メインコンテンツに移動

CDN活用によるWeb高速化:設計で差がつくエッジ最適化の実務

CDNは「世界中に拠点があるから速い」で止めると、設計判断に使える情報が足りません。実務で本当に効いてくるのは、エッジが“近い出口”になること以上に、オリジンの代理として「配るか/取りに行くか」を決め続ける層になる点です。つまり、キャッシュ・再検証・無効化という意思決定がCDN側に生まれ、その意思決定がアプリのヘッダー設計や更新フローと噛み合って初めて、速度と安定性が同時に上がります。逆に噛み合っていないと、速くなったように見えても反映が遅れたり、誤配信が怖くて結局キャッシュを止めたりして、元の遅さに戻りがちです。

本記事では、CDNを単なる高速化ツールではなく「配信の契約境界」として捉え、何が速くなり何が速くならないのかを切り分けます。そのうえで、TTL・キャッシュキー・Vary・ETag再検証・Purgeとサロゲートキー、stale戦略やOrigin Shieldまでを一続きの設計として整理します。狙いは製品機能の羅列ではなく、速度・鮮度・コストのトレードオフを運用で制御できる状態に落とすことです。判断が揃えば「どこまでキャッシュするか」が会議の空気ではなく、ルールとして反復できるようになります。

1. CDNとは

CDN(Content Delivery Network)とは、ユーザーに近いエッジ拠点からコンテンツを配信することで、通信遅延を抑えつつ、オリジンサーバーの負荷を分散・削減する仕組みです。エッジはオリジンの代理として振る舞い、キャッシュ可能なレスポンスを保持して再配信します。つまりCDNの価値は「距離を縮める」だけでなく、「同じものを何度も作らない」ことにあります。とくに同一アセットや同一HTMLが繰り返し要求されるサイトでは、キャッシュが当たるたびにオリジン処理が省略され、ピーク時の耐性にまで影響します。

パーソナライズされた動的レスポンスや、認可が絡むデータはキャッシュできない、あるいはキャッシュすべきではありません。どのリクエストをCDNに任せ、どのリクエストをオリジンへ通すかを決めることが、CDN活用によるWeb高速化の最初の設計になります。設計を省略して「全部載せる」と、速度は上がっても誤配信リスクが急上昇し、最終的に「怖くてキャッシュできない」状態に戻りやすくなります。

2. キャッシュ設計とは

CDNの導入は、多くの場合「キャッシュを置く」ことと同義です。ところがキャッシュは、速くする道具であると同時に、古い情報を配る危険な道具でもあります。キャッシュ戦略を曖昧にすると、反映遅延の苦情が増え、Purge乱用でヒット率が崩れ、結局は遅くなります。ここではキャッシュ設計を「寿命と無効化の契約」として定義し、以降の議論の土台を固めます。

キャッシュ設計とは、何を、どれくらいの時間、どの条件で再利用し、どの条件で捨てるかを決める設計です。CDNがキャッシュするのはファイルだけではなく、HTMLやAPIレスポンスも対象になり得ますが、対象が広がるほど「更新の反映」と「安全性」が問題になります。キャッシュは速くなる一方で、反映遅延や誤配信のリスクが増えるため、設計として制御点を持つ必要があります。具体的には、TTL(保持時間)、キャッシュキー(同一とみなす条件)、再検証(ETagなど)、無効化(Purge)を、運用可能な形で組み合わせます。

混同が起きやすいのは「TTLを短くすれば安全」という考え方です。TTLを短くすると反映は速くなりますが、ヒット率が落ち、オリジン負荷が上がり、ピーク時に逆に遅くなることがあります。逆にTTLを長くすると速いが、反映遅延が目立つようになります。TTL、無効化、バージョニング、再検証の組み合わせで、どの変化を速くし、どの変化は多少遅くても守るかを決めるのがキャッシュ設計です。ここを契約として固定できると「速いのに反映も破綻しない」状態に近づきます。

3. 体験品質を測る指標とは

「速くなったか」を主観で判断すると、改善が続きません。CDN活用によるWeb高速化は、ネットワークとキャッシュという“見えにくい層”の改善が中心になるため、指標がないと成果も副作用も判断できません。さらに、速度の改善はコストや鮮度とトレードオフになりやすく、どれを優先するかを数字で合意できることが重要です。

体験品質の代表的な指標には、TTFB(最初の1バイトが届くまで)、LCP(主要コンテンツが表示されるまで)、そしてエラー率やタイムアウト率などがあります。CDNは特にTTFBへ効きやすく、キャッシュが当たればオリジン処理が省略されるため、ピーク時の安定性にも影響します。一方で、LCPは配信だけで決まらず、画像最適化やレンダリング戦略、サードパーティの読み込みなどの影響も強く受けます。そのため、CDNでTTFBが改善してもLCPが動かないケースは普通にあり、指標を分けて理解しないと「効いたのに効いていない」ように見えて混乱します。

指標の定義が必要なのは、CDNの改善がコストと鮮度のトレードオフになるからです。ヒット率を上げるためにTTLを伸ばせば、反映が遅くなる可能性があります。反映を速くしようとしてPurgeを多用すると、CDN側のリクエストとオリジン負荷が増え、費用も跳ねやすくなります。指標は、最適化の方向を固定し、やりすぎを止めるための基準になります。実務では「成果指標」と「ガードレール指標」を分けて置くと、改善が安定します。

4. CDN活用によるWeb高速化の仕組み

CDNが速くする仕組みを分解すると、設計でいじれるレバーが見えてきます。速度は単に「近いから」ではなく、距離、キャッシュ、プロトコル、オリジン経路の合成で決まります。ここでは、CDNの効果を構造として説明し、どこに設計投資を置くべきかを整理します。

4.1 CDNエッジ配信で距離と待ち時間を減らす

ユーザーとオリジンが遠いほど、往復遅延が増え、TLSハンドシェイクや再送のコストも効いてきます。CDNはユーザーに近いエッジで接続を終端し、応答を返すことで、ネットワーク上の距離コストを縮めます。これは静的ファイルだけでなく、キャッシュできるHTMLやAPIレスポンスにも効き、TTFBの改善として現れやすいです。特にモバイル回線や地域差がある環境では、距離短縮の効果が体感に直結します。

ただし、距離が縮んでも「キャッシュできない応答」はオリジンへ取りに行く必要があり、その場合はエッジからオリジンへの経路がボトルネックになります。つまり、エッジ配信の設計は「何をエッジで完結させるか」と「オリジンへ行くときの経路をどう最適化するか」をセットで考える必要があります。エッジは万能な高速化装置ではなく、キャッシュ可能性と経路設計が揃って初めて強く効く層です。

4.2 CDNキャッシュでオリジンを守り、ピークを安定させる

CDNの本質的な効果は、同じレスポンスを何度もオリジンで生成しないことにあります。キャッシュヒットが増えるほど、オリジンのCPU、DB、アプリのスレッドが消費されず、ピーク耐性が上がります。Web高速化は、平常時よりピーク時の遅さを消せるかどうかで体感が大きく変わるため、オリジンオフロードは速度改善と同じくらい重要です。ピークで落ちないことは「速い」の一部であり、利用者にとっては最終的に信頼性として認識されます。

オフロードが効くほど、システム全体の設計自由度も増えます。たとえばオリジンは動的処理に集中でき、スケール要件が下がる場合がありますし、DBの負荷も落ちて別のボトルネックが解消されることもあります。一方で、キャッシュが効いている状態は「オリジンが軽いが、エッジが正しいこと」が前提になるため、無効化と観測が弱いと、間違ったものを高速に配る事故へ直結します。だからこそ、キャッシュは性能施策であると同時に、運用設計そのものです。

4.3 CDN配信層でプロトコルと圧縮を最適化する

CDNは配信経路だけでなく、HTTP/2やHTTP/3、TLS終端、圧縮(Brotliなど)といった配信層の最適化をまとめて担える場合があります。これらは単体では小さな改善に見えても、リクエスト数が多いページやネットワークが不安定な環境では積み上がり、結果として表示体験へ効いてきます。たとえば画像やフォントの配信が多いサイトでは、接続の効率化や圧縮の差が、ページ全体の“重さ”として体感されます。

ただし、プロトコル最適化は「CDN側でONにしたら終わり」ではありません。オリジン側のヘッダー設計、キャッシュ制御、リダイレクトの扱い、CORSやCookieの扱いが整っていないと、最適化が逆効果になり得ます。配信の仕組みは、アプリの振る舞いと不可分です。配信層の改善を狙うほど、アプリ側の“契約”をヘッダーやレスポンス設計として整える重要性が上がります。

5. CDN導入判断を支える設計軸

CDNを導入しても期待ほど速くならないケースの多くは、CDNの性能ではなく、対象の切り分けが曖昧なことに起因します。何をCDNに任せ、何を任せないかを、判断軸として固定すると運用が安定し、施策の積み重ねで速度が落ちにくくなります。ここでは、導入・拡張の判断に使える軸を整理します。

5.1 キャッシュ可能性でCDN対象を分ける

最初に行うべきは「キャッシュしてよいもの」と「キャッシュしてはいけないもの」の分類です。静的アセット(画像、CSS、JS、フォント)は基本的にキャッシュ対象ですが、HTMLやAPIは条件付きになります。ログイン状態で内容が変わるページ、権限で見えるデータが変わるAPIは、誤配信のリスクが高いため、戦略なしにCDNへ任せると事故になります。逆に、同一内容を多数へ配れるコンテンツはCDN向きで、ここを広げられるほど高速化の効果は伸びます。

分類の精度を上げるには、レスポンスが何に依存して変わるかを明示します。Cookie、Authorization、Accept-Language、クエリパラメータなど、変化要因が分かれば、Varyの設計やキャッシュキーの設計に落とし込めます。逆に変化要因が曖昧なままだと、キャッシュは怖くて使えず、CDN活用によるWeb高速化が「静的ファイルだけの話」で止まります。分類は“技術”というより、アプリの責務整理の問題です。

5.2 CDNでHTMLをキャッシュする判断

HTMLキャッシュはTTFBへ強く効く一方、誤配信の事故が起きやすい領域です。向くのは、ログインなしで同一内容を配れるページ、更新頻度が低いページ、または更新があってもバージョニングやPurgeで反映を制御できるページです。逆に、ユーザー別に内容が変わるページは、部分キャッシュや、サーバー側での分割(パーソナライズ部分の切り出し)を検討しないと危険です。HTMLキャッシュは、速度改善の伸びしろが大きい分、設計の丁寧さが要求されます。

設計として重要なのは「HTMLをキャッシュできる状態に寄せる」ことです。たとえば、パーソナライズ領域をAPIで取得してクライアントで合成する、ログイン状態の情報を別経路に分ける、といった構造にすると、HTMLはキャッシュしやすくなります。CDN導入は、Webアプリの責務分割を見直す契機にもなります。速さを得るために構造を整える、という順番が成立すると、施策が積み上がっても速度が崩れにくくなります。

5.3 CDNでAPIキャッシュを扱う境界

APIキャッシュは、正しく設計できると劇的に効きますが、誤ると権限事故になります。GETであってもユーザー別のデータを返すAPIを共有キャッシュに載せるのは危険で、原則として避けるべきです。一方、公共データ、ランキングのような共有データ、検索結果のように許容できる鮮度であれば、CDNでのキャッシュが大きな効果になります。ここは「できるか」ではなく「してよいか」で判断します。

APIキャッシュは「鮮度の契約」が鍵です。何秒古い結果なら許容できるか、失敗時に古い結果を返してよいか、再検証(ETagなど)で整合性を保てるかを先に決めます。これが決まると、TTL、stale-while-revalidate、stale-if-errorのような戦略が選べ、運用中の意思決定がぶれにくくなります。APIキャッシュは、速度のためだけでなく、ピーク時にオリジンを守るためにも強力な手段です。

6. CDNキャッシュ戦略で決まるWeb高速化の安定度

CDN活用によるWeb高速化は、キャッシュ戦略の質で勝負が決まります。ここでは、実務で頻出する戦略を整理し、反映速度とヒット率のトレードオフを制御する方法をまとめます。ポイントは「速くする仕組み」を増やすことではなく「運用で扱える仕組み」にすることです。

6.1 TTLとバージョニングの使い分け

TTLは「どれだけの時間、同じものを再利用するか」を決める最も基本的なレバーです。静的アセットはファイル名にハッシュを付けるバージョニングができるため、TTLを長くしても安全に運用できます。更新時は新しいURLを発行すればよく、古いキャッシュが残っていても参照されません。高速化と安全性を両立する定番手法であり、まずここを徹底するだけでも体感は変わります。

一方でHTMLや一部のAPIはURLを変えにくく、TTLだけで制御すると反映遅延が問題になります。ここではTTLを短めにしつつ、再検証やPurge、あるいは部分的なバージョニングを組み合わせる設計が必要になります。TTLは万能ではなく「バージョニングできるか」で最適解が変わる点を押さえると、設計が破綻しにくくなります。つまり、TTLの議論はキャッシュの議論であると同時に、URL設計の議論でもあります。

6.2 再検証(ETagなど)で速さと正しさを両立する

TTLを短くすると反映は速くなりますが、オリジンへ問い合わせる回数が増えます。そこで使えるのが再検証です。ETagやLast-Modifiedを使い、内容が変わっていなければ軽い確認で済ませる設計にすると、オリジンの生成コストを抑えつつ鮮度も保てます。キャッシュが「持っているが、確認する」状態を作るイメージで、ヒット率と鮮度のバランスを取りやすくなります。

再検証を成立させるには、オリジンが正しいキャッシュヘッダーを返すこと、そしてCDNがそれを尊重する設定になっていることが前提です。ヘッダーが曖昧だと、CDN側で勝手な挙動になり、想定外の無効化や想定外の保持が起きます。再検証は、設計と運用の契約を揃えるほど効果が出ます。とくに複数チームで運用する場合、ヘッダーは“口約束”ではなく契約として固定する価値があります。

6.3 Purgeとサロゲートキーで無効化を運用可能にする

更新を即時反映したい場合、Purge(キャッシュ削除)が必要になります。ただし、Purgeを乱用するとヒット率が落ち、オリジン負荷が跳ね、結果として遅くなります。したがってPurgeは「必要な範囲だけ、狙って消す」運用に寄せるのが重要です。ここで役に立つのがサロゲートキー(グループ無効化)のような仕組みで、関連するページ群だけをまとめて無効化できると、更新の反映を速くしつつヒット率を守りやすくなります。

無効化を運用可能にするには、どの更新がどのキャッシュへ影響するかを設計として追える必要があります。記事更新なら記事ページと一覧ページ、商品在庫なら商品ページと検索結果など、影響範囲を事前にモデル化し、無効化手順として固定します。ここが弱いと「とりあえず全消し」になり、CDNの価値が削れていきます。Purgeは“最後の手段”として残し、できるだけURL設計や再検証で解決するのが長期では安定します。

6.4 Origin Shieldとstale戦略で雪崩を止める

キャッシュが切れた瞬間に大量のリクエストがオリジンへ集中する現象は、キャッシュスタンピードとして知られています。これが起きると、CDNがあってもピーク時に遅くなり、最悪はオリジンが落ちます。Origin Shield(エッジの裏に“もう一段のキャッシュ”を置く発想)や、stale-while-revalidateの活用で、更新とピークが重なったときの雪崩を抑えられます。つまり「更新のための再取得」が一斉に走る状況を、構造で分散させます。

ピーク耐性は「速い日常」よりも体験に効きます。普段は速くても、キャンペーンやニュースで混んだ瞬間に遅くなると、ユーザーは不安定さを強く感じます。CDN活用によるWeb高速化を持続可能にするには、平常時の指標だけでなく、ピーク時の壊れ方も設計しておくことが重要です。雪崩を止める設計は、速度改善でありながら信頼性改善でもあります。

7. CDN活用の効果と注意点

CDN活用によるWeb高速化は強力ですが、得られる効果と引き換えに、設計と運用の責任が増えます。ここでは、メリットとデメリットを「構造として何が変わるか」という観点で整理します。性能だけを見て導入すると、後から運用で詰まるため、最初に全体像を押さえておくことが重要です。

CDNのメリットは、速度改善が単独のチューニングに留まらず、配信と運用の安定性まで同時に押し上げられる点にあります。エッジキャッシュが効けばTTFBが改善し、オリジンのCPUやDB負荷が下がり、ピーク時の遅延や障害リスクも下げやすくなります。さらに、圧縮やプロトコル最適化をまとめて適用できると、ネットワークが弱い環境でも体験が底上げされ、地域差を抑えやすくなります。速度改善が「一部ユーザーだけ」ではなく「全体の底上げ」になるのが、CDNの強さです。

もう一段深いメリットは、設計の自由度が増えることです。オリジンがキャッシュ前提で軽くなると、動的処理へ投資を集中でき、アプリ側のスケール戦略も単純化できる場合があります。画像最適化やアセット配信をCDNへ寄せれば、アプリ実装は機能に集中でき、チームの分業もしやすくなります。CDNは高速化の道具であると同時に、構造を整えるための境界にもなり得ます。ここまで見据えると、CDN導入は“インフラ施策”ではなく“プロダクト施策”になります。

一方でCDNのデメリットは、キャッシュという“状態”を配信経路に持ち込むことで、反映と正しさの管理が必須になる点です。オリジンで直せばすぐ反映される、という単純さが失われ、TTLや無効化の設計が弱いと古い情報が残り続けます。さらに、キャッシュキーの扱いを誤ると、ログインユーザーの情報が別ユーザーへ誤配信されるなど、重大事故へ繋がります。高速化は“正しく配る”ことが前提であり、正しさを落とす高速化は価値がありません。

もう一つのデメリットは、デバッグと運用が難しくなることです。問題が起きたときに、オリジン・CDN・クライアントのどこで起きているかを切り分ける必要があり、ログと観測が整っていないと復旧が遅れます。また、Purgeの乱用や設定ミスでヒット率が落ちると、速度が悪化するだけでなくコストが跳ねることもあります。CDN活用は「置けば終わり」ではなく、設計と運用の一部として組み込む必要があります。

8. よくある誤解と事故の連鎖

CDN活用によるWeb高速化が失敗するときは、単発のミスではなく、誤解が原因となって発生し、発生が悪化して事故へ繋がることが多いです。ここでは、典型パターンを具体例付きで整理し、設計として先に潰せる形にします。誤解を放置すると、運用のたびに同じ事故が形を変えて起きます。

8.1 「とりあえず全部キャッシュ」が生む誤配信

原因は、キャッシュ可能性の分類が曖昧なまま、CDNの設定で強引にキャッシュを有効化することです。発生としては、ログイン状態や権限で内容が変わるページが共有キャッシュに載ってしまいます。悪化すると、ユーザーAの情報がユーザーBに見えるなどの事故に繋がり、信用問題になります。速度改善のための施策が、最も高い代償(信頼毀損)を払う形になるのがこのパターンです。

具体例として、CookieやAuthorizationに依存するAPIレスポンスを、キャッシュキーに含めずにキャッシュしてしまうケースがあります。最初は「速くなった」に見えても、アクセスが増えた瞬間に誤配信が顕在化します。対策は、キャッシュキーの設計と、キャッシュしてよい対象の明文化を先に行い、危険領域はCDNをバイパスさせることです。速さより安全が優先される領域をはっきりさせるだけでも、事故確率は大きく下がります。

8.2 Purge乱用でヒット率が崩れ、ピークで遅くなる

原因は、反映を速くする手段がPurgeしかない設計になっていることです。発生として、更新のたびに広範囲のPurgeが走り、ヒット率が下がります。悪化すると、ピーク時にオリジンへ負荷が集中し、CDNがあるのに遅い、という状態になります。ここでさらにPurgeを増やすと、負荷は増え、速度も落ち、コストも上がるという悪循環に入ります。

具体例として、記事一覧やトップページを更新のたびに全消ししてしまい、アクセスが集中する時間帯にキャッシュが温まらず、オリジンが耐えられなくなるケースが挙げられます。対策は、バージョニング可能なものはURLで切り替え、Purgeはサロゲートキーなどで狙い撃ちし、ピーク時はstale戦略で雪崩を避けることです。反映速度はPurgeだけで担保しない、という構造を作ると運用が安定します。

8.3 ヘッダー設計の不備で想定外のキャッシュ挙動

原因は、Cache-ControlやVaryなどのヘッダーがアプリの実態と一致していないことです。発生として、CDNがキャッシュしないはずのものを保持したり、逆に保持すべきものを保持しなかったりします。悪化すると、環境や地域で挙動が変わり、再現性が落ちてデバッグ不能になります。「たまに遅い」「一部だけ古い」など、最も扱いづらい不具合になりやすいのがこのパターンです。

具体例として、Varyが必要なのに付いていない、あるいは不要にVaryが多くてヒット率が落ちるケースがあります。対策は、レスポンスが何に依存して変わるかを整理し、ヘッダーを契約として固定し、CDNの挙動がそれに従うよう設定を揃えることです。ヘッダーは“通信の飾り”ではなく、キャッシュ挙動を支配する契約です。

9. 運用・可観測性・KPIで高速化を維持する

CDN活用によるWeb高速化は、導入より維持が難しい領域です。最初は速くなっても、機能追加や施策でキャッシュが崩れ、いつの間にか遅くなることがあります。ここでは、運用で速度を守るための観測とKPI、そして止める条件を整理します。速度は“作る”より“守る”ほうが難しい、という前提で設計します。

9.1 観測すべき指標の設計

速度改善を運用で回すには、少なくとも「体験」「キャッシュ」「オリジン」「コスト」の4点を観測します。体験はTTFBとLCPを中心に、キャッシュはヒット率とバイパス率、オリジンはリクエスト数とエラー率、コストはCDNリクエストと転送量の傾向を追うと、原因が切り分けやすくなります。どの指標が動いたかで「キャッシュが崩れたのか」「オリジンが詰まっているのか」「配信層の問題か」を判断できるため、復旧が速くなります。

この設計で重要なのは、平均値ではなく分位(p95など)を見ることです。ピークや一部地域で遅い状態は平均では見えません。CDNは地域差を縮めるためにも使われるため、地域別のTTFB、キャッシュミスの偏り、特定パスのバイパス率なども見られると改善が具体になります。観測は「見栄えの良いダッシュボード」ではなく「切り分けの速度」を上げるために設計します。

9.2 KPIの例と止める条件

KPIは複数軸で持つと、やりすぎを止められます。代表例として、TTFBやLCPの改善を成果指標に置きつつ、キャッシュヒット率、オリジンエラー率、Purge頻度、コスト上限をガードレールにします。速度だけ見てヒット率を犠牲にするとピークで死にますし、ヒット率だけ見て反映が遅いと運用が崩れます。複数軸で見て初めて、持続的な高速化になります。

止める条件も事前に置くと、事故が致命傷になりにくくなります。たとえば「キャッシュヒット率が継続的に下がったら新ルールをロールバックする」「オリジン5xxが増えたら一時的にstale優先へ切り替える」「誤配信リスクが疑われる場合は当該パスを即時バイパスする」といった制御スイッチを持つと、運用が安定します。止める条件は“失敗の保険”ではなく“改善を続けるための安全装置”です。

9.3 変更管理としてのキャッシュ運用

CDN設定はコードと同じく変更管理が必要です。キャッシュルールの変更はリリースと同様に影響が広く、誤ると一瞬で全ユーザーに影響します。したがって、変更の記録、段階適用、ロールバック手順、影響範囲の見積もりを持つと、改善が継続しやすくなります。特に複数チームが関与する場合、CDNは“共有資産”になりやすく、無秩序な変更はすぐに崩れを生みます。

アプリ側の変更(ルーティング、ヘッダー、認証)とCDN側の変更(キャッシュルール)が噛み合わないと、想定外のキャッシュ挙動が生まれます。境界の契約としてヘッダーとキャッシュ戦略を固定し、変更時に必ず確認する運用を作ると、CDN活用によるWeb高速化が“仕組み”として定着します。高速化は技術施策でありながら、同時に運用設計です。

 

おわりに

CDN活用によるWeb高速化は、静的アセットの長期キャッシュだけで完結しません。キャッシュヒットが増えるほどオリジンのCPUやDBが守られ、ピーク時に遅くならないことが体験として効いてきます。一方で、配信経路にキャッシュという“状態”を持ち込む以上、反映と正しさを管理する責任も同時に増えます。キャッシュキーやVaryの設計を誤ると、ログイン情報の誤配信のような重大事故に直結し、反映遅延が続けばPurge乱用でヒット率が崩れていきます。速さの成果は、正しく配れる設計が前提になります。

継続的に速さを守るには、設計を指標と変更管理に接続するのが実務的です。TTFBやLCPを成果として追いながら、ヒット率・バイパス率・オリジン5xx・Purge頻度・コストをガードレールとして置き、悪化時に切り替えるスイッチを先に用意します。たとえば誤配信疑いが出たら当該パスを即時バイパス、ヒット率が落ちたら新ルールをロールバック、ピーク時はstale優先で雪崩を止める、といった止め方です。CDNは「置けば速い」ではなく、契約(ヘッダーとルール)と観測が揃ったときに、速いまま崩れにくい配信層として定着します。

LINE Chat