Dynamics 365とCRMの違い|機能・製品範囲・選び方を比較
Dynamics 365とCRMは、同じ種類の名称ではありません。CRMは、顧客との関係を管理し、営業、マーケティング、カスタマーサービスなどの活動を改善する考え方、業務手法、システム分類を指します。一方、Dynamics 365はMicrosoftが提供する具体的な業務アプリケーション群です。
Dynamics 365には、Dynamics 365 SalesやDynamics 365 Customer ServiceなどのCRM関連製品が含まれています。同時に、Dynamics 365 FinanceやDynamics 365 Supply Chain ManagementなどのERP関連製品も含まれます。MicrosoftもDynamics 365を、CRMとERPの業務アプリケーション群として位置付けています。
したがって、「Dynamics 365とCRMのどちらを選ぶか」という比較は、厳密には適切ではありません。正しくは、「CRMを導入する際に、Dynamics 365のCRM関連製品を選ぶか」「Dynamics 365と他社CRMを比較するか」と考える必要があります。
1. Dynamics 365とCRMの違い
Dynamics 365とCRMの最大の違いは、Dynamics 365が製品群の名称であり、CRMが顧客関係管理という考え方およびシステム分類である点です。
Dynamics 365の一部はCRMですが、Dynamics 365のすべてがCRMというわけではありません。
1.1 言葉の種類が異なる
CRMはCustomer Relationship Managementの略で、日本語では顧客関係管理と表現されます。現在および将来の顧客に関する情報を管理、追跡、保存し、顧客との関係を改善するための仕組みです。
Dynamics 365は、Microsoftが提供するCRMおよびERPの業務アプリケーションをまとめた製品ブランドです。営業、サービス、財務、サプライチェーンなど、複数の業務領域に対応する製品が含まれます。
| 比較項目 | Dynamics 365 | CRM |
|---|---|---|
| 言葉の種類 | Microsoftの製品群 | 業務手法・システム分類 |
| 提供者 | Microsoft | 複数の製品会社 |
| 対象範囲 | CRMとERP | 顧客関係に関する業務 |
| 製品例 | Sales、Customer Service、Financeなど | Dynamics 365、他社CRMなど |
| 主な目的 | 複数の業務領域を支援する | 顧客獲得・維持・満足度向上 |
1.2 Dynamics 365にはCRM以外も含まれる
Dynamics 365 SalesやCustomer ServiceはCRMに分類できます。一方、Dynamics 365 FinanceやSupply Chain ManagementはERP領域の製品です。
そのため、Dynamics 365を一律に「CRM製品」と説明すると、会計、調達、在庫、生産などの製品範囲を正しく表せません。
| Dynamics 365製品 | 主な分類 | 対象業務 |
|---|---|---|
| Dynamics 365 Sales | CRM | 営業・案件管理 |
| Dynamics 365 Customer Service | CRM | 問い合わせ・顧客対応 |
| Dynamics 365 Customer Insights | CDP・マーケティング・CRM関連 | 顧客データ統合・顧客接点 |
| Dynamics 365 Field Service | CRM・サービス管理 | 訪問作業・保守サービス |
| Dynamics 365 Finance | ERP | 財務・会計 |
| Dynamics 365 Supply Chain Management | ERP | 調達・在庫・生産 |
1.3 比較する場合は具体的な製品を選ぶ
CRM製品を比較する場合は、Dynamics 365全体ではなく、必要な製品を特定します。
営業管理が目的ならDynamics 365 Sales、問い合わせ管理ならCustomer Service、顧客データ統合や顧客接点の設計ならCustomer Insightsが主な候補です。
2. CRMとは
CRMは、顧客の会社名や連絡先を保存するだけの顧客名簿ではありません。顧客との接点を記録し、営業、マーケティング、問い合わせ対応などへ活用する仕組みです。
CRMツールは、主にマーケティング、営業、カスタマーサービスなどの業務工程を支援します。
2.1 顧客情報を一元的に管理する
CRMでは、顧客名、会社名、連絡先、商談、購入、問い合わせ、活動履歴などを顧客単位で管理します。
部門ごとに情報が分散していると、営業担当者は顧客の問い合わせ状況を確認できず、カスタマーサービス担当者は過去の提案内容を把握できません。CRMは、必要な顧客情報を関連付けて参照できる状態を作ります。
2.2 顧客との接点を改善する
CRMの目的は、入力件数を増やすことではありません。顧客の状況を理解し、適切な連絡、提案、支援を行うことです。
例えば、営業担当者は商談の次回行動を確認し、マーケティング担当者は顧客の関心に応じた情報を提供し、サービス担当者は過去の問い合わせを踏まえて対応します。
2.3 営業以外の部門も利用する
CRMは営業支援システムと同じ意味で使われることがありますが、本来の対象範囲は営業だけではありません。
| 利用部門 | CRMで管理する情報 |
|---|---|
| 営業 | 見込み顧客、商談、活動、売上予測 |
| マーケティング | 流入経路、反応、顧客分類 |
| 顧客対応 | 問い合わせ、対応履歴、解決状況 |
| カスタマーサクセス | 利用状況、更新、離脱兆候 |
| 経営 | 顧客構成、売上予測、継続状況 |
3. Dynamics 365とは
Dynamics 365は、営業、顧客サービス、フィールドサービス、財務、サプライチェーンなどを支援するMicrosoftの業務アプリケーション群です。
CRM関連製品とERP関連製品を必要に応じて選択し、段階的に導入できる構成になっています。
3.1 一つの製品だけを指す名称ではない
Dynamics 365という名称から、一つの巨大な業務システムを想像する場合があります。しかし、実際には業務領域ごとの複数アプリケーションで構成されています。
営業部門だけがSalesを利用する構成もあれば、Sales、Customer Service、Financeなどを組み合わせる構成もあります。
3.2 CRMとERPを組み合わせられる
Dynamics 365の特徴の一つは、顧客接点を扱うCRMと、財務や在庫を扱うERPを同じ製品群として検討できることです。
営業案件から受注、出荷、請求、入金までを連携したい企業にとって、CRMとERPを接続できることは重要な評価項目になります。ただし、同じ製品群を契約すれば自動的にすべての情報が統合されるわけではなく、データ定義と連携設計が必要です。
3.3 Microsoft製品との接続を検討できる
Dynamics 365は、Microsoft 365、Power Apps、Power Automate、Power BI、Copilot Studioなどと組み合わせて利用できます。Microsoft Learnでは、Dynamics 365をCRMとERPが単一のプラットフォーム上で連携するモジュール型アプリケーションとして説明しています。
4. Dynamics 365のCRM関連製品
Dynamics 365でCRMを構築する場合、Salesだけを導入するとは限りません。目的に応じて複数のアプリケーションを組み合わせます。
MicrosoftのCRM参照構成でも、Sales、Customer Insights、Customer Service、Customer Voice、Power Platformなどを組み合わせた構成が示されています。
4.1 Dynamics 365 Sales
Dynamics 365 Salesは、取引先企業、担当者、見込み顧客、営業案件などを管理する営業向けCRMです。
リードから注文までの営業活動、販売資料、マーケティングリスト、キャンペーン、顧客に関連するサービス案件などを管理できます。
主な利用場面は次のとおりです。
- 見込み顧客の管理
- 営業案件の進行管理
- 顧客との活動履歴
- 営業担当者の次回行動
- 売上予測
- 営業案件の優先順位付け
4.2 Dynamics 365 Customer Service
Dynamics 365 Customer Serviceは、問い合わせやサービス案件を管理し、顧客対応担当者の業務を支援する製品です。
現在の製品では、生成AI、自動化、サービス担当者向け支援などが提供され、顧客サービスと顧客体験の向上を目的としています。
主な利用場面は次のとおりです。
- 問い合わせ案件の管理
- 対応担当者の割り当て
- 対応期限の管理
- 顧客別の対応履歴
- ナレッジの利用
- 顧客対応品質の分析
4.3 Dynamics 365 Customer Insights
Dynamics 365 Customer Insightsは、Customer Insights - DataとCustomer Insights - Journeysを含む製品です。Dataでは複数の顧客データを統合し、Journeysでは顧客の状態や行動に応じた顧客接点を設計します。
Customer Insights - Dataは、Microsoftの顧客データプラットフォームとして位置付けられ、統合顧客プロファイル、顧客分類、指標などの作成に利用できます。
4.4 Dynamics 365 Field Service
Dynamics 365 Field Serviceは、訪問保守、設置、修理など、顧客先で行うサービス業務を管理する製品です。
技術者の予定、作業指示、顧客への通知、現場作業、在庫などを管理する用途に利用できます。
4.5 CRM構成は企業によって異なる
CRMの目的が営業案件の可視化だけなら、Salesを中心に構成できます。問い合わせ対応を統合するならCustomer Service、顧客データを統合して接点を設計するならCustomer Insightsも候補になります。
| CRMの課題 | 主なDynamics 365製品 |
|---|---|
| 営業案件を管理したい | Sales |
| 問い合わせを一元化したい | Customer Service |
| 顧客データを統合したい | Customer Insights - Data |
| 顧客行動に応じて案内したい | Customer Insights - Journeys |
| 訪問作業を管理したい | Field Service |
5. 機能範囲の違い
一般的なCRMとDynamics 365では、必要な機能の選び方が異なります。
CRMは製品分類であるため、機能範囲は各製品によって変わります。Dynamics 365では、必要な機能をアプリケーション単位で組み合わせます。
5.1 営業管理の違い
営業管理では、顧客、担当者、見込み顧客、営業案件、活動、売上予測などを扱います。
| 営業機能 | Dynamics 365 Sales | 一般的なCRM |
|---|---|---|
| 顧客・担当者管理 | 対応 | 多くの製品で対応 |
| 見込み顧客管理 | 対応 | 製品による |
| 営業案件管理 | 対応 | 多くの製品で対応 |
| 売上予測 | 対応 | 製品・プランによる |
| Microsoft 365連携 | 強みになり得る | 製品による |
| AI支援 | 製品・契約内容による | 製品による |
Dynamics 365 Salesには、営業案件や見込み顧客の概要、変更内容、会議準備などを支援するCopilot機能も用意されています。
5.2 カスタマーサービスの違い
CRM製品によっては、問い合わせ管理が簡易機能として含まれます。Dynamics 365ではCustomer Serviceを独立した製品として導入できます。
| サービス機能 | Dynamics 365 Customer Service | 一般的なCRM |
|---|---|---|
| 問い合わせ案件 | 対応 | 製品による |
| 対応期限 | 対応 | 製品による |
| ナレッジ | 対応 | 製品・プランによる |
| 複雑なサービス工程 | 製品構成で対応 | 専用製品が必要な場合がある |
| AI・自動化 | 製品・契約内容による | 製品による |
5.3 マーケティング機能の違い
一般的なCRMでは、メール配信や顧客分類が含まれる場合があります。Dynamics 365ではCustomer Insightsを利用して、データ統合、顧客分類、リアルタイムの顧客接点などを構成できます。
| マーケティング機能 | Dynamics 365 | 一般的なCRM |
|---|---|---|
| 顧客分類 | Customer Insightsなど | 製品による |
| 顧客データ統合 | Customer Insights - Data | 外部CDPが必要な場合がある |
| メール・SMS等 | Journeysや外部連携 | 製品による |
| 行動起点の接点 | 対応可能 | 製品による |
| 営業との連携 | Salesとの構成が可能 | 外部連携の場合がある |
6. 管理するデータの違い
一般的なCRMとDynamics 365 CRMでは、顧客情報、営業案件、活動履歴などを管理する点は共通しています。
Dynamics 365ではDataverseを利用し、標準テーブルや独自テーブルを使って業務データを構成できます。
6.1 顧客情報
顧客情報には、法人、担当者、連絡先、所在地、業種などがあります。
法人向け事業では、会社と人物を分け、一つの会社へ複数の担当者を関連付ける必要があります。請求先、納品先、営業担当者も別々に管理する場合があります。
6.2 営業案件と活動履歴
営業案件では、商品、予定金額、商談段階、受注予定日、失注理由などを管理します。
活動履歴では、電話、メール、会議、訪問、次回行動などを保存します。活動を担当者の日報としてではなく、顧客や営業案件へ関連付けることが重要です。
6.3 Dataverseによるデータ管理
Dataverseは、Dynamics 365アプリとPower Platformを支えるデータプラットフォームです。ビジネスデータを標準テーブルや独自テーブルとして保存・管理できます。
| データ要素 | 役割 |
|---|---|
| テーブル | 顧客、案件、商品などの単位 |
| 列 | 名前、金額、日付などの項目 |
| 関連 | 会社と担当者などの関係 |
| 選択肢 | 商談段階、業種などの統一値 |
| ビジネスルール | 入力・表示・判定の制御 |
| セキュリティ | 利用者別の閲覧・編集範囲 |
7. カスタマイズ方法の違い
CRM製品は、自社の営業工程や顧客対応に合わせて設定する必要があります。
Dynamics 365では、標準設定だけでなく、Power Platformを使った拡張も検討できます。
7.1 項目と画面の変更
Dynamics 365では、顧客や案件の入力項目、表示画面、一覧などを業務に合わせて構成できます。
ただし、項目を追加しすぎると入力負担が増えます。追加前に、誰が何の判断へ使用する項目かを確認してください。
7.2 業務工程の設定
営業案件の段階、問い合わせの対応工程、承認などを設定できます。
システムへ工程を設定する前に、現場で共通の判断基準を決める必要があります。「提案中」「検討中」の意味が担当者ごとに違う状態では、システム化してもデータは統一されません。
7.3 Power Platformによる拡張
Power Appsでは補助業務アプリ、Power Automateでは通知や承認、Power BIでは分析を構成できます。Dataverseを基盤としたモデル駆動型アプリでは、画面、業務ルール、工程などを構成できます。
| 拡張方法 | 主な用途 |
|---|---|
| Dynamics 365標準設定 | 項目、画面、一覧 |
| Power Apps | 補助アプリ |
| Power Automate | 通知、承認、自動処理 |
| Power BI | データ分析 |
| Copilot Studio | 業務用エージェント |
| 個別開発 | 標準で対応できない処理 |
8. 他システムとの連携の違い
CRMは単独で利用することもできますが、メール、会計、ERP、問い合わせ、Webフォームなどと連携すると、転記を減らせます。
Dynamics 365ではMicrosoft製品との組み合わせが選定上の特徴になります。
8.1 Microsoft 365との連携
営業担当者が日常的に利用するメール、予定、会議、文書などとCRMを接続できれば、CRMへ切り替える回数を減らせます。
Dynamics 365 SalesはMicrosoft 365との統合を製品機能の一つとして掲げています。
8.2 ERPとの連携
CRMで管理した案件を、受注後に販売、在庫、請求へつなげる場合はERP連携が必要です。
Dynamics 365 SalesとSupply Chain Managementの間では、販売注文を同期するための仕組みが提供されています。実際の導入では、顧客番号、商品番号、価格、税、注文状態などの対応関係を設計します。
8.3 連携できることと自動連携は異なる
同じMicrosoft製品であっても、契約後にすべてのデータが自動で正しく連携されるわけではありません。
| 連携設計の確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式な情報源 | どのシステムの値を優先するか |
| データ方向 | 一方向か双方向か |
| 更新頻度 | 即時、時間単位、日次 |
| 重複防止 | 同じ顧客をどう判定するか |
| エラー対応 | 失敗時に誰が修正するか |
| 削除処理 | 一方で削除した際の動作 |
9. AI機能の違い
AIは、Dynamics 365だけに限定された機能ではありません。他社CRMにもAI機能は存在するため、搭載の有無だけで製品を選ぶべきではありません。
どの業務で、どのデータを使い、どの判断を支援するのかを比較します。
9.1 営業支援
Dynamics 365 Salesでは、営業案件や見込み顧客の概要、最近の変更、会議準備などを支援するCopilot機能が説明されています。
営業担当者が情報を探す時間を減らせる可能性がありますが、顧客情報や活動履歴が正しく入力されていることが前提です。
9.2 カスタマーサービス支援
Customer Serviceでは、生成AIや自動化を用いて、サービス担当者の生産性や顧客体験を改善する機能が提供されています。
回答案を生成できても、社内規則や契約条件と一致しているかを確認する工程は必要です。
9.3 AI導入前にデータ品質を確認する
CRM内に重複顧客、古い担当者、未更新案件が多い場合、AIが参照する情報の信頼性も低下します。
AI機能を比較する前に、次の項目を確認してください。
- 顧客の重複率
- 営業案件の更新率
- 活動履歴の登録状況
- 失注理由の入力品質
- 顧客情報の更新日
- 利用者ごとのアクセス権限
10. 費用の違い
CRM製品の費用は、利用者数、機能、データ容量、追加製品、導入支援などによって変わります。
Dynamics 365でも、Sales、Customer Service、Customer Insightsなどの製品やプランごとに価格体系が異なります。
10.1 ライセンス費用
Dynamics 365では、利用するアプリケーションとプラン、利用者数などに基づいてライセンスを検討します。
営業部門にはSales、顧客対応部門にはCustomer Serviceというように、役割ごとの必要機能を確認します。全員へ最上位プランを割り当てる必要があるとは限りません。
10.2 導入費用
ライセンス以外に、次の費用が発生する可能性があります。
| 費用項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 要件定義 | 業務・データ・権限の設計 |
| 初期設定 | 項目、画面、工程、通知 |
| データ移行 | 顧客、案件、履歴の移行 |
| 外部連携 | ERP、メール、Webフォームなど |
| 教育 | 管理者・利用者向け研修 |
| 保守 | 問い合わせ、変更、障害対応 |
10.3 総費用で比較する
Dynamics 365と他社CRMを比較する際は、月額料金だけでなく、少なくとも数年間の総費用を確認します。
標準機能で実現できる範囲、個別開発、外部連携、管理者の工数、更新時の試験なども含めて比較してください。
11. Dynamics 365が向いている企業
Dynamics 365は、CRMとERPを連携したい企業や、Microsoft製品を業務基盤として利用している企業の候補になります。
ただし、Microsoft製品を利用しているという理由だけで導入を決定してはいけません。
11.1 営業と基幹業務を接続したい企業
営業案件から受注、在庫、請求までをつなげたい企業では、Dynamics 365のCRM・ERP製品群を比較する価値があります。
特に、営業が在庫や取引状況を確認できない、受注内容をERPへ手入力している企業では、連携効果を検討できます。
11.2 Microsoft環境を利用している企業
Microsoft 365、Power BI、Power Platformなどを利用している企業は、既存環境との接続性を評価できます。
ただし、実際の連携範囲、追加ライセンス、設定費用を個別に確認する必要があります。
11.3 段階的にCRMを拡張したい企業
最初は営業管理、次に顧客対応、その後に顧客データ統合というように、段階的に対象を広げたい企業にも候補になります。
段階導入でも、最初に顧客番号、会社、担当者、商品などのデータ構造を設計しておくことが重要です。
11.4 独自業務をローコードで補いたい企業
標準CRMだけでは不足する小規模な業務を、Power AppsやPower Automateで補いたい企業にも向いている可能性があります。
ただし、補助アプリを増やしすぎると、管理者、権限、データ、保守が複雑になります。
11.5 複数部門で顧客情報を利用したい企業
営業、マーケティング、顧客対応、訪問サービスなどが同じ顧客情報を利用したい場合は、複数のDynamics 365アプリを組み合わせる構成を検討できます。
12. 他社CRMも比較すべき企業
Dynamics 365は多機能ですが、すべての企業に適するとは限りません。
必要な機能が少ない場合や、特定業界向けの業務が中心の場合は、他社CRMや業界特化製品も比較してください。
12.1 顧客名簿と簡単な案件管理だけでよい企業
顧客数や利用者数が少なく、連絡先と商談状況だけを管理したい場合は、より簡単なCRMで十分な可能性があります。
高機能な製品を導入すると、設定、教育、管理の負担が効果を上回る場合があります。
12.2 Microsoft以外の環境が中心の企業
メール、文書、分析、認証などが他社製品で統一されている場合は、現在の環境との接続費用を比較します。
特定メーカーへ統一する効果と、既存システムを変更する負担を両方確認してください。
12.3 業界固有の営業工程が多い企業
不動産、医療、建設、金融など、業界固有の顧客情報や規制が多い場合は、業界特化CRMが適する可能性があります。
Dynamics 365を個別開発して対応する場合と、特化製品の標準機能を使う場合の総費用を比較します。
12.4 導入・運用担当者を確保できない企業
CRMは、契約して終わるシステムではありません。入力項目、権限、重複、レポート、教育を継続して管理する担当者が必要です。
社内管理者を確保できない場合は、設定が簡単な製品や運用支援を含むサービスも候補になります。
12.5 短期間で単一業務だけ改善したい企業
問い合わせ管理だけ、メール配信だけ、営業日報だけを短期間で改善する場合は、専用製品のほうが早く導入できることがあります。
将来の拡張性と、現在必要な導入速度のバランスを考えてください。
13. Dynamics 365と一般的なCRMの比較表
製品を選ぶ際は、Dynamics 365という名称だけで判断せず、自社の要件と各CRM製品の機能を同じ条件で比較します。
13.1 基本比較
| 比較項目 | Dynamics 365 CRM構成 | 一般的なCRM |
|---|---|---|
| 製品形態 | 複数アプリの組み合わせ | 一体型または機能別 |
| 営業管理 | Sales | 多くの製品で対応 |
| 顧客対応 | Customer Service | 製品による |
| 顧客データ統合 | Customer Insights | 外部CDPの場合がある |
| 訪問サービス | Field Service | 専用製品の場合がある |
| ERP連携 | Dynamics 365製品群で構成可能 | 外部ERPとの連携 |
| 拡張 | Power Platformなど | 製品固有 |
| AI | 製品・契約内容による | 製品による |
13.2 導入面の比較
| 比較項目 | Dynamics 365 | 他社CRMを含む一般的な選択肢 |
|---|---|---|
| 初期設定 | 導入範囲によって複雑 | 製品による |
| 小規模導入 | Sales単体などで可能 | 簡易CRMが有利な場合がある |
| 大規模展開 | 複数アプリで対応可能 | 製品による |
| 業務拡張 | Power Platform等 | 製品独自の拡張方法 |
| 管理負担 | 構成が広いほど増える | 単機能製品は限定しやすい |
13.3 判断の目安
| 企業の要件 | 判断の方向 |
|---|---|
| 営業管理だけを簡単に始めたい | Dynamics 365 Salesと簡易CRMを比較 |
| 問い合わせ管理も必要 | SalesとCustomer Serviceの構成を検討 |
| 顧客データを統合したい | Customer Insightsや他社CDPを比較 |
| ERPとつなぎたい | Dynamics 365 CRM・ERP構成を評価 |
| 業界固有機能が多い | 特化CRMも比較 |
| Microsoft製品を広く利用中 | Dynamics 365の連携性を評価 |
14. CRM選定チェックリスト
Dynamics 365か他社CRMかを判断する前に、自社の目的、利用者、データ、連携、費用を確認します。
すべての機能を満たす製品を探すのではなく、必須要件と追加要件を分けてください。
14.1 目的に関するチェック項目
- 改善したい顧客業務が決まっている
- 営業管理、マーケティング、問い合わせの優先順位が明確である
- 現在値と目標値を測定できる
- CRMを利用する部門が決まっている
- 導入後の評価日が設定されている
「顧客情報を一元管理する」だけでなく、「商談停滞を20%減らす」など、具体的な目的を設定します。
14.2 機能に関するチェック項目
- 見込み顧客を管理する必要がある
- 営業案件と売上予測が必要である
- 問い合わせ案件を管理する必要がある
- メールやSMSによる顧客接点が必要である
- 顧客データ統合が必要である
- 訪問作業を管理する必要がある
- ERPと受注情報を連携する必要がある
必要項目がSalesだけで満たせるのか、複数アプリが必要なのかを判断します。
14.3 データに関するチェック項目
- 顧客の重複件数を確認している
- 会社と担当者を分けて管理できる
- 顧客番号の正式な情報源が決まっている
- 移行する履歴期間を決めている
- 不要データの削除基準がある
- データ移行後の照合方法がある
CRMを変更しても、古い重複データをそのまま移行すれば問題は残ります。
14.4 運用に関するチェック項目
- CRMの業務責任者がいる
- システム管理者がいる
- 入力項目を追加する手順がある
- 利用者教育を実施できる
- 未更新案件を確認する運用がある
- 権限を定期的に見直せる
操作方法だけでなく、どの段階で何を入力するかを教育します。
14.5 費用に関するチェック項目
- 必要なDynamics 365アプリを特定している
- 利用者ごとの必要プランを確認している
- データ移行費を含めている
- 外部連携費を含めている
- 追加開発費を含めている
- 保守と教育の費用を含めている
- 複数年の総費用を比較している
15. Dynamics 365とCRMに関するよくある質問
最後に、Dynamics 365とCRMの違いについて、導入検討時によくある質問へ回答します。
15.1 Dynamics 365はCRMですか
Dynamics 365全体はCRMだけではありません。CRMとERPを含むMicrosoftの業務アプリケーション群です。
Dynamics 365 Sales、Customer Service、Customer Insights、Field Serviceなどは、CRMや顧客接点に関係する製品です。
15.2 Dynamics 365 SalesとCRMの違いは何ですか
CRMは顧客関係管理というシステム分類です。Dynamics 365 Salesは、CRMを実現する具体的なMicrosoft製品の一つです。
CRMという大きな分類の中に、Dynamics 365 Salesや他社の営業向けCRMが存在すると考えてください。
15.3 Dynamics 365 SalesだけでCRMを構築できますか
営業案件と顧客活動の管理が中心であれば、Salesを中心にCRMを構築できます。
問い合わせ管理、顧客データ統合、顧客接点、訪問作業まで必要な場合は、Customer Service、Customer Insights、Field Serviceなどの追加を検討します。
15.4 Dynamics 365を導入すればERPとも自動的につながりますか
同じDynamics 365製品群でも、自動的にすべてのデータが正しく統合されるわけではありません。
顧客、商品、価格、注文などについて、正式なデータ元、連携方向、更新頻度、エラー対応を設計する必要があります。
15.5 Dynamics 365と他社CRMは何を比較すべきですか
機能数だけでなく、次の項目を比較してください。
- 自社の営業・顧客対応工程への適合
- Microsoft製品を含む既存環境との連携
- 入力と検索のしやすさ
- 標準機能で実現できる範囲
- データ移行の難易度
- 管理者の運用負担
- 複数年の総費用
- 導入パートナーの業務知識
- 将来のERP連携や事業拡張
おわりに
Dynamics 365とCRMの違いは、Dynamics 365がMicrosoftの具体的な業務アプリケーション群であり、CRMが顧客関係管理という考え方およびシステム分類である点です。Dynamics 365はCRMそのものの別名ではありません。
Dynamics 365の中では、Salesが営業管理、Customer Serviceが問い合わせ対応、Customer Insightsが顧客データ統合と顧客接点、Field Serviceが訪問サービスを担当します。さらに、FinanceやSupply Chain ManagementなどのERP製品も同じ製品群に含まれます。
営業案件だけを管理したい場合は、Dynamics 365 Salesと他社の営業向けCRMを比較してください。問い合わせ、顧客データ統合、ERP連携まで必要な場合は、複数のDynamics 365アプリケーションを組み合わせた構成を検討します。
重要なのは、製品名や機能数から選ぶのではなく、改善したい顧客業務、利用部門、必要なデータ、外部連携、運用体制を先に定義することです。そのうえでDynamics 365と他社CRMを同じ条件で比較すれば、自社に適したCRMを判断しやすくなります。
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