者の回答が大きく変化します。「この画面は使いやすいですよね」「この新しい機能は便利だと思いませんか」と質問すると、ユーザーは調査担当者の期待に合わせて肯定的な回答をしてしまう可能性があります。
そのため、「この画面を見て最初にどう感じましたか」「このあと何をしようと思いましたか」「この説明をどのように理解しましたか」といった中立的な質問を使うことが重要です。ユーザーへ正しい答えを求めるのではなく、ユーザー自身の認識や判断プロセスを理解することがユーザーインタビューの目的です。
また、参加者が答えた直後に次の質問へ進むのではなく、「もう少し詳しく教えてください」「それはなぜですか」「具体的な例はありますか」と掘り下げることで、最初の回答だけでは見えなかった背景を理解できる場合があります。
2. アンケート調査で多くのユーザーから情報を集める
アンケート調査は、多数のユーザーへ同じ質問を提示し、回答を集めることで、ユーザー全体の傾向や割合を把握するための代表的な定量調査です。ユーザーインタビューが一人ひとりの経験や背景を深く理解することに向いているのに対し、アンケートでは「どの程度のユーザーが同じ問題を抱えているのか」「どの機能が多く利用されているのか」といった規模を確認できます。
例えば、5人のユーザーへインタビューしたところ、全員が検索機能について不満を話したとしても、それだけで「すべてのユーザーが検索機能に困っている」と判断することはできません。そこで、より多くのユーザーを対象としたアンケートを実施し、検索機能に関する問題がどの程度広く発生しているのかを確認することで、改善施策の優先順位を判断しやすくなります。
2.1 定量的な傾向を確認する
アンケートでは、どの機能を最も頻繁に使用しているか、サービス全体への満足度はどの程度か、どのような問題を感じているか、継続利用する意向があるかなどを、多数のユーザーから同じ形式で収集できます。
回答結果を集計すると、「全体の40%が検索機能に不満を持っている」「新規ユーザーでは登録画面への不満が多い」「既存ユーザーでは機能の見つけにくさが問題になっている」といった傾向を把握できます。このように属性や利用状況ごとに回答を分析することで、ユーザーを一つの集団として扱うのではなく、セグメントごとの違いを理解できるようになります。
ただし、選択肢として用意されていない問題は結果に表れにくいため、アンケートを設計する側が持っている仮説だけに回答範囲を限定しないことも重要です。必要に応じて自由記述欄を設け、新しい課題を発見できる余地を残しておくと効果的です。
2.2 質問を増やしすぎない
ユーザーについて多くのことを知りたいからといって、質問を過剰に増やすことは適切ではありません。アンケートが長時間になると、回答者が途中で離脱したり、後半になるにつれて十分に考えず回答したりする可能性があります。
そのため、それぞれの質問について「この回答を得たあと、どのような意思決定を行うのか」を明確にしておく必要があります。結果を得ても何の施策にも使わない質問や、「一応知っておきたい」という理由だけで追加された項目は、回答者の負担を増やすだけになる場合があります。
特にスマートフォンから回答するユーザーが多い場合には、入力項目数、自由記述量、画面スクロール量なども考慮し、短時間で無理なく回答できる設計にすることが重要です。
3. ユーザビリティテストで使いにくい箇所を発見する
ユーザビリティテストでは、実際のユーザーやターゲットに近い参加者へ具体的なタスクを依頼し、その操作プロセスを観察します。インタビューでは「使いやすいです」と回答したユーザーであっても、実際に操作してもらうと、どのボタンを押せばよいか分からなかったり、同じページを何度も行き来したりすることがあります。
このように、ユーザーが自分自身について語る内容と、実際に取る行動は必ずしも一致しません。ユーザビリティテストでは、ユーザー本人が明確に「使いにくい」と認識していない問題も、操作上の迷いやミスとして発見できます。
3.1 実際の利用目的に近いタスクを設定する
ユーザビリティテストでは、「このボタンを押してください」「右上にある予約メニューを選択してください」と操作方法を直接説明してしまうと、ユーザーが自分自身で情報を探す過程を確認できなくなります。
代わりに、「来週の大阪出張で利用するホテルを探して予約してください」「家族4人が宿泊できるプランを探してください」のように、実際の利用場面に近い目的を提示します。
そうすることで、ユーザーが最初にどこを見るのか、どのメニュー名を理解できないのか、価格とレビューのどちらを先に確認するのか、どの段階で迷うのかといった自然な操作プロセスを観察できます。
3.2 成功・失敗だけで判断しない
ユーザビリティテストでは、タスクを最終的に完了できたかどうかだけで判断してはいけません。最終的には購入まで進めていたとしても、途中で何度も前の画面へ戻る、誤ったメニューを選択する、説明文を何度も読み返すといった行動が発生している場合には、UX上の問題が残っています。
そのため、タスク完了率だけでなく、完了までの時間、誤操作の回数、戻る操作の回数、迷った場所、発話内容なども確認します。ユーザーが「どこで認知的な負荷を感じているのか」まで分析することによって、単純な成功・失敗以上に具体的な改善ポイントを発見できます。
4. 行動観察で実際の利用状況を理解する
行動観察は、ユーザーが実際の利用環境で製品やサービスをどのように使用しているのかを直接観察する調査方法です。インタビューでは、ユーザー本人が覚えている行動や、自分自身で重要だと認識していることしか聞き出せない場合があります。
一方、実際の作業を観察すると、本人にとっては日常的すぎて説明する必要すらないと思っている行動や、無意識に行っている工夫を発見できます。こうした情報は、ユーザー本人が明確な「要望」として伝えないため、通常のアンケートやインタビューだけでは見つけにくいものです。
4.1 発言と実際の行動の違いを見る
ユーザーが「いつもこのシステムだけで作業しています」と説明していても、観察すると途中でExcelへ情報をコピーしていたり、紙へメモを書いていたり、別のWebサービスを開いたりすることがあります。
これはユーザーが意図的に事実と異なる説明をしているのではなく、その行動が日常化しているため、自分自身でも一つの作業として認識していない可能性があります。
行動観察では、こうした発言と実際の行動の違いを確認し、「なぜ現在のプロダクトだけでは作業が完了しないのか」「ユーザーがどの部分を他のツールで補っているのか」を分析することが重要です。
4.2 利用環境も確認する
BtoBサービスや業務システムでは、ユーザーと画面だけを観察しても十分ではありません。実際には、電話対応をしながら入力している、複数のディスプレイを使用している、紙の書類を確認している、同僚へ頻繁に確認しているといった環境要因がUXへ大きな影響を与えていることがあります。
このような利用環境を無視して画面だけを改善すると、見た目は使いやすくなっても、実際の業務効率は改善しない場合があります。
そのため、行動観察ではユーザー単体ではなく、使用しているツール、周囲の人、物理的な環境、業務フローまで含めて観察することが重要です。
5. コンテキスチュアル・インクワイアリーで業務の背景を理解する
コンテキスチュアル・インクワイアリーは、ユーザーが実際に作業している環境へ入り、その行動を観察しながら必要な質問を行う調査手法です。一般的なユーザーインタビューでは、過去に起きた出来事を記憶から説明してもらうことが多いですが、コンテキスチュアル・インクワイアリーでは「今まさに行われている仕事」を対象にします。
そのため、複雑な業務フローを持つBtoBシステムや、医療、物流、製造、金融など、専門知識や現場独自のルールが多い領域で特に有効です。
5.1 作業しながら説明してもらう
「普段の仕事の流れを説明してください」と質問するだけでは、ユーザーが重要だと考えている工程だけが説明され、日常的な細かな処理は省略される場合があります。
一方、実際に作業してもらいながら「なぜここでExcelを開くのですか」「この値をなぜ紙へ書き写しているのですか」「このタイミングで誰へ確認しているのですか」と質問すると、通常のインタビューでは出てこない判断基準や手作業を発見できます。
特に業務システムを新しく設計する場合には、こうした細かな作業を理解することで、単に現在の画面をデジタル化するのではなく、業務そのものを効率化できる設計につなげられます。
5.2 暗黙的な業務ルールを発見する
実際の職場には、業務マニュアルには記載されていないものの、現場では全員が当然のように実行しているルールが存在することがあります。
例えば、「重要顧客の場合は必ず担当マネージャーへ確認する」「月末だけ別の処理方法を使用する」「特定の条件ではシステムではなく電話で確認する」といったルールです。
こうした暗黙知を理解せずシステムを設計すると、正式な業務フローは実装できても、実際の現場では使えないシステムになってしまう可能性があります。
6. 日記調査で長期間の行動や感情を把握する
日記調査は、数日から数週間、場合によってはそれ以上の期間にわたって、ユーザー自身に日々の行動、利用状況、感情などを記録してもらう調査方法です。
短時間のインタビューやユーザビリティテストでは、ある一時点の行動しか確認できません。しかし、健康管理、学習、金融、家計管理、習慣形成などのサービスでは、時間経過によってユーザーの行動やモチベーションが変化します。
6.1 長期的な利用パターンを確認する
例えば学習アプリでは、利用開始初日は積極的に勉強していたユーザーが、1週間後にはほとんど利用しなくなることがあります。1回だけのユーザビリティテストでは、このような継続利用上の問題を発見できません。
日記調査を実施すると、「忙しい日は使用しない」「通知が来ると利用する」「週末だけまとめて学習する」「数日間使わないとそのまま離脱してしまう」といった時間軸上の行動パターンを理解できます。
こうした情報をもとに、単純な画面改善だけでなく、通知タイミング、継続支援、リマインド、目標設定など、サービス全体の体験を改善できます。
6.2 記録負担を小さくする
日記調査で毎日長い文章を書いてもらうと、参加者の負担が大きくなり、途中で記録をやめたり、後半になるほど内容が簡略化されたりする可能性があります。
そのため、「今日は利用しましたか」「どのタイミングで使いましたか」「困ったことはありましたか」といった短い質問、選択式回答、写真、スクリーンショットなどを組み合わせることが効果的です。
調査側が欲しい情報量だけで設計するのではなく、参加者が無理なく継続できる記録形式にすることが、日記調査の品質を高める重要なポイントです。
7. フォーカスグループで複数ユーザーの意見を比較する
フォーカスグループは、複数の対象ユーザーを一つの場へ集め、特定のテーマについて意見交換してもらう調査方法です。一対一のインタビューでは一人の経験を深く掘り下げられる一方、フォーカスグループでは複数人の価値観や考え方の違いを比較できます。
特に、新しいサービスコンセプトへの反応を探索したい場合や、ユーザーによって評価基準がどのように異なるかを把握したい場合に活用できます。
7.1 意見同士の反応を観察する
ある参加者が「価格が一番重要です」と話したとき、別の参加者が「私は価格よりサポートを重視します」と反応することがあります。
このようなやり取りを見ることで、単独のインタビューでは見えにくい価値観の違いや判断基準を把握できます。また、他の参加者の発言を聞くことで自分自身の経験を思い出し、新しい話題が生まれることもあります。
したがって、フォーカスグループでは各参加者の発言内容だけでなく、参加者同士がどのように反応するのかを見ることも重要です。
7.2 強い発言者の影響に注意する
一方、フォーカスグループにはグループダイナミクスによるバイアスがあります。発言力の強い参加者が会話を支配すると、他の参加者が自分の意見を話しにくくなったり、周囲に合わせて回答したりする可能性があります。
そのため、モデレーターは特定の人だけに発言が集中しないように進行し、必要に応じて「○○さんはどう思いますか」と個別に意見を求める必要があります。
フォーカスグループの結果を「全ユーザーの意見」としてそのまま一般化しないことも重要です。
8. カードソーティングで情報構造を設計する
カードソーティングは、Webサイトやアプリに含まれる情報、機能、コンテンツなどをカードとして提示し、参加者に分類してもらうことで、ユーザーがどのように情報を整理しているのかを理解する調査方法です。
企業側の組織構造やサービス分類と、ユーザーの頭の中の分類が一致しているとは限りません。そのため、Webサイトのメニュー構造やカテゴリー設計を検討するときにカードソーティングが有効です。
8.1 オープン型でユーザーの分類方法を見る
オープン型カードソーティングでは、参加者自身がカードをグループ分けし、それぞれのグループ名も自由に決めます。
例えば企業側では「サービス」「契約」「サポート」と分類していた情報を、ユーザーは「使い始める」「料金について」「困ったとき」と分類するかもしれません。
このように、ユーザーが自然にどのような概念で情報を整理しているのかを把握できるため、新しいWebサイトやサービスの情報構造を考える初期段階で役立ちます。
8.2 クローズド型で既存構造を検証する
クローズド型カードソーティングでは、あらかじめカテゴリーを用意し、ユーザーへ各カードをどのカテゴリーへ分類するか選んでもらいます。
すでに情報構造の案が存在しており、それがユーザーにとって理解しやすいかを検証したい場合に適しています。
複数の参加者が同じカードを異なるカテゴリーへ分類する場合、そのカテゴリー名称や情報の位置がユーザーにとって曖昧である可能性があります。
9. ツリーテストでナビゲーション構造を検証する
ツリーテストは、Webサイトの画像、色、ボタンデザインなどを取り除き、カテゴリー名と階層構造だけをユーザーへ提示して、目的の情報まで正しく到達できるかを確認する調査方法です。
完成されたWebページではなく、情報構造そのものを評価できるため、メニューやナビゲーション設計を検証するときに利用されます。
9.1 見た目に影響されず情報構造を評価する
通常のWebサイトでユーザビリティテストを行うと、ユーザーは色、ボタンの大きさ、画像などの視覚的な要素に影響されます。
ツリーテストではこうしたデザイン要素を排除するため、「カテゴリー名が理解できるか」「この情報がどこにあるとユーザーが予想するか」といった情報アーキテクチャそのものを評価できます。
見た目を改善する前に情報構造の問題を特定できる点が大きな特徴です。
9.2 成功率と経路を分析する
ツリーテストでは、最終的に正しい情報へ到達した割合だけを見るのではなく、最初にどのカテゴリーを選んだか、途中でどのような経路をたどったかまで分析します。
多くの参加者が同じ誤ったカテゴリーへ進む場合、ユーザーの認識と設計者の分類方法が一致していない可能性があります。
この場合、単に情報の位置を変更するだけでなく、カテゴリー名称自体を変更する必要があることもあります。
10. コンセプトテストでアイデアの受容性を確認する
コンセプトテストは、新しいサービス、機能、料金プランなどのアイデアを本格的に開発する前にユーザーへ提示し、その価値や理解度、利用可能性を確認する方法です。
実装に大きなコストをかける前に方向性を確認できるため、新規事業や新機能開発の初期段階で特に有効です。
10.1 完成品を作る前に仮説を確認する
新しい機能を数か月かけて開発したあとに、ユーザーがほとんど必要としていなかったことが判明すると、大きなコストと手戻りが発生します。
そこで、説明資料、簡単な画面モック、ストーリーボード、ランディングページなどを利用し、実装前にユーザーの反応を確認します。
この段階で価値が伝わらない場合には、実装方法を調整するだけでなく、コンセプト自体を見直す判断も可能です。
10.2 「欲しいか」だけで判断しない
「この機能が欲しいですか」と質問すると、多くの人が肯定的な回答をする可能性があります。しかし、「あるなら使いたい」と「現在のサービスから乗り換えるほど必要」は同じではありません。
そのため、ユーザーが現在どのような方法で課題を解決しているのか、その方法にどの程度不満を感じているのか、新しい方法へ変更するコストを上回る価値があるのかまで確認する必要があります。
コンセプトテストでは「好きかどうか」よりも、「実際の行動を変えるほどの価値があるか」を見ることが重要です。
11. プロトタイプテストで設計案を早期検証する
プロトタイプテストは、完成前の画面や操作フローをユーザーへ提示し、実際に操作してもらうことで設計上の問題を早期に発見する方法です。
実装完了後に大きなUX問題が見つかると、デザインだけでなくフロントエンドやバックエンドまで修正が必要になることがあります。プロトタイプ段階で検証しておけば、比較的小さなコストで方向を修正できます。
11.1 必要な精度だけ作る
プロトタイプは、常に完成品に近い高精度なものを作る必要はありません。
情報構造や画面遷移を確認したい段階であれば、紙や簡単なワイヤーフレームでも十分です。一方、色、タイポグラフィ、視覚的な優先順位、アニメーションなどを確認したい場合には、より高精度なプロトタイプが必要になります。
重要なのは、「何を検証したいのか」を明確にして、その検証に必要なレベルだけ作ることです。
11.2 操作フローを中心に確認する
プロトタイプテストでは、「このデザインが好きですか」と好みだけを聞くのではなく、「目的の操作を迷わず完了できるか」を確認することが重要です。
社内のデザイナーや開発者にとっては当然に見える操作でも、初めて使うユーザーには理解できない可能性があります。
ユーザーがどこで止まったのか、何を期待してクリックしたのか、どの情報を見落としたのかを観察することで、本格開発前に改善できます。
12. アクセス解析で実際のユーザー行動を定量的に把握する
アクセス解析は、Webサイトやアプリケーション上で実際に発生したユーザー行動を大量のデータから分析する方法です。
インタビューや観察では少数ユーザーを深く理解できますが、アクセス解析では数千人、数万人、場合によってはそれ以上のユーザーが実際にどのような行動を取っているのかを確認できます。
12.1 離脱やコンバージョンを分析する
例えば、
商品閲覧 → カート追加 → 購入情報入力 → 決済
というフローを分析すると、どの段階でユーザーが最も離脱しているかを確認できます。
もし購入情報入力画面だけ離脱率が高ければ、その画面に何らかの問題がある可能性があります。
さらに、ユーザビリティテストやインタビューによってその画面を詳しく調査することで、入力項目の多さ、説明不足、不安要素など、具体的な原因を特定できます。
12.2 数字だけで原因を決めない
アクセス解析で「決済画面の離脱率が30%」と分かっても、その数字だけで原因を判断することはできません。
価格が高いと感じたのか、決済方法が不足しているのか、入力フォームでエラーが出ているのか、単純にあとで購入しようと思ったのかは分かりません。
そのため、アクセス解析では主に「何が起きているのか」を発見し、その理由はインタビュー、ユーザビリティテスト、行動観察などで深掘りすることが重要です。
13. ヒートマップ・セッション分析で画面上の行動を確認する
ヒートマップでは、ユーザーがページ上のどこをクリックしているか、どの程度スクロールしているかなどを視覚的に確認できます。
さらにセッション分析を利用すると、個々のユーザーが画面内でどのように動いたのかを詳細に観察できます。一般的なアクセス解析よりも、画面単位の細かなユーザー行動を把握しやすい点が特徴です。
13.1 見られていないコンテンツを確認する
重要なCTAやキャンペーン情報をページ下部へ配置していても、多くのユーザーがそこまでスクロールしていなければ、実際にはほとんど認識されていない可能性があります。
ヒートマップによってスクロール状況を確認すると、「重要な情報がユーザーの到達範囲より下に配置されている」といった問題を発見できます。
その結果、重要コンテンツの配置順やページ構成を見直す判断がしやすくなります。
13.2 誤クリックや迷いを見つける
クリックできない画像やテキストを何度もクリックしている場合、その要素がユーザーからはボタンやリンクのように見えている可能性があります。
また、同じ場所を何度も行き来している場合は、次に何をすればよいか理解できていない可能性があります。
このような細かな迷いは、ユーザー本人が問い合わせやレビューとして報告しないことも多いため、実際の行動データから発見することが重要です。
14. A/Bテストで複数のデザインや施策を比較する
A/Bテストは、異なるデザインや施策を複数のユーザーグループへランダムに提供し、その結果をコンバージョン率やクリック率などの指標で比較する方法です。
「どちらのデザインが良いと思うか」を社内で議論するのではなく、実際のユーザー行動を使って評価できる点が大きな特徴です。
14.1 明確な仮説を設定する
A/Bテストでは、「なんとなく別のデザインを試してみる」のではなく、検証したい仮説を明確にする必要があります。
例えば、
「CTAを『詳しくはこちら』から『無料相談を予約する』へ変更すれば、ユーザーが次の行動を理解しやすくなり、申込率が上がる」
といった形です。
さらに、申込率、クリック率、購入率など、何を成功指標として評価するのかを事前に決めておくことも重要です。
14.2 一度に多くの要素を変更しない
A案ではボタンの色だけでなく文章、レイアウト、価格表示、画像まで変更し、B案ではすべて元のままにした場合、結果に差が出ても何が原因だったのか分かりません。
そのため、特定の仮説を検証する場合には、可能な範囲で変更箇所を限定することが重要です。
検証対象を明確にすることで、A/Bテストの結果を次の改善へ活用しやすくなります。
15. カスタマーサポート・レビュー分析から課題を発見する
ユーザーリサーチを始める際には、必ずしも新しいインタビューやアンケートを実施する必要はありません。企業がすでに保有しているカスタマーサポートへの問い合わせ、チャットログ、アプリストアレビュー、営業担当者が受け取ったフィードバックなどにも、重要なユーザー情報が含まれています。
これらは実際にサービスを利用したユーザーから自然に発生した声であるため、現在のプロダクトでどのような問題が起きているのかを理解するうえで非常に有用です。
15.1 問い合わせをカテゴリー化する
問い合わせ内容を、
- ログインできない
- 操作方法が分からない
- 料金体系が分かりにくい
- 特定機能が見つからない
- エラーが発生する
- 解約方法が分からない
といったカテゴリーへ分類すると、どの問題が繰り返し発生しているかを把握できます。
例えば「パスワードリセット方法が分からない」という問い合わせが毎月数百件発生している場合、サポート担当者を増やすだけでなく、パスワードリセットのUI自体を改善する方が根本的な解決につながる可能性があります。
15.2 声の大きさだけで優先順位を決めない
一方、非常に強い不満を持つ数人のユーザーから同じ要望が出ているからといって、その要望がユーザー全体にとって最優先とは限りません。
問い合わせ頻度、問題が影響するユーザー数、アクセス解析、アンケート結果、インタビューなどを組み合わせて判断することが重要です。
「強く要求されているから作る」のではなく、「どれだけ多くのユーザーに、どの程度深刻な影響があるのか」という観点で優先順位を決める必要があります。
ユーザーリサーチ手法を目的別に使い分ける
ユーザーリサーチでは、「どの手法が一番優れているか」を考えるのではなく、「現在何を知りたいのか」に応じて調査方法を選択することが重要です。それぞれのユーザーリサーチ手法は取得できる情報の種類が異なるため、目的と手法が一致していなければ、時間をかけて調査しても意思決定に使える情報を得られない可能性があります。
例えば、プロダクトの企画初期でユーザーがどのような課題を持っているのか自体が分かっていない場合には、アクセス解析よりもユーザーインタビューや行動観察が適しています。一方、すでに大量のユーザーが利用しているサービスで、どの画面に問題があるかを確認したい場合には、アクセス解析やヒートマップから調査を始める方が効率的です。
| 調査したいこと | 適した手法 |
|---|---|
| ユーザーの課題・価値観を深く知りたい | ユーザーインタビュー |
| 多数ユーザーの傾向を知りたい | アンケート |
| UIの使いにくさを確認したい | ユーザビリティテスト |
| 実際の利用状況を理解したい | 行動観察 |
| 業務背景まで理解したい | コンテキスチュアル・インクワイアリー |
| 長期間の行動変化を知りたい | 日記調査 |
| 複数ユーザーの意見を比較したい | フォーカスグループ |
| 情報構造を設計したい | カードソーティング |
| ナビゲーションを検証したい | ツリーテスト |
| 新規アイデアを検証したい | コンセプトテスト |
| UI案を開発前に確認したい | プロトタイプテスト |
| 大量の実利用データを分析したい | アクセス解析 |
| 画面上の細かな行動を確認したい | ヒートマップ・セッション分析 |
| 複数案の成果を比較したい | A/Bテスト |
| 既存ユーザーの不満を知りたい | サポート・レビュー分析 |
実務では、一つのリサーチ手法だけで調査を完結させるのではなく、プロダクト開発のフェーズに応じて複数の方法を組み合わせることが一般的です。企画段階ではインタビュー、設計段階ではプロトタイプテスト、リリース後はアクセス解析やA/Bテストといった形で継続的にユーザー理解を更新していくことが重要です。
定性調査と定量調査を組み合わせる
ユーザーリサーチでは、定性調査と定量調査のどちらか一方だけに依存するのではなく、両方を組み合わせることで、より精度の高いユーザー理解につなげることができます。
ユーザーインタビュー、行動観察、コンテキスチュアル・インクワイアリー、ユーザビリティテストなどの定性調査は、「なぜユーザーがその行動を取ったのか」「何に不安を感じているのか」「どの部分を理解できていないのか」といった背景を深く理解することに適しています。しかし、数人の参加者から同じ問題が見つかったとしても、その問題がユーザー全体のどの程度に影響しているかまでは判断できません。
一方、アンケート、アクセス解析、A/Bテストなどの定量調査では、「どれくらいのユーザーが問題に直面しているのか」「離脱率が何%なのか」「改善前後でコンバージョン率がどの程度変化したのか」といった規模や変化を数値で確認できます。しかし、数字だけでは、その数字が生まれた原因を十分に理解できない場合があります。
例えば、アクセス解析によって「申込画面の離脱率が他の画面より高い」と分かった場合、まずユーザビリティテストやインタビューを行って原因を調べます。そこで「料金表示が理解しにくい」「入力項目が多すぎる」といった問題を発見したら改善案を実装し、その後A/Bテストや再度のアクセス解析によって離脱率が実際に改善したかを確認します。
このように、
定量データで問題を発見する → 定性調査で原因を理解する → 改善案を作る → 実装する → 定量データで効果を検証する
という流れを作ることで、ユーザーリサーチを単なる調査活動ではなく、継続的なプロダクト改善の仕組みとして活用できます。
ユーザーリサーチを実施するときのポイント
どのユーザーリサーチ手法を利用する場合でも、最初に明確にすべきなのは「今回の調査で何を知りたいのか」です。目的が曖昧な状態でインタビューやアンケートを始めると、大量の情報は集まっても、その結果をどの意思決定に使えばよいのか分からなくなります。
例えば、「ユーザーについてもっと理解したい」という目的だけでは範囲が広すぎます。「新規ユーザーが会員登録途中で離脱する理由を理解したい」「現在のカテゴリー構造がユーザーの考え方と一致しているか確認したい」「継続利用率が低下するタイミングと理由を知りたい」といった具体的なリサーチクエスチョンへ落とし込むことで、対象ユーザー、手法、質問内容を適切に設計しやすくなります。
調査前に整理しておきたい項目
調査を開始する前には、少なくとも次の項目を整理しておくことが重要です。
- 今回解決したいプロダクト上の課題
- 現在チームが持っている仮説
- どのユーザーを対象にするか
- 何を確認できれば意思決定できるか
- どの調査手法が適しているか
- 調査結果を誰がどのように利用するか
これらを明確にしておくことで、「とりあえずインタビューを実施したものの、結局何も意思決定できなかった」という状況を防ぎやすくなります。
ユーザーの要望をそのまま仕様にしない
ユーザーリサーチでは、ユーザーから得られた要望をそのまま機能要件へ変換しないことも重要です。
例えば、ユーザーが「この画面に検索ボタンを追加してほしい」と話したとしても、その発言の本質は「必要な情報を素早く見つけたい」という課題かもしれません。その場合、検索ボタンを追加することだけが解決策とは限らず、情報構造そのものを改善した方が有効な可能性があります。
したがって、ユーザーが提示した解決方法ではなく、なぜその要望が生まれたのか、どの問題を解決しようとしているのかを分析することが重要です。
調査結果をプロダクト改善へつなげる
ユーザーリサーチの成果は、調査レポートを作って終了ではありません。発見したインサイトをプロダクトバックログ、UI改善、機能優先順位、ロードマップ、マーケティング施策、カスタマーサポート改善などへ反映して初めて価値が生まれます。
さらに、改善後には再びユーザー行動を確認し、本当に問題が解決されたかを評価する必要があります。
調査と改善を分離するのではなく、一つの継続的なプロダクト開発サイクルとして運用することが重要です。
おわりに
ユーザーリサーチには、ユーザーインタビュー、アンケート、ユーザビリティテスト、行動観察、コンテキスチュアル・インクワイアリー、日記調査、フォーカスグループ、カードソーティング、ツリーテスト、コンセプトテスト、プロトタイプテスト、アクセス解析、ヒートマップ、A/Bテスト、カスタマーサポート・レビュー分析など、さまざまな手法があります。
重要なのは、一つの手法をすべての課題へ適用しようとしないことです。「ユーザーが何に困っているのか」「なぜその行動を取っているのか」「どれくらい多くのユーザーに同じ問題が発生しているのか」「改善案によって成果が実際に変化したのか」など、知りたい内容によって最適な調査方法は変わります。
特に、定性調査と定量調査はどちらか一方が優れているわけではありません。定量データによって問題の規模や発生場所を把握し、定性調査によってその背景や原因を深掘りすることで、より正確な意思決定が可能になります。そして、改善を実施した後に再び定量データを確認することで、その施策が本当にユーザー体験を改善したのかまで評価できます。
また、ユーザーリサーチの目的は「ユーザーの意見を大量に集めること」でも、「きれいな調査レポートを作ること」でもありません。最終的な目的は、得られた情報をプロダクトの優先順位、UI設計、機能改善、マーケティング施策、サポート体験などへ反映し、ユーザーが実際に抱えている問題をより適切に解決することです。
そのためには、ユーザーリサーチを一度だけ実施するイベントとして考えるのではなく、プロダクト開発の継続的なプロセスへ組み込むことが重要です。
調査する → 課題を理解する → 仮説を作る → 改善する → 効果を測定する → 再び調査する
このサイクルを継続的に回すことで、「ユーザーはこう思うはず」という社内の推測だけに依存するのではなく、実際のユーザー行動、ニーズ、課題に基づいたプロダクト開発へつなげることができます。
EN
JP
KR