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EC事業が「改善のための改善」に陥るケース

EC事業が「改善のための改善」に陥るケース

ECの改善活動は、回しているだけでは強くなりません。A/Bテスト、UI改修、広告最適化、CRM、物流効率化と打ち手が増えているのに、粗利が厚くならず、LTVも伸びず、運用だけが重くなる局面は珍しくありません。ここで起きているのは「改善の不足」ではなく、改善が勝ち筋や利益構造と接続していない状態です。改善は本来、構造を変えるための投資ですが、接続が切れると、成果に向かわない運動量へ変質します。

この状態が見えにくいのは、改善が前向きに見えるからです。報告できる数値は増え、会議体も整い、ツールも揃っているため「やれている感」が出ます。しかし変化しているのが局所指標だけで、全体PLの詰まりや競争優位、再現性のある成長モデルが動いていない場合、改善は投資ではなく疲労の蓄積になります。部門横断の接続点が多いECでは、断片化した改善が積み上がるほど、どれも正しいのに何も変わらないという停滞が発生しやすくなります。

この先で扱う論点は、改善の「量」を増やす方法ではありません。改善が空回りする典型を分解し、どの設計不全が起点になっているのかを特定するための視点を整理します。KPIの置き方、部分最適の増殖、ツール依存、PDCA形骸化、テーマ乱立、短期偏重、ゴール未定義、評価制度の逆インセンティブ、属人化、戦略不在の高速実験といった現象は、努力ではなく設計で再発防止できます。改善を成長に変えるには「何を変えるための改善か」を取り戻し、意思決定と資源配分の回路を作り直す必要があります。

1. EC事業が「改善のための改善」に陥る構造的背景

EC事業では「改善し続けているのに成果が伸びない」という状態が起こり得ます。A/BテストやUI改修、広告運用の最適化、CRM施策、物流の効率化など、打ち手は増え、会議体も整い、データも集まっているのに、利益が厚くならず、LTVも伸びず、現場だけが摩耗していく状況です。このとき問題は改善の量そのものではなく、改善が「事業の勝ち筋」や「利益構造」と接続していない点にあります。言い換えるなら、改善が「何を変えるための改善か」を失い、改善という行為自体が目的化してしまっています。

この現象が厄介なのは、表面上は前向きに見えることです。改善が多いほど「やれている」感が出ますし、数字も細かく報告できます。しかし、実際に変わっているのが局所の指標だけで、全体のPLや競争優位、再現性のある成長モデルが動いていない場合、改善は投資ではなく「疲労の蓄積」になり得ます。とくにECは部門横断の接続点が多く、改善が断片化すると「どれも正しいが、何も変わらない」という状態が生まれやすいのです。

改善が空回りしているかどうかは、症状と原因を切り分けると見えやすくなります。

目に見える症状よくある説明構造的な原因
施策が増えるのに利益が伸びない「もっとPDCAを回そう」目的と指標が利益構造に紐づいていない
会議が増えて意思決定が遅い「関係者が多いから」優先順位設計と権限設計が曖昧
改善の成果が担当者依存「優秀な人が必要」仕組み化・組織学習の回路がない
ツールは増えるのに現場が軽くならない「まだ浸透していない」意思決定・運用ルールが変わっていない

この表のポイントは、改善の失速が「努力不足」ではなく「設計不全」から起きるということです。改善は本来、事業の構造を変える力を持ちますが、接続先を失うと、むしろ組織のエネルギーを消耗させる方向に働きます。

2. EC事業が「改善のための改善」に陥る10のケース

ここからは、EC事業が「改善のための改善」に陥る典型を10個に分解します。どれも単体では正しく見えますが、起点の設計がずれていると、改善の回転数だけが上がり、成果が薄まっていきます。先に全体像を俯瞰できるよう、症状の並びを一度整理しておきます。

・指標が利益構造に繋がらず、最適化の方向が迷走する
・部分最適が増えて、全体PLのボトルネックが残る
・ツールや会議が増える一方で、意思決定が変わらない
・改善テーマが乱立し、集中投資ができなくなる
・短期数値に寄り、LTVや競争優位の設計が後回しになる
・ゴールが曖昧で、検証が「やった感」に収束する
・評価制度と改善が分断され、改善が継続しなくなる
・属人化により、学習が蓄積されず再現性が出ない
・高速な実験が、戦略不在のままループする

このような兆候が複数同時に出ている場合、「改善の量」を増やしても回復しません。次の各ケースを、自社の状況に照らして「どこが起点になっているか」を見極めることが、脱却の第一歩になります。

2.1 ケース①:KPI誤設計によるEC改善の迷走

KPIの誤設計は、改善が最も静かに迷走する入口です。たとえばROAS最大化だけを追うと、短期の集客効率は上がっても、粗利・返品・CS負荷・配送遅延といったコスト側の波が見えなくなります。CVRだけを追うと、割引や強い訴求で「買わせる」方向に寄り、返品率や顧客の納得感が置き去りになります。応答時間短縮が目的化すれば、CSは早く終わらせることが正義になり、解決率や再問い合わせ率が悪化して体験が毀損します。

ここで起きているのは、指標が「成果」ではなく「作業の都合」を代替してしまう現象です。指標が悪いのではなく、指標が利益構造と接続していないことが問題になります。改善が回れば回るほど、誤った方向に最適化され、現場は忙しくなるのに、PLが良くならないという矛盾が生まれます。KPIは改善のハンドルなので、ハンドルの角度がずれている限り、アクセルを踏むほど目的地から遠ざかります。

2.2 ケース②:部分最適型EC改善による全体停滞

LPだけ改善しても、広告だけ最適化しても、倉庫だけ効率化しても、全体PLが動かないことがあります。理由は単純で、ECは接続点で詰まりやすく、ボトルネックが別の場所に残っているからです。たとえばLP改善でCVRが上がっても、出荷遅延が増えればキャンセル・クレームが増え、LTVが落ちます。広告のCPAが下がっても、在庫同期の精度が低ければ欠品・誤販売が増え、信頼が毀損します。倉庫の生産性が上がっても、受注波動の設計が弱ければ繁忙で破綻し、結局は外注費や残業が固定費化します。

部分最適の怖さは、各部門が「正しいこと」をしているのに成果が出ない点です。だからこそ、改善は増え続けますが、全体としては停滞します。ここで必要なのは「どこを改善すれば全体が動くか」という接続点の特定であり、改善テーマを「部門の都合」ではなく「PLの詰まり」に合わせて組み替えることです。改善の対象が局所の数字ではなく、全体の流れに置かれた瞬間、同じ工数でも効果は大きく変わります。

2.3 ケース③:ツール依存型EC改善の罠

新しい分析ツールを導入し、自動化ツールを追加し、ダッシュボードを増設するほど「改善している感」は強くなります。しかし、意思決定のルールと運用が変わらなければ、成果はほとんど変わりません。むしろツールが増えるほどデータは増え、解釈の余地が増え、会議は長くなり、判断は遅くなります。現場から見ると「見るべき指標が増えただけで、仕事は減っていない」という状態になりやすく、改善の疲労が蓄積します。

ツールが悪いのではなく、ツールの役割が「記録装置」に留まっていることが問題です。改善に必要なのは、データを増やすことより「何を見たら何を決めるか」を明確にすることです。たとえば在庫差異が一定幅を超えたら販売制御をどうするか、出荷滞留が増えたら広告配信をどう調整するか、といった意思決定の接続がなければ、ツールは増えても行動は変わりません。結果として、改善の回転がツール運用に吸われ、事業の構造は動かないままになります。

2.4 ケース④:PDCA形骸化によるEC改善活動の空回り

PDCAが形骸化すると、会議は増え、レポートは詳細になり、検証の回数も増えます。それでも戦略は不変で、やっていることが「微調整の連続」に落ち、構造転換に繋がりません。典型は、毎週の定例で数字を確認し、原因を並べ、対策を箇条書きにして終わる状態です。数字は見ているのに、優先順位は変わらず、権限も変わらず、プロセスも変わらないので、次週も同じ議論が繰り返されます。

PDCAが効く条件は、検証結果が「意思決定の変更」や「設計の更新」に反映されることです。ところが形骸化したPDCAでは、検証が「説明責任の儀式」になり、意思決定は既定路線のままになります。改善が空回りする企業は、PDCAがないのではなく、PDCAの出口が閉じているのです。出口を開けるには、検証の対象を「数字の変化」から「構造の仮説」に移し、意思決定の変更まで含めて検証の完了と定義する必要があります。

2.5 ケース⑤:改善テーマ乱立によるEC改善の希薄化

改善テーマが乱立すると、個々の改善は正しくても、成果が薄まります。担当者ごとにテーマが立ち、優先順位が曖昧で、同時進行のプロジェクトが増え、リソースが分散します。すると各改善は「小さく当てにいく」方向に寄り、構造に効く投資ができなくなります。改善の量が増えるほど、組織の集中力が下がり、成果が見えにくくなるという逆転現象が起きます。

乱立の背景には、改善の選定基準が「やりやすさ」や「測りやすさ」に偏る問題があります。大きく効くが跨る改善ほど調整が必要で、短期で成果が見えにくいので避けられます。その結果、局所改善が大量生産され、忙しさは増えるのに本質は動きません。ここで重要なのは、改善テーマを減らすこと自体ではなく「今期は何を変えるのか」を明確にし、変える対象に資源を寄せることです。改善は網羅ではなく集中で効く領域が必ずあります。

2.6 ケース⑥:短期数値偏重によるEC改善の視野狭窄

「今月売上」「今週CVR」「昨日の広告効果」だけに焦点が当たると、改善は短期の数字を守るための微調整に収束します。もちろん短期数値は重要ですが、それだけで最適化すると、LTVやブランド、競争優位の設計が後回しになります。結果として、割引・訴求・広告投資で押し切るモデルから抜けられず、CACが上がった瞬間に成長が止まりやすくなります。改善が続いているのに体力が落ちるのは、この短期偏重が原因になっていることが多いです。

短期数値偏重は、意思決定の言語も変えます。改善の議論が「今すぐ上がるか下がるか」だけになると、構造改善の提案は通りにくくなります。なぜなら構造改善は、短期の痛みや移行コストを伴うからです。ここで必要なのは、短期指標と長期指標を同じテーブルに置き、短期の勝ちを長期の負けで買っていないかを定期的に点検することです。短期に強いほど、長期の設計に意識的でなければ改善は空回りします。

2.7 ケース⑦:ゴール未定義型EC改善の迷走

「良くする」「最適化する」「効率化する」といった言葉だけで改善が始まると、成功定義が曖昧になり、検証が収束しません。改善が「終わらない仕事」になり、現場は疲弊し、評価も曖昧になります。すると次第に、改善は「やっている風」に寄り、レポート作成や会議運営が成果に置き換わります。改善が増えているのに成果が見えない企業は、改善のゴールが具体化されていないケースが目立ちます。

ゴール未定義は、優先順位の混乱も招きます。成功定義がないため、何をやっても否定できず、何をやらなくても正当化できてしまいます。ここから抜けるには、改善のゴールを「事業の状態」で定義するのが有効です。たとえば「出荷遅延率を一定以下に保ったまま販促波動に耐える」「返品起因のコストを抑えつつ顧客満足を落とさない」など、状態として語れると、改善は計測と意思決定に接続しやすくなります。改善は作業ではなく状態変化を狙うべきです。

2.8 ケース⑧:評価制度と分断されたEC改善活動

売上のみが評価され、改善提案が評価外だと、改善文化は育ちません。改善は「誰かの善意」に依存し、繁忙期や担当変更で止まります。さらに、改善に強い人材ほど売上側へ吸い寄せられ、オペレーションやプロセスに投資する人が不足します。結果として、改善ができないのではなく、改善が合理的に選ばれない環境が固定化されます。改善が後回しになる企業の多くは、評価制度が改善にとって逆インセンティブになっています。

評価制度の分断がつらいのは、改善が「報われない仕事」になる点です。改善は地味で、移行の痛みもあり、短期で称賛されにくい領域です。それでも事業の土台を強くする価値がありますが、評価が伴わないと継続できません。したがって、改善を回したいなら、評価制度に「再現性」「品質」「波動耐性」「例外処理削減」のような観点を少しでも織り込み、改善をキャリア成果に変える必要があります。改善を文化にしたいなら、制度で支えるのが最短です。

2.9 ケース⑨:属人化したEC改善の再現性欠如

優秀な担当者がいる間だけ改善が進み、その人が異動・退職すると改善が停止する状態は、改善が属人化しているサインです。属人化は、本人の能力が高いほど起きやすく、成果が出るために「仕組みにしなくても回る」錯覚が生まれます。しかしECは変数が多く、属人化した改善は、例外が増えた瞬間に破綻します。さらに、ナレッジ共有がないと組織学習が起きず、同じ失敗が繰り返されます。改善が積み上がらない企業は、改善が「記憶」ではなく「仕組み」になっていません。

再現性がない改善は、改善そのものへの信頼も削ります。「結局あの人がいたからできただけ」という評価が残ると、次の改善は通りにくくなります。ここで必要なのは、成果物の定義です。標準手順、例外設計、判断基準、KPIの見方、会議体のルールなど、誰がやっても一定の判断ができる形で残すと、改善は資産になります。改善を資産化できた組織は、改善が増えるほど忙しさが減る側に回り始めます。

2.10 ケース⑩:戦略なき高速EC改善の無限ループ

毎週A/Bテスト、毎月UI変更、施策回転は速いのに、事業ポジションが変わらない状態があります。これは改善が高速なのではなく、改善の対象が「差分」しか見ていない状態です。高速改善が効くのは、勝ち筋が定義されており、その勝ち筋を強化するために実験が回っている場合です。一方で戦略が不在だと、実験は局所の指標を動かすだけになり、競争優位や利益構造の再設計に繋がりません。改善が速いほど「やっている感」が強まり、戦略不在が見えにくくなるのが危険です。

このループは、改善の成果を「微差の積み上げ」として正当化することで続きます。もちろん微差は重要ですが、微差が効くのは、方向が合っているときだけです。方向がずれていると、微差は単なるノイズになり、組織の集中力を奪います。脱却には、改善の回転数を下げるのではなく、改善が向かう北極星を定める必要があります。北極星は抽象ではなく「どの顧客に何の価値で勝つか」「どこで利益が出る構造にするか」を含む設計として置くべきです。

3. EC事業の「改善のための改善」が成長につながらない理由

「改善のための改善」が成長につながらないのは、改善が事業の構造を変えていないからです。改善の回数が多くても、ボトルネックが移動していない、意思決定が変わっていない、利益の出方が変わっていないなら、事業は同じ場所で回転しているだけになります。とくにECでは、局所最適を積み上げるほど接続点が複雑になり、例外処理が増え、標準化が進まず、改善のコストが上がります。つまり、改善が増えるほど、次の改善が重くなるという悪循環に入り得ます。

改善を「成長」に変えるには、改善を分類して扱うと整理しやすくなります。局所改善は否定すべきではありませんが、局所改善だけで戦うと限界があります。構造改善はプロセスや権限、接続点を変え、利益と処理能力を中長期で押し上げます。戦略改善は、競争優位やポジショニングそのものに触れ、非連続の伸びを作り得ます。どれを狙っているかが曖昧だと、改善は「たくさんやったが、何も変わらない」で終わります。

改善の種類典型例効果の出方成果への影響
局所改善UIの微調整、LP改修、入札最適化数値が微増しやすい限定的になりやすい
構造改善受注〜倉庫の接続、例外設計、権限設計波動耐性と利益が厚くなる中長期の利益向上に寄与
戦略改善顧客価値の再定義、商品戦略の転換、収益モデル刷新伸び方が変わる非連続成長の可能性

この分類を前提にすると、改善の「量」ではなく「配分」が問われます。局所改善をゼロにする必要はありませんが、局所改善が全体の大半を占めると、構造が動かず疲労が溜まります。反対に、構造改善と戦略改善が一定割合で混ざると、局所改善が効く土台が整い、改善が「報われる」体感が生まれます。

4. EC事業が「改善のための改善」から脱却するための設計原則

脱却の鍵は、改善を「活動」ではなく「設計」として扱うことです。改善のテーマを戦略に接続し、KPIを利益構造へ紐づけ、優先順位を明確にし、成果定義を事前に置き、再現可能な仕組みに落とす。この一連が揃うと、改善は回るほど成果に繋がり、現場の忙しさは減っていきます。逆に、どこかが欠けると、改善は回るほど疲労が増え、成果が遠のきます。

以下では、現場で運用できる粒度まで落として、設計原則を整理します。ポイントは「正しいことを言う」ではなく「決め方と回し方を変える」ことです。

4.1 改善テーマを戦略に接続する

改善テーマは、事業の勝ち筋に接続して初めて投資になります。勝ち筋が曖昧なまま改善テーマを並べると、改善は「全部やる」になり、結局どれも薄くなります。接続の作り方は難しくありません。たとえば「獲得競争で勝つ」なら、配送品質と初回体験を強くして口コミと指名を作る改善が戦略に繋がりますし、「リピートで勝つ」なら、返品設計やCSの解決率を上げて信頼を積む改善が戦略になります。改善テーマが「どの成長モデルを強化するか」に紐づいた瞬間、優先順位は自然に絞れます。

会議で使える言い換えにすると、改善は「効率化」ではなく「勝ち筋の再現性を上げる投資」です。議論の入口を変えるだけで、改善はコスト扱いから抜けやすくなります。締めとして、改善テーマは「やるかどうか」より「どの勝ち筋に賭けるか」で選ぶほうが、迷いが減り、結果的に改善が速くなります。

4.2 KPIを利益構造と紐付ける

KPIは、追うほど良くなる指標である必要があります。追うほど歪むKPIを置くと、改善は必ず迷走します。そこで、KPIを「利益に繋がる過程指標」と「歪みを止めるガードレール指標」に分けて設計します。たとえばCVRを伸ばすなら返品率やキャンセル率を併置し、応答時間を短縮するなら解決率や再問い合わせ率を併置します。複数軸は複雑化ではなく、誤った最適化を防ぐ安全装置です。

運用面では「止める条件」を合意しておくと改善が強くなります。止める条件とは、改善の試行が体験やコストを毀損し始めたときに一旦止め、原因を切り分ける基準です。止める条件がないと、現場はリスクを恐れて改善を避けるか、反対に突き進んで信頼を損なうかの二択になりやすいです。KPIは回すためのハンドルなので、ハンドルとブレーキをセットで置くのが現実的です。

4.3 改善優先順位を明確化する

改善の乱立を止めるには、優先順位を「部門の都合」ではなく「PLの詰まり」に合わせます。詰まりとは、利益が漏れている場所、波動で壊れる場所、例外が増殖する場所です。ここを特定し、今期はどこを動かすかを決めると、改善テーマは自然に減ります。テーマが減ると、リソースが寄り、成果が見え、さらに改善が通りやすくなるという好循環が生まれます。

導入文脈として、優先順位を決める基準を一度だけ言語化しておくとブレが減ります。
・全体PLへのインパクトが大きいか
・波動耐性を上げるか(繁忙期に壊れないか)
・例外処理を減らすか(再作業が減るか)
・再現性が残るか(仕組みとして残るか)
この基準で締めると、「やりたい改善」ではなく「効く改善」に議論が寄っていきます。

4.4 成果定義を事前に設定する

改善の成果定義は「数字」だけでなく「状態」で置くと強くなります。数字だけだと短期の上下に振り回され、結局「まだ足りない」で終わりがなくなります。一方で状態として定義すると、改善は設計として収束します。たとえば「受注波動が来ても出荷遅延率が閾値を超えない」「返品処理が滞留せず、CSの再問い合わせ率が一定以下になる」など、業務の安定状態として定義できます。状態が定義されると、改善は作業ではなく構造更新になります。

成果定義を事前に置くメリットは、検証の質が上がる点にもあります。ゴールが曖昧な改善は、検証が「やった感」に落ちますが、ゴールが明確だと、検証は「なぜ到達しないか」を構造で捉えやすくなります。締めとして、成果定義は縛りではなく、改善を終わらせるための条件であり、改善疲労を減らす装置になります。

4.5 改善を再現可能な仕組みにする

改善が属人化すると、成果は積み上がりません。したがって、改善は必ず成果物として残す設計にします。成果物は立派な資料ではなく、標準手順、例外設計、判断基準、KPIの見方、会議体のルールといった「次の人が迷わない情報」です。これが残ると、改善は組織の資産になり、担当者が変わっても維持されます。維持されるからこそ、次の改善が軽くなり、改善が回るほど忙しさが減る側へ転じます。

実務では、改善の最後に「何が残るか」を決めるだけでも効果があります。
・手順が標準化され、例外の扱いが定義された
・意思決定のルールが決まり、承認待ちが減った
・指標の見方が揃い、会議が短くなった
・接続点の責任が明確になり、たらい回しが減った
この締め方を徹底すると、改善は「活動」ではなく「設計更新」として積み上がり、改善のための改善から抜けやすくなります。

 

おわりに

「改善のための改善」が成長につながらない理由は単純で、改善が事業の構造を動かしていないからです。改善の回数が多くても、ボトルネックが移動していない、意思決定のルールが変わっていない、利益の出方が変わっていないなら、事業は同じ場所で回転しているだけになります。むしろ局所最適の積み上げは接続点を複雑にし、例外処理を増やし、標準化を止め、次の改善コストを引き上げます。改善が増えるほど重くなる循環に入ると、体力が削られ、打ち手の追加が延命になりやすくなります。

脱却には、改善を「活動」ではなく「設計」として扱う姿勢が必要です。改善テーマを勝ち筋に接続し、KPIを利益構造へ紐づけ、優先順位をPLの詰まりで定め、成果定義を状態として置き、再現性のある成果物に落とす。これらが揃うと、局所改善は否定されるどころか効きやすくなり、改善の回転が成果へ収束します。逆に、どれかが欠けると改善は儀式化し、会議とツール運用に吸われ、組織の集中力だけが摩耗していきます。

最後に強調したいのは、改善は「速さ」より「方向」と「資産化」で決まるという点です。方向は「どの顧客に何の価値で勝つか」と「どこで利益が出る構造にするか」で定まり、資産化は標準手順、例外設計、判断基準、会議体ルールとして残ります。方向が合えば微差が複利になり、資産が残れば改善は回すほど軽くなります。改善を増やす前に、改善が成果へ接続する回路を先に設計することが、改善疲労を止め、成長へ戻す最短距離になります。

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