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非機能要件とは?システム品質を支える重要な要件を解説

システム開発では、「どのような機能を実装するか」に注目が集まりがちです。たとえば、商品を検索できる、注文を登録できる、ユーザーがログインできる、帳票を出力できるといった機能は、利用者や事業部門にも分かりやすいため、要件定義の初期段階から議論されやすい項目です。しかし、実際にシステムを安定して運用し、継続的に価値を提供するためには、機能そのものだけでなく、「どのような品質で提供するか」を定義する非機能要件が欠かせません。

たとえ必要な機能がすべて実装されていても、検索に時間がかかりすぎる、同時アクセスに耐えられない、障害時に復旧できない、セキュリティ対策が不十分である、運用担当者が監視できないといった問題があれば、システムとして十分な価値を提供することはできません。特に業務システム、ECサイト、金融システム、医療システム、SaaS、クラウドサービスなどでは、非機能要件の品質が事業継続やユーザー満足度に直結します。

非機能要件は、システムの使いやすさ、速さ、安定性、安全性、保守性、拡張性、運用性を支える重要な要件です。しかし、機能要件と比べると目に見えにくく、後回しにされやすい傾向があります。その結果、リリース後に性能不足や障害対応の難しさが発覚し、追加コストや運用負荷が大きくなることがあります。本記事では、非機能要件の基本、機能要件との違い、代表的な種類、定義の進め方、評価方法、設計時のポイントについて体系的に解説します。

1. 非機能要件とは?

非機能要件とは、システムが備えるべき品質や性能、運用条件に関する要件のことです。機能要件が「何を実現するか」を定義するのに対し、非機能要件は「どのような品質で実現するか」を定義します。具体的には、処理速度、可用性、セキュリティ、保守性、拡張性、運用性、バックアップ、災害対策、ユーザビリティなどが含まれます。

主な特徴

項目内容
定義システム品質に関する要件
対象性能・可用性・セキュリティなど
目的安定したシステム運用
関連工程要件定義・設計・運用
重要性システム品質を左右する

非機能要件は、システム全体の品質を決める重要な要素です。機能が正しく動作していても、応答が遅い、障害に弱い、セキュリティリスクが高い、保守しにくいといった状態では、利用者や運用者にとって使いにくいシステムになります。そのため、非機能要件は要件定義の早い段階から検討し、設計、開発、テスト、運用に反映する必要があります。

2. 機能要件との違い

非機能要件を理解するには、機能要件との違いを整理することが重要です。機能要件は、システムが提供する具体的な機能を定義します。一方、非機能要件は、その機能をどの品質で提供するかを定義します。両者は別々のものではなく、システムの価値を成立させるために相互に関係しています。

2.1 機能要件とは

機能要件とは、システムが実現すべき具体的な機能を定義したものです。たとえば、ユーザー登録、ログイン、商品検索、注文登録、在庫確認、承認処理、帳票出力、通知送信などが機能要件に該当します。利用者がシステムを使って実行したい操作や業務処理を明確にするための要件です。

機能要件は、業務フローや利用シーンに基づいて整理されることが多く、関係者にも比較的理解されやすい特徴があります。顧客や利用部門は「この機能が欲しい」「この画面で登録したい」「この帳票を出したい」といった形で要望を出しやすいため、要件定義でも中心的に扱われます。ただし、機能だけを定義しても、システムが快適で安全に使えるとは限りません。

2.2 非機能要件とは

非機能要件とは、システムの品質や利用条件を定義する要件です。たとえば、検索結果を1秒以内に表示する、年間稼働率を99.9%以上にする、重要データを暗号化する、障害発生時に30分以内に復旧する、一定数の同時接続に耐えるといった要件が該当します。これらは特定の機能そのものではなく、システム全体の品質に関わります。

非機能要件は、利用者から明確に要望として出てこないことも多いです。しかし、実際の運用では非常に重要です。たとえば、商品検索機能があっても、検索に10秒かかればユーザーは離脱する可能性があります。ログイン機能があっても、認証が弱ければ不正アクセスのリスクがあります。非機能要件は、機能を実用的な品質で提供するために不可欠です。

2.3 両者の関係

機能要件と非機能要件は、システム開発においてどちらか一方だけで成立するものではありません。機能要件が「何を作るか」を示し、非機能要件が「どの品質で作るか」を示します。つまり、機能要件と非機能要件は、システムの価値を構成する両輪です。どちらかが不足すると、利用者にとって満足できるシステムにはなりません。

たとえば、ECサイトの商品検索機能を考える場合、商品名やカテゴリで検索できることは機能要件です。一方で、検索結果を1秒以内に表示すること、同時に1万人がアクセスしても処理できること、検索履歴や個人情報を安全に扱うことは非機能要件です。実際のシステム品質は、この両方が適切に設計されて初めて実現されます。

機能要件と非機能要件の比較

項目機能要件非機能要件
内容何を実現するかどの品質で実現するか
商品検索機能1秒以内で検索結果を表示
主な対象業務機能システム品質
影響範囲特定機能システム全体

3. 非機能要件が重要な理由

非機能要件が重要なのは、システムの実用性、安定性、信頼性、事業継続性に直接関わるからです。機能が揃っているだけでは、ユーザーが快適に使えるとは限りません。システムが遅い、止まりやすい、安全でない、運用しにくい場合、利用者や事業に大きな悪影響を与える可能性があります。

3.1 ユーザー満足度への影響

ユーザー満足度は、機能の有無だけで決まるわけではありません。画面の表示が速い、操作が分かりやすい、エラーが少ない、必要な情報にすぐアクセスできるといった品質面も大きく影響します。どれだけ便利な機能があっても、動作が遅かったり、頻繁にエラーが発生したりすると、ユーザーは不満を感じます。

特にWebサービスやECサイトでは、レスポンスの遅さが離脱率や売上に影響することがあります。業務システムでも、処理が遅いと作業効率が下がり、現場の負担が増えます。非機能要件を適切に定義することで、ユーザーがストレスなく利用できる品質を確保しやすくなります。

3.2 システム運用への影響

非機能要件は、システム運用にも大きな影響を与えます。監視、ログ管理、障害対応、バックアップ、復旧手順、保守性が十分に設計されていないと、運用開始後に問題が発生した際の対応が難しくなります。障害が発生してから運用体制を整えるのでは遅く、開発段階から運用を見据えた設計が必要です。

運用要件が明確であれば、異常検知、通知、原因調査、復旧作業を効率的に行えます。また、保守しやすい構成や分かりやすいログ設計があれば、障害対応や機能改修の負担も軽減できます。非機能要件は、リリース後にシステムを安定して運用するための基盤になります。

3.3 ビジネス継続性への影響

システムが事業の中核を担っている場合、非機能要件はビジネス継続性に直結します。たとえば、ECサイトが長時間停止すれば売上機会を失います。金融システムや医療システムが停止すれば、利用者や社会に大きな影響を与える可能性があります。そのため、可用性、バックアップ、災害対策、復旧時間の設計が重要になります。

ビジネス継続性を確保するには、障害が起きないようにするだけでなく、障害が起きた場合にどれだけ早く復旧できるかも考える必要があります。RTOやRPOのような復旧目標を設定し、事業への影響を最小限に抑える設計が求められます。非機能要件は、企業のリスク管理にも関わる重要な要件です。

4. 性能要件

性能要件とは、システムがどの程度の速度や処理能力を持つべきかを定義する要件です。レスポンスタイム、スループット、同時接続数などが代表的な項目です。性能要件が不十分だと、ユーザー体験が悪化したり、業務処理が滞ったりする可能性があります。

4.1 レスポンスタイム

レスポンスタイムとは、ユーザーが操作してからシステムが結果を返すまでの時間です。たとえば、検索ボタンを押してから検索結果が表示されるまでの時間や、登録ボタンを押してから完了メッセージが出るまでの時間が該当します。レスポンスタイムはユーザー体験に直結するため、非機能要件の中でも特に重要です。

レスポンスタイムを定義する際には、「速くする」という曖昧な表現ではなく、「通常時は2秒以内」「ピーク時でも5秒以内」など、具体的な数値で示すことが重要です。また、すべての処理に同じ速度を求めるのではなく、ユーザーが頻繁に使う画面や業務上重要な処理を優先して目標を設定することが現実的です。

4.2 スループット

スループットとは、一定時間内にシステムが処理できる量を表します。たとえば、1秒あたりのリクエスト数、1時間あたりの注文処理件数、1日あたりのバッチ処理件数などが該当します。スループットが不足すると、利用者が増えたときや大量処理が発生したときに、処理遅延やシステム停止が起きる可能性があります。

スループットを定義する際には、通常時だけでなくピーク時の利用状況も想定する必要があります。ECサイトであればセール期間、業務システムであれば月末処理や締め処理など、負荷が集中するタイミングがあります。実際の利用パターンを踏まえて、必要な処理能力を設計することが重要です。

4.3 同時接続数

同時接続数とは、同時にシステムへアクセスするユーザー数やセッション数を表します。Webサービスや業務システムでは、複数のユーザーが同時に利用するため、想定される同時接続数を定義しておく必要があります。同時接続数を見誤ると、アクセス集中時にシステムが遅くなったり、利用できなくなったりします。

同時接続数は、単純な登録ユーザー数とは異なります。登録ユーザーが多くても、同時にアクセスする人数は一部である場合があります。一方で、イベントやキャンペーン、業務締め処理のタイミングでは一時的にアクセスが集中することがあります。利用状況を想定し、現実的な同時接続数を設定することが重要です。

5. 可用性要件

可用性要件とは、システムをどれだけ継続して利用できる状態に保つかを定義する要件です。稼働率、障害対策、冗長構成などが含まれます。可用性が低いシステムは、障害時に利用できなくなり、業務停止や売上損失につながる可能性があります。

5.1 稼働率

稼働率とは、システムが利用可能な状態で稼働している割合を示す指標です。たとえば、稼働率99.9%や99.99%といった形で表現されます。稼働率が高いほど、システム停止時間は短くなりますが、その分、冗長化や監視、障害対応のコストも高くなります。

稼働率を定義する際には、システムの重要度を考慮する必要があります。すべてのシステムに最高レベルの可用性を求めると、コストが過大になります。業務への影響や利用時間帯を踏まえ、どの程度の停止が許容されるのかを明確にすることが重要です。

5.2 障害対策

障害対策とは、システム障害が発生した場合に影響を最小限に抑えるための設計です。サーバー障害、ネットワーク障害、データベース障害、アプリケーション障害、外部サービス障害など、さまざまな障害を想定する必要があります。障害が完全にゼロになることはないため、発生時の対応を事前に設計することが重要です。

障害対策には、監視、通知、フェイルオーバー、バックアップ、復旧手順、障害時の連絡体制などが含まれます。障害が起きたときに誰が何をするのか、どの順番で復旧するのかを決めておくことで、対応時間を短縮できます。可用性要件は、障害発生を前提にした現実的な設計が求められます。

5.3 冗長構成

冗長構成とは、システムの一部に障害が発生してもサービスを継続できるように、複数のサーバーやネットワーク、データベースを用意する設計です。たとえば、複数のWebサーバーをロードバランサーで分散したり、データベースをレプリケーションしたりする構成が該当します。

冗長構成を採用することで可用性は高まりますが、コストや運用の複雑さも増えます。そのため、システムの重要度に応じて適切な冗長レベルを選ぶ必要があります。重要な業務システムや24時間稼働が求められるサービスでは、冗長構成の設計が特に重要になります。

6. 信頼性要件

信頼性要件とは、システムが正確かつ安定して動作し続けるための要件です。障害発生率、データ整合性、システム安定性などが含まれます。信頼性が低いシステムでは、データ不整合や予期しないエラーが発生し、業務や利用者に大きな影響を与える可能性があります。

6.1 障害発生率

障害発生率は、一定期間内にどの程度の頻度で障害が発生するかを示す指標です。障害が頻繁に発生するシステムは、ユーザーからの信頼を失いやすく、運用担当者の負担も増えます。信頼性要件では、許容できる障害頻度や障害レベルを定義することが重要です。

障害発生率を下げるには、設計段階での品質確保、テストの充実、コードレビュー、監視、リリース管理が必要です。また、障害が発生した場合の原因分析と再発防止も重要です。信頼性は一度の設計だけでなく、運用を通じて継続的に高める必要があります。

6.2 データ整合性

データ整合性とは、システム内のデータが正確で矛盾なく保たれている状態を指します。たとえば、注文データと在庫データが一致している、入金情報と請求情報が矛盾していない、複数システム間で顧客情報が一致しているといった状態が求められます。データ整合性が崩れると、業務上の重大な問題につながります。

データ整合性を保つには、トランザクション管理、排他制御、入力チェック、データ連携設計、エラー時のロールバック処理が重要です。特に複数システムが連携する場合、どのシステムを正とするのか、同期タイミングをどうするのかを明確にする必要があります。信頼性要件では、データの正しさを維持する仕組みを設計します。

6.3 システム安定性

システム安定性とは、長期間にわたって予期しない停止や異常が少なく、安定して動作する性質です。メモリリーク、処理遅延、リソース枯渇、外部連携エラーなどが頻発すると、システムは安定しているとは言えません。安定性は、ユーザー体験だけでなく、運用コストにも影響します。

システム安定性を高めるには、設計、実装、テスト、監視、運用のすべてが関係します。負荷試験や長時間稼働試験を行い、実運用に近い条件で問題を確認することも重要です。安定したシステムは、利用者に安心感を与え、運用担当者の負担も軽減します。

7. 拡張性要件

拡張性要件とは、将来的な利用者増加、データ量増加、機能追加に対応できるようにするための要件です。システムはリリース時点だけでなく、将来の成長や変更に耐えられる設計が求められます。拡張性が低いと、事業成長に合わせた改修が難しくなります。

7.1 スケーラビリティ

スケーラビリティとは、利用者数や処理量が増えたときに、システムを拡張して対応できる性質です。たとえば、アクセス数が増えた場合にサーバー台数を増やす、データベースを分散する、クラウドリソースを自動的に増減させるといった対応が考えられます。スケーラビリティは、成長するサービスにとって非常に重要です。

スケーラビリティを考慮せずに設計すると、利用者が増えた段階で性能不足が発生し、大規模な改修が必要になることがあります。特にWebサービスやSaaSでは、事業成長に合わせて柔軟に拡張できる設計が求められます。非機能要件として、将来的な利用規模を想定しておくことが重要です。

7.2 将来的な機能追加

将来的な機能追加に対応できることも、拡張性要件の重要な要素です。システムはリリース後も、業務変更、新サービス追加、法改正、外部システム連携などによって改修が必要になります。最初の設計が硬直的だと、機能追加のたびに大きな影響が出る可能性があります。

機能追加しやすいシステムにするには、モジュール化、API設計、疎結合な構成、適切なデータ設計が重要です。また、将来の変更をすべて予測することはできないため、変化に対応しやすい構造を作ることが現実的です。拡張性要件は、長期的な保守性とも深く関係します。

7.3 ユーザー増加への対応

ユーザー増加への対応は、Webサービスや業務システムにおいて重要な拡張性要件です。リリース直後は少人数で利用していても、将来的に利用部門が増えたり、外部ユーザーが増加したりする可能性があります。ユーザー数が増えると、認証、権限管理、データ量、処理負荷、サポート体制にも影響します。

ユーザー増加を見越した設計では、単にサーバー性能を上げるだけでなく、権限設計、データ分割、ログ管理、監視体制も考慮する必要があります。将来的な成長に耐えられるシステムを作ることで、事業拡大時の改修コストや運用負荷を抑えられます。

8. 保守性要件

保守性要件とは、システムを修正、改善、運用しやすくするための要件です。システムはリリースして終わりではなく、障害対応、機能追加、法改正対応、セキュリティ更新など、継続的な保守が必要になります。保守性が低いシステムは、改修に時間がかかり、運用コストが高くなります。

8.1 保守のしやすさ

保守のしやすさとは、システムの構造やコードが分かりやすく、修正や調査を行いやすい状態を指します。設計が複雑すぎたり、ドキュメントが不足していたり、担当者しか分からない実装になっていたりすると、保守が難しくなります。保守性は、長期運用を前提とするシステムにとって非常に重要です。

保守しやすいシステムにするには、設計ルール、命名規則、コードレビュー、ドキュメント整備、テスト自動化が有効です。また、属人化を防ぐために、運用手順や障害対応手順を明確にしておく必要があります。保守性要件は、将来の変更やトラブルに備えるための品質要件です。

8.2 ソースコード管理

ソースコード管理は、保守性を高めるための基本です。Gitなどのバージョン管理システムを使い、変更履歴、ブランチ、リリースタグ、レビュー履歴を管理します。ソースコード管理が適切に行われていないと、誰が何を変更したのか分からなくなり、障害発生時の原因調査が難しくなります。

ソースコード管理では、開発ルールも重要です。ブランチ戦略、レビュー手順、マージルール、リリース管理を決めておくことで、複数人での開発を安定して進められます。保守性要件では、システムの中身だけでなく、開発プロセスの管理も考慮する必要があります。

8.3 運用効率化

運用効率化とは、日々の監視、設定変更、障害対応、データ確認、定期作業などを効率的に行えるようにすることです。運用作業が手作業に依存していると、ミスが発生しやすく、担当者の負担も増えます。運用効率化は、システムの安定稼働とコスト削減に関わります。

運用効率化には、自動化、監視ツール、ログ分析、アラート設計、運用手順書の整備が有効です。クラウド環境では、Infrastructure as Codeや自動スケーリング、マネージドサービスの活用も選択肢になります。保守性要件では、開発後の運用負荷まで見据えて設計することが大切です。

9. セキュリティ要件

セキュリティ要件とは、システムやデータを不正アクセス、情報漏えい、改ざん、なりすましなどから守るための要件です。現代のシステムでは、セキュリティは後付けではなく、要件定義や設計段階から考慮すべき重要な非機能要件です。特に個人情報や機密情報を扱うシステムでは、厳格な対策が必要です。

9.1 認証

認証とは、利用者が本人であることを確認する仕組みです。IDとパスワード、多要素認証、シングルサインオン、生体認証などが認証方式として利用されます。認証が弱いと、不正ログインやなりすましのリスクが高まります。そのため、システムの重要度に応じた認証設計が必要です。

認証要件では、パスワードポリシー、ログイン試行回数制限、セッション管理、多要素認証の有無、認証ログの保存などを定義します。特に管理者権限を持つユーザーや重要データにアクセスするユーザーには、より強固な認証が求められます。認証は、セキュリティの入口となる重要な要件です。

9.2 認可

認可とは、認証されたユーザーに対して、どの操作やデータへのアクセスを許可するかを制御する仕組みです。たとえば、一般ユーザーは自分の情報だけを閲覧でき、管理者は全ユーザーの情報を管理できるといった権限制御が該当します。認証が正しくても、認可が不十分だと不適切な情報閲覧や操作が発生します。

認可要件では、ユーザー権限、ロール、アクセス可能な機能、データ範囲、管理者操作を定義します。業務システムでは、部署や役職によってアクセス権限が異なることも多いため、権限設計を丁寧に行う必要があります。認可は、情報漏えいや内部不正を防ぐためにも重要です。

9.3 データ保護

データ保護とは、システムで扱うデータを安全に保存・送信・利用するための対策です。個人情報、決済情報、契約情報、医療情報、企業機密などは、漏えいや改ざんが発生すると大きな問題になります。暗号化、アクセス制御、バックアップ、監査ログなどを通じてデータを保護します。

データ保護では、保存時の暗号化、通信時の暗号化、データマスキング、ログ管理、削除ポリシーなどを検討します。また、法令や業界ガイドラインへの対応も重要です。セキュリティ要件は、単に外部攻撃を防ぐだけでなく、データのライフサイクル全体を安全に管理するための要件です。

10. 運用要件

運用要件とは、システムをリリースした後に安定して管理・監視・保守するための要件です。システムは開発して終わりではなく、稼働後の運用が長く続きます。監視体制、ログ管理、障害対応、定期メンテナンス、問い合わせ対応などを事前に設計しておくことが重要です。

10.1 監視体制

監視体制とは、システムの状態を継続的に確認し、異常が発生した場合に検知できるようにする仕組みです。サーバーのCPU使用率、メモリ使用量、ディスク容量、レスポンスタイム、エラー数、ネットワーク状態、アプリケーションログなどを監視します。監視が不十分だと、障害に気づくのが遅れます。

監視体制では、何を監視するのか、どの閾値でアラートを出すのか、誰に通知するのか、どの時間帯に対応するのかを定義します。重要なシステムでは24時間365日の監視が必要になる場合もあります。運用要件では、障害を早期に検知し、迅速に対応できる体制を作ることが大切です。

10.2 ログ管理

ログ管理とは、システムの動作履歴やエラー情報、ユーザー操作、アクセス履歴を記録・保管・分析する仕組みです。ログは、障害調査、セキュリティ監査、利用状況分析、性能改善に役立ちます。ログが適切に残っていないと、問題が発生した際に原因を特定できない可能性があります。

ログ管理では、どのログを保存するか、保存期間をどうするか、個人情報を含むログをどう扱うかを定義する必要があります。また、ログ量が増えすぎると保管コストや検索性能に影響するため、適切な設計が求められます。運用要件では、後から調査しやすいログ設計が重要です。

10.3 障害対応

障害対応とは、システム障害が発生した場合に、原因を調査し、復旧し、再発防止を行う一連の対応です。障害時に誰が対応するのか、どの手順で確認するのか、どの範囲まで復旧を優先するのかを事前に決めておく必要があります。対応手順が曖昧だと、復旧までの時間が長くなります。

障害対応要件では、一次対応、エスカレーション、復旧手順、関係者への連絡、報告書作成、再発防止策の検討などを定義します。特に業務影響が大きいシステムでは、障害発生時の対応スピードが重要です。運用要件は、システムの信頼性を支える実務的な要件です。

11. バックアップ要件

バックアップ要件とは、データやシステム設定を安全に保管し、障害や誤操作、災害が発生した場合に復旧できるようにするための要件です。データ消失は事業に大きな影響を与えるため、バックアップは非機能要件の中でも重要な領域です。

11.1 バックアップ頻度

バックアップ頻度とは、どのタイミングでデータを保存するかを定義するものです。毎日、毎時間、リアルタイム、週次など、システムの重要度やデータ更新頻度に応じて設定します。頻度が低すぎると、障害発生時に失われるデータ量が多くなります。

バックアップ頻度を決める際には、RPOを考慮することが重要です。RPOとは、障害時にどの時点までのデータ復旧を許容するかを示す指標です。たとえば、1時間以内のデータ損失まで許容するのか、ほぼリアルタイムで復旧する必要があるのかによって、バックアップ設計は大きく変わります。

11.2 復旧手順

バックアップを取得していても、復旧手順が整備されていなければ意味がありません。復旧手順では、どのバックアップを使い、どの順番で復元し、どの確認を行うのかを明確にします。障害時は時間的な余裕が少ないため、事前に手順を整備しておくことが重要です。

復旧手順は、定期的にテストする必要があります。バックアップファイルが壊れていたり、手順が古くなっていたりすると、実際の障害時に復旧できない可能性があります。バックアップ要件では、取得だけでなく、復旧可能であることを確認する仕組みまで含めて設計します。

11.3 データ保全

データ保全とは、重要なデータを失わず、正確な状態で保持することです。バックアップ、レプリケーション、アーカイブ、削除制御、アクセス制御などが関係します。業務システムでは、データの消失や改ざんが重大な問題につながるため、データ保全は非常に重要です。

データ保全では、バックアップの保存場所も考慮する必要があります。同じサーバー内にバックアップを保存しているだけでは、サーバー障害時にバックアップも失われる可能性があります。別拠点やクラウドストレージへの保存、暗号化、アクセス権限管理を組み合わせることで、より安全なデータ保全が可能になります。

12. 災害対策要件

災害対策要件とは、地震、火災、停電、ネットワーク障害、大規模障害などが発生した場合でも、事業やシステムを継続・復旧できるようにするための要件です。重要な業務システムでは、通常の障害対策だけでなく、災害レベルのリスクも想定する必要があります。

12.1 DR対策

DRとはDisaster Recoveryの略で、災害や大規模障害からシステムを復旧するための対策です。DR対策では、別リージョンや別データセンターに環境を用意し、メイン環境が利用できなくなった場合に切り替えられるようにします。重要なシステムでは、DR設計が事業継続に直結します。

DR対策では、復旧時間目標であるRTOと、復旧時点目標であるRPOを定義することが重要です。どれくらいの時間で復旧する必要があるのか、どの時点までのデータを復元できればよいのかによって、必要な構成やコストが変わります。DRはコストが高くなりやすいため、事業影響に応じた設計が必要です。

12.2 BCP対応

BCPとはBusiness Continuity Planの略で、事業継続計画を意味します。システム障害や災害が発生しても、重要業務を継続または早期復旧できるようにするための計画です。非機能要件では、システムがBCP上どのような役割を持つのかを整理する必要があります。

BCP対応では、システムだけでなく、人、業務手順、連絡体制、代替手段も含めて考えることが重要です。システムが停止した場合に手作業で対応するのか、別システムに切り替えるのか、どの業務を優先して復旧するのかを定義します。BCPは、技術だけでなく組織運用と密接に関係します。

12.3 データセンター設計

データセンター設計では、システムをどの場所で運用するか、どのような冗長構成にするかを検討します。オンプレミス環境では物理的なデータセンターの選定が重要になり、クラウド環境ではリージョンやアベイラビリティゾーンの選択が重要になります。災害対策では、物理的な分散が大きな意味を持ちます。

データセンターやクラウドリージョンを設計する際には、地理的分散、ネットワーク遅延、コスト、法規制、データ保管場所の制約を考慮する必要があります。重要なシステムでは、単一拠点に依存しない構成を検討することが求められます。災害対策要件は、システムの継続性を支える重要な非機能要件です。

13. ユーザビリティ要件

ユーザビリティ要件とは、システムの使いやすさに関する要件です。操作性、アクセシビリティ、学習コストなどが含まれます。どれだけ高機能なシステムでも、操作が分かりにくかったり、利用者が使いこなせなかったりすると、業務効率やユーザー満足度は向上しません。

13.1 操作性

操作性とは、ユーザーが迷わず、少ない負担で目的の操作を行えることです。画面構成、ボタン配置、入力項目、エラーメッセージ、ナビゲーション、検索性などが操作性に影響します。操作性が悪いと、入力ミスや問い合わせが増え、業務効率が低下します。

操作性を高めるには、利用者の業務フローや利用環境を理解することが重要です。現場担当者が日常的に使うシステムでは、操作回数や入力負担を減らすことが効果的です。ユーザビリティ要件では、単に画面をきれいにするだけでなく、業務を効率よく進められる設計が求められます。

13.2 アクセシビリティ

アクセシビリティとは、年齢、身体的特性、利用環境に関わらず、多くの人がシステムを利用できるようにする考え方です。文字サイズ、色のコントラスト、キーボード操作、スクリーンリーダー対応、代替テキストなどが関係します。公共性の高いシステムや一般ユーザー向けサービスでは特に重要です。

アクセシビリティを考慮することで、利用できるユーザーの範囲が広がり、サービス品質も向上します。また、アクセシビリティ対応は法令やガイドラインと関係する場合もあります。非機能要件としてアクセシビリティを定義することで、設計段階から利用しやすいシステムを目指せます。

13.3 学習コスト

学習コストとは、ユーザーがシステムを使えるようになるまでに必要な時間や労力を指します。操作が複雑すぎるシステムでは、マニュアルや研修が必要になり、導入後の負担が増えます。特に業務システムでは、多くの従業員が短期間で使えるようになることが求められる場合があります。

学習コストを下げるには、直感的な画面設計、分かりやすい文言、入力補助、ヘルプ表示、チュートリアルが有効です。また、既存業務や一般的な操作感に合わせることも重要です。ユーザビリティ要件では、リリース後に利用者がスムーズに定着できるかを考慮します。

14. 互換性要件

互換性要件とは、システムがどのOS、ブラウザ、デバイス、外部環境で動作する必要があるかを定義する要件です。利用環境が多様化している現在では、互換性の設計が非常に重要です。対応範囲を明確にしないまま開発すると、リリース後に特定環境で動かない問題が発生する可能性があります。

14.1 OS対応

OS対応では、Windows、macOS、Linux、iOS、Androidなど、どのOSで利用できるようにするかを定義します。業務システムではWindows中心の場合もありますが、モバイル利用やリモートワークの普及により、複数OSへの対応が求められることも増えています。

OSによって、ブラウザの挙動、フォント表示、ファイル操作、通知機能、セキュリティ制限が異なる場合があります。そのため、対象OSを明確にし、検証範囲を定義することが重要です。すべてのOSに対応するにはコストがかかるため、利用者の実態に合わせた対応範囲を決める必要があります。

14.2 ブラウザ対応

ブラウザ対応では、Chrome、Edge、Safari、Firefoxなど、どのブラウザで動作保証するかを決めます。Webアプリケーションでは、ブラウザごとの仕様差や表示差が発生することがあります。特にJavaScript、CSS、カメラ利用、通知、ファイル操作などはブラウザ差異に注意が必要です。

ブラウザ対応を定義する際には、対象ユーザーが実際に利用しているブラウザを確認することが重要です。古いブラウザまで対応すると開発・テストコストが増えるため、サポート範囲を明確にする必要があります。互換性要件では、対応ブラウザとバージョンを具体的に定義することが望ましいです。

14.3 デバイス対応

デバイス対応では、PC、スマートフォン、タブレット、専用端末など、どのデバイスで利用できるようにするかを定義します。スマートフォン対応が必要な場合は、画面サイズ、タッチ操作、通信環境、カメラ利用なども考慮する必要があります。

デバイス対応を広げるほど、設計やテストの負担は増えます。そのため、利用シーンに応じて優先度を決めることが重要です。たとえば、社内業務システムではPC中心でもよい場合がありますが、営業担当が外出先で使うシステムではスマートフォン対応が重要になります。互換性要件は、利用者の実態に合わせて定義します。

15. クラウド環境と非機能要件

クラウド環境では、非機能要件の設計方法が従来のオンプレミス環境と異なる場合があります。クラウドは、可用性、拡張性、監視、自動化、バックアップ、セキュリティなどを柔軟に設計できる一方で、サービス選定や設定を誤るとコストや運用リスクが増える可能性があります。

15.1 クラウド設計

クラウド設計では、どのクラウドサービスを使い、どのようにシステムを構成するかを検討します。仮想サーバー、マネージドデータベース、ストレージ、ロードバランサー、監視サービス、認証サービスなどを組み合わせ、非機能要件を満たす構成を作ります。クラウドの特性を理解した設計が重要です。

クラウドでは、サービスを選ぶだけでなく、責任分界点も理解する必要があります。クラウド事業者が管理する範囲と、利用者側が設定・運用する範囲を明確にしなければ、セキュリティや可用性の問題が発生する可能性があります。クラウド設計では、非機能要件をクラウドサービスの機能にどう落とし込むかが重要です。

15.2 可用性向上

クラウド環境では、複数のアベイラビリティゾーンやリージョンを活用することで、可用性を高められます。単一サーバーに依存せず、複数の環境に分散することで、障害時にもサービスを継続しやすくなります。可用性要件に応じて、冗長構成やフェイルオーバーを設計します。

ただし、高可用性構成はコストが増える場合があります。すべてのシステムに最大レベルの冗長化を行うのではなく、事業影響や重要度に応じて設計することが大切です。クラウドは柔軟性が高いからこそ、非機能要件に基づいた適切な設計判断が必要になります。

15.3 オートスケーリング

オートスケーリングとは、アクセス数や負荷に応じてサーバーやリソースを自動的に増減させる仕組みです。クラウド環境では、需要に合わせて柔軟にリソースを調整できるため、性能要件や拡張性要件を満たしやすくなります。ピーク時だけリソースを増やし、通常時は抑えることでコスト最適化も期待できます。

オートスケーリングを導入する際には、スケール条件、最小・最大台数、起動時間、セッション管理、データベース負荷を考慮する必要があります。アプリケーション側がスケーリングに対応していなければ、リソースを増やしても十分な効果が得られない場合があります。クラウド環境では、アプリ設計とインフラ設計を一体で考えることが重要です。

16. 非機能要件定義の進め方

非機能要件定義では、システムに求められる品質を整理し、具体的な数値目標や評価基準へ落とし込むことが重要です。曖昧な表現のままでは、設計やテストで判断できません。要求整理、数値目標設定、評価基準策定を段階的に進めることで、実現可能な非機能要件を定義できます。

16.1 要求整理

要求整理では、関係者からシステム品質に関する期待や制約を集めます。たとえば、「止まらないようにしたい」「速く動いてほしい」「安全に使いたい」「運用負荷を減らしたい」といった要望を整理します。ただし、この段階では表現が曖昧なことが多いため、具体化が必要です。

要求整理では、事業部門、情報システム部門、運用担当者、セキュリティ担当者、利用者など、複数の関係者から意見を集めることが重要です。非機能要件はシステム全体に関わるため、一部の担当者だけで決めると抜け漏れが発生しやすくなります。幅広い視点を集めて整理することが大切です。

16.2 数値目標設定

数値目標設定では、曖昧な要求を具体的な目標に変換します。たとえば、「速い」ではなく「通常時の検索結果表示は2秒以内」、「止まりにくい」ではなく「月間稼働率99.9%以上」といった形で定義します。数値化することで、設計やテストで確認しやすくなります。

ただし、すべての非機能要件を厳しく設定すればよいわけではありません。高い品質目標にはコストが伴います。ビジネス上の重要度、利用者数、システム停止時の影響を考慮し、現実的な数値目標を設定する必要があります。数値目標は、品質とコストのバランスを取るための重要な判断材料です。

16.3 評価基準策定

評価基準策定では、定義した非機能要件をどのように確認するかを決めます。性能要件であれば性能試験、可用性要件であれば障害テスト、セキュリティ要件であれば脆弱性診断などが考えられます。評価方法を決めておかないと、要件を満たしているか判断できません。

評価基準には、試験条件、測定方法、合格基準を含める必要があります。たとえば、どのデータ量で負荷試験を行うのか、何人の同時アクセスを想定するのか、どのレベルの脆弱性を許容しないのかを明確にします。非機能要件は、定義して終わりではなく、検証できる形にすることが重要です。

17. 非機能要件の課題

非機能要件には、定量化の難しさ、要件漏れ、コストとのバランスといった課題があります。機能要件と比べて目に見えにくいため、関係者間で重要性が共有されにくい場合もあります。これらの課題を理解し、早い段階から対策することが重要です。

17.1 定量化の難しさ

非機能要件は、「速い」「安定している」「安全である」「使いやすい」といった抽象的な表現になりやすいです。しかし、抽象的なままでは設計やテストで判断できません。どの程度速ければよいのか、どの程度の障害を許容するのかを具体化する必要があります。

定量化するには、業務影響や利用状況を把握することが重要です。すべての処理に同じ性能を求めるのではなく、重要な処理や利用頻度の高い処理を優先して目標を設定します。定量化は難しい作業ですが、非機能要件の品質を確保するためには欠かせません。

17.2 要件漏れ

非機能要件は、要件漏れが発生しやすい領域です。機能要件は業務担当者から要望が出やすい一方で、監視、ログ、バックアップ、復旧、セキュリティ、互換性などは後回しにされることがあります。その結果、リリース後に運用上の問題が発覚することがあります。

要件漏れを防ぐには、チェックリストや標準的な非機能要件項目を活用することが有効です。また、開発担当者だけでなく、運用担当者やセキュリティ担当者も要件定義に参加することが重要です。非機能要件はシステム全体に関わるため、多角的な確認が必要です。

17.3 コストとのバランス

非機能要件は、品質を高めるほどコストが増える傾向があります。高い可用性を求めれば冗長構成が必要になり、高い性能を求めればインフラや最適化にコストがかかります。セキュリティ対策や災害対策も、レベルを上げるほど投資が必要になります。

そのため、非機能要件では、ビジネス上の重要度とコストのバランスを取ることが重要です。すべてを最高レベルにするのではなく、事業への影響が大きい領域に重点的に投資する必要があります。非機能要件は、品質を追求するだけでなく、現実的なコスト設計も含めて検討します。

18. 非機能要件の評価方法

非機能要件は、定義するだけでは不十分です。実際に要件を満たしているかどうかを評価する必要があります。代表的な評価方法には、性能試験、負荷試験、セキュリティ診断などがあります。評価を通じて、設計や実装に問題がないかを確認します。

18.1 性能試験

性能試験は、システムが定義されたレスポンスタイムや処理能力を満たしているかを確認する試験です。通常時の処理速度、ピーク時の応答時間、バッチ処理時間などを測定します。性能試験を行うことで、実運用前に性能不足を発見できます。

性能試験では、実際の利用状況に近い条件を設定することが重要です。少量のデータや少ないアクセス数だけで試験しても、本番環境で問題が発生する可能性があります。データ量、同時接続数、操作パターンを現実に近づけて測定することで、より信頼性の高い評価ができます。

18.2 負荷試験

負荷試験は、システムに大きな負荷をかけたときの動作を確認する試験です。同時アクセスが増えた場合、リクエスト数が急増した場合、大量データを処理した場合に、システムがどのように動作するかを確認します。負荷試験は、性能要件や拡張性要件の評価に役立ちます。

負荷試験では、限界性能を把握することも重要です。どの時点で応答が遅くなるのか、どのリソースがボトルネックになるのかを確認することで、改善ポイントを特定できます。クラウド環境では、オートスケーリングが期待通りに動作するかを確認することも重要です。

18.3 セキュリティ診断

セキュリティ診断は、システムに脆弱性がないかを確認する評価方法です。認証、認可、入力チェック、通信暗号化、セッション管理、アクセス制御などを確認します。Webアプリケーションでは、SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング、認証不備などのリスクを確認することが重要です。

セキュリティ診断は、リリース前だけでなく、運用中にも定期的に行うことが望ましいです。新しい脆弱性が発見されたり、システム変更によって新たなリスクが生まれたりすることがあるからです。セキュリティ要件は、一度確認して終わりではなく、継続的な管理が必要です。

19. 非機能要件設計のポイント

非機能要件を設計する際には、ビジネス要件との整合、現実的な目標設定、運用まで考慮することが重要です。非機能要件は技術的な項目に見えますが、実際には事業の重要度や利用者の期待と密接に関係しています。

19.1 ビジネス要件との整合

非機能要件は、ビジネス要件と整合している必要があります。たとえば、24時間売上を生み出すECサイトであれば高い可用性が必要ですが、社内で月に数回使うシステムに同じレベルの可用性を求める必要はないかもしれません。システムの重要度に応じて品質目標を決めることが大切です。

ビジネス要件と整合しない非機能要件は、過剰投資や品質不足につながります。重要な業務を支えるシステムでは高い品質が必要ですが、そうでない領域ではコストとのバランスを取る必要があります。非機能要件は、技術的理想だけでなく、事業価値を踏まえて設計します。

19.2 現実的な目標設定

非機能要件では、現実的な目標設定が重要です。すべての項目で最高品質を目指すと、開発コストや運用コストが大きくなります。また、実現が難しい目標を設定すると、プロジェクトの遅延や設計の複雑化につながる可能性があります。

現実的な目標を設定するには、利用者数、業務影響、予算、スケジュール、運用体制を考慮する必要があります。たとえば、レスポンスタイムを1秒以内にする必要がある処理と、数分かかっても問題ないバッチ処理では、求める品質が異なります。非機能要件は、優先順位を付けて設計することが重要です。

19.3 運用まで考慮する

非機能要件は、開発時だけでなく運用時にも大きく関わります。監視、ログ、バックアップ、障害対応、セキュリティ更新、保守作業などを考慮せずに設計すると、リリース後の運用負荷が高くなります。システムはリリース後の期間の方が長いため、運用まで含めた設計が必要です。

運用を考慮するには、運用担当者の体制、対応時間、監視範囲、復旧手順、定期作業を早い段階で整理します。また、クラウドサービスや自動化ツールを活用することで、運用負荷を減らせる場合もあります。非機能要件設計では、作ることだけでなく、使い続けることまで考えることが重要です。

20. 非機能要件の今後

今後の非機能要件は、クラウドネイティブ化、ゼロトラスト対応、AIシステム品質管理などの流れによってさらに重要になります。システムが複雑化し、利用環境が多様化する中で、非機能要件は単なる技術要件ではなく、事業継続と信頼性を支える戦略的な要素になっていきます。

20.1 クラウドネイティブ化

クラウドネイティブ化が進むことで、非機能要件の設計方法も変化しています。マイクロサービス、コンテナ、サーバーレス、マネージドサービス、オートスケーリングなどを活用することで、拡張性や可用性を高めやすくなります。一方で、構成が複雑になるため、監視やセキュリティ、障害対応も高度化します。

クラウドネイティブ環境では、非機能要件をアプリケーション、インフラ、運用の全体で考える必要があります。単一サーバーの性能だけでなく、サービス間通信、分散トレーシング、ログ統合、CI/CD、障害時の切り分けも重要になります。非機能要件は、クラウド時代に合わせてより広い視点で設計されるようになります。

20.2 ゼロトラスト対応

ゼロトラストとは、社内外を問わず、すべてのアクセスを信頼せずに検証するセキュリティの考え方です。クラウド利用、リモートワーク、SaaS活用が広がる中で、従来の境界防御だけでは十分ではなくなっています。そのため、非機能要件としてゼロトラストに基づく認証、認可、監視、ログ管理が重要になります。

ゼロトラスト対応では、多要素認証、最小権限、デバイス管理、アクセスログ分析、継続的なリスク評価が必要です。セキュリティ要件は、システムの一部だけではなく、利用者、端末、ネットワーク、データ、アプリケーション全体を対象にする必要があります。今後の非機能要件では、ゼロトラストの考え方がますます重要になります。

20.3 AIシステム品質管理

AIシステムの普及により、非機能要件の対象も広がっています。AIを使うシステムでは、通常の性能や可用性に加えて、予測精度、説明可能性、公平性、データ品質、モデル更新、誤判定時の対応なども考慮する必要があります。AIは確率的な判断を行うため、従来型システムとは異なる品質管理が求められます。

AIシステム品質管理では、モデルの精度を継続的に監視し、データの偏りや性能劣化を確認することが重要です。また、AIの判断結果を人間が確認できる仕組みや、誤判定が業務に与える影響を抑える設計も必要です。今後の非機能要件では、AI特有の品質やリスクも重要な検討項目になります。

おわりに

非機能要件は、システムが安定して価値を提供し続けるための品質基準を定義する重要な要素です。機能要件が「何を実現するか」を示すのに対し、非機能要件は「どのような品質で実現するか」を示します。性能、可用性、信頼性、拡張性、保守性、セキュリティ、運用性、バックアップ、災害対策、ユーザビリティなど、システム全体の品質を支える幅広い項目が含まれます。

システム開発では、機能要件に注目が集まりやすい一方で、非機能要件は後回しにされることがあります。しかし、非機能要件を十分に検討しないまま開発を進めると、リリース後に性能不足、障害対応の難しさ、セキュリティリスク、運用負荷の増大といった問題が発生しやすくなります。非機能要件は、要件定義の早い段階から具体的に検討することが重要です。

また、非機能要件は高ければ高いほどよいというものではありません。ビジネス要件、利用者数、業務影響、予算、運用体制を踏まえ、現実的で測定可能な目標を設定する必要があります。適切な非機能要件を定義し、設計、開発、テスト、運用に反映することで、ユーザー満足度の向上、運用コストの削減、ビジネス継続性の確保につながります。

クラウドネイティブ化、ゼロトラスト、AIシステム品質管理などにより、非機能要件の重要性はさらに高まっていくでしょう。システムが複雑化し、利用環境が多様化する中で、非機能要件は単なる技術項目ではなく、企業の信頼性と競争力を支える重要な設計要素になります。

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