メインコンテンツに移動

デザイン思考とCX(顧客体験)とは?違い・進め方・実践方法を徹底解説

商品やサービスの品質だけで企業が選ばれる時代は終わりつつあります。現在の顧客は、商品を知った瞬間から購入、利用、問い合わせ、継続、解約に至るまでの一連の体験を通して企業を評価しています。機能や価格に大きな差がない市場では、顧客がどのような感情を抱き、どれほど負担なく目的を達成できたかが、企業の競争力を大きく左右します。

そこで重要になるのが、利用者の視点から問題を発見し、解決策を生み出すデザイン思考と、顧客が企業との関係を通じて得る総合的な顧客体験です。両者は同じ意味ではありませんが、顧客に選ばれ続ける商品やサービスをつくるうえで、非常に深い関係を持っています。

本記事では、デザイン思考とCX(顧客体験)の意味や違い、具体的な進め方、調査方法、顧客体験マップの作成、試作品の検証、社内体制の整備、成果測定までを体系的に解説します。顧客満足度の向上だけでなく、継続利用や推奨、売上拡大につながる実践方法を理解したい担当者は、ぜひ参考にしてください。

1. デザイン思考とは

デザイン思考は、利用者の行動や感情を深く理解し、利用者自身も明確に説明できていない課題を見つけ、試行錯誤しながら解決策を形にする方法です。見た目を整えるための考え方ではなく、商品開発、業務改善、組織改革、接客、情報発信など、幅広い領域で活用できます。

特徴内容
利用者を中心に考える企業側の都合ではなく、利用者の行動、感情、要望、困りごとを起点として課題を考えます。
潜在的な課題を発見する利用者が言葉で説明できる要望だけでなく、観察や聞き取りを通じて、本人も気づいていない課題を見つけます。
仮説と検証を繰り返す最初から完成した解決策を作るのではなく、仮説を立て、試作品を作り、利用者の反応を確認しながら改善します。
アイデアを幅広く生み出す既存の方法や常識にとらわれず、複数の視点から多様な解決策を検討します。
早い段階で形にする画面案、模型、試作品などを作り、アイデアを目に見える形にして関係者と共有します。
多様な分野で活用できる商品やサービスの開発だけでなく、業務改善、組織改革、従業員体験、接客、情報発信などにも応用できます。

ここでは、デザイン思考がどのような考え方であり、従来の問題解決方法と何が異なるのかを詳しく確認します。

1.1 利用者を起点に問題を捉える

デザイン思考では、企業が売りたい商品や実装したい機能から考え始めるのではなく、利用者が置かれている状況から考え始めます。利用者がどのような目的を持ち、どこで迷い、何に不安を感じ、どのような結果を望んでいるのかを観察することが出発点です。

企業側が重要だと考える問題と、利用者が実際に困っている問題が一致するとは限りません。利用者の行動を丁寧に調べることで、表面的な要望の奥にある本当の課題を発見し、より価値の高い解決策を検討できるようになります。

1.2 共感から隠れた課題を発見する

共感とは、単に利用者の意見に賛成することではありません。利用者が置かれた状況、経験、知識、制約、感情を理解し、その人の視点から体験を捉え直すことです。発言だけでなく、表情、行動、ためらい、回避行動なども重要な情報になります。

たとえば、利用者が「操作方法が分かりにくい」と話していても、実際の問題は説明不足ではなく、失敗したときの不安かもしれません。この場合、説明文を増やすだけでは十分ではなく、取り消し機能や確認画面を設けるほうが効果的です。

1.3 仮説を早い段階で形にする

デザイン思考では、長期間かけて完成品をつくってから評価するのではなく、初期段階で簡単な試作品を作成します。紙に描いた画面、簡単な模型、会話形式の台本などでも、利用者の反応を確認するためには十分です。

早い段階で形にすると、関係者の認識を合わせやすくなり、言葉だけでは見つからなかった問題も発見できます。完成度を上げる前に方向性を確認できるため、大きな手戻りや不要な開発費用を減らせます。

1.4 失敗を学習材料として扱う

デザイン思考における試作品の失敗は、計画全体の失敗ではありません。利用者に合わない案を早期に発見し、次の改善につながる情報を得られたという意味で、価値のある学習結果です。

失敗を避けようとして検証を遅らせると、完成後に重大な問題が判明する可能性があります。小さく試し、問題を発見し、修正する循環を短期間で繰り返すことが、最終的な成功確率を高めます。

1.5 部門を越えて解決策を考える

顧客が体験する問題は、ひとつの部門だけで解決できない場合が多くあります。商品、販売、配送、問い合わせ対応、請求、情報管理など、複数の業務が一連の顧客体験を構成しているためです。

デザイン思考では、異なる専門性を持つ担当者が協力し、それぞれの視点から解決策を検討します。部門ごとの最適化ではなく、利用者の目的達成を中心に全体を設計することで、分断の少ない体験をつくれます。

2. CX(顧客体験)とは

CXとは、顧客が企業や商品、サービスとのあらゆる接点を通じて得る認識、感情、印象の総体を指します。広告を見た瞬間、ウェブサイトを訪問したとき、商品を購入したとき、問い合わせを行ったときなど、すべての接点が顧客体験の一部です。

ここでは、顧客体験を構成する要素と、企業が重視すべき理由を解説します。

2.1 購入前から購入後まで続く体験

顧客体験は、購入時の接客や商品の使用感だけではありません。顧客が課題を認識し、情報を検索し、複数の商品を比較し、購入を判断するまでの過程も含まれます。

さらに、購入後の配送、初期設定、利用、問い合わせ、更新、解約まで体験は続きます。購入だけを最終地点として考えると、継続利用や再購入に影響する重要な問題を見落としてしまいます。

2.2 感情が企業評価を左右する

顧客は、商品が正常に動いたかどうかだけでなく、利用中に安心できたか、尊重されたと感じたか、手続きに疲れなかったかといった感情を記憶します。同じ結果を得られた場合でも、過程で感じた負担によって評価は大きく変わります。

問題が発生した場合でも、迅速で誠実な対応を受けると、顧客の信頼が以前より高まることがあります。顧客体験を改善するには、処理時間や操作回数だけでなく、顧客の感情変化にも注目する必要があります。

2.3 複数の接点がひとつの印象をつくる

顧客は、店舗、ウェブサイト、アプリケーション、電話、電子メール、配送などを別々に評価するとは限りません。企業全体とのひとつの体験として受け取るため、接点ごとの情報や対応が矛盾すると不信感が生まれます。

たとえば、ウェブサイトには返品可能と書かれているのに、店舗では返品できないと説明された場合、顧客は企業全体に不満を持ちます。接点間の一貫性を整えることは、顧客体験改善の重要な課題です。

2.4 顧客満足度だけでは測れない

顧客満足度は重要な指標ですが、顧客体験のすべてを表すものではありません。満足していると回答した顧客でも、より便利な競合サービスがあれば簡単に離れる可能性があります。

継続率、再購入率、推奨意向、問い合わせ回数、手続き完了率など、複数の指標を組み合わせて確認する必要があります。数値だけでなく、顧客の発言や行動も含めて評価することで、改善すべき体験を具体化できます。

2.5 顧客体験が事業成果につながる

優れた顧客体験は、継続利用、再購入、追加購入、他者への推奨につながります。顧客との関係が長く続けば、新規顧客を獲得するための負担を抑えながら、安定した収益を確保しやすくなります。

一方、商品自体に大きな問題がなくても、登録手続きや問い合わせ対応に不満があると顧客は離れてしまいます。顧客体験への投資は、単なる印象改善ではなく、事業の持続性を高める取り組みです。

3. デザイン思考とCX(顧客体験)の違い

デザイン思考と顧客体験は、どちらも顧客を重視するため混同されやすい言葉です。しかし、デザイン思考は問題を発見して解決策を生み出すための進め方であり、顧客体験は顧客が実際に得る体験や評価を示します。

ここでは、両者の目的、対象範囲、成果、活用場面の違いを整理します。

3.1 目的の違い

デザイン思考の主な目的は、利用者を深く理解し、まだ明確になっていない問題を発見して、望ましい解決策を生み出すことです。問題の発見から試作品の検証まで、創造と学習の過程に重点があります。

顧客体験の主な目的は、顧客が企業との関係を通じて得る体験を改善し、満足、信頼、継続、推奨につなげることです。顧客体験は、商品だけでなく、広告、販売、契約、利用、支援まで含む広い領域を対象とします。

比較項目デザイン思考顧客体験
主な役割問題を発見し解決策を生み出す顧客が得る体験全体を改善する
出発点利用者への共感と観察顧客とのすべての接点
主な対象商品、サービス、業務、制度認知、比較、購入、利用、継続
成果新しい解決策や改善案満足、信頼、継続、推奨
進め方観察、課題定義、発想、試作、検証調査、体験設計、運用、測定、改善

3.2 対象範囲の違い

デザイン思考と顧客体験では、改善活動の対象となる範囲が異なります。デザイン思考は特定の課題に対して解決策を生み出すための方法であるのに対し、顧客体験は顧客と企業の間に生じる一連の体験を広い視点から改善する考え方です。

比較項目デザイン思考顧客体験
主な対象特定の商品、機能、業務、サービスなどの課題顧客と企業の関係全体
利用できる場面商品開発、機能改善、業務改善、従業員体験の改善など購入前、購入時、利用中、問い合わせ、継続利用など
対象となる利用者顧客、従業員、取引先、社内担当者など主に商品やサービスを利用する顧客
改善の単位特定の課題、機能、画面、業務工程複数の接点を含む一連の顧客行動
重視する視点対象となる利用者の課題をどのように解決するか顧客が企業との関係全体をどのように感じるか

デザイン思考は、必ずしも顧客向けの商品やサービスだけに限定されません。企業向けの業務改善や、従業員が利用する社内システムの改善にも活用できます。

一方、顧客体験では、ひとつの画面や機能だけでなく、その画面に到達する前の行動や、利用後の問い合わせ、別の販売経路とのつながりまで考える必要があります。

3.3 成果物の違い

デザイン思考と顧客体験では、活動を通じて作成される成果物にも違いがあります。デザイン思考の成果物は、解決策を検討し、仮説を検証するための学習手段として作られることが多くあります。

比較項目デザイン思考顧客体験
代表的な成果物人物像、課題文、アイデア一覧、画面案、模型、試作品、検証記録顧客体験マップ、接点ごとの対応方針、運用手順、評価指標、改善計画
成果物の目的利用者の課題を理解し、より良い解決策を発見する顧客体験を組織全体で設計し、継続的に改善する
作成される段階課題発見、アイデア創出、試作、検証の各段階現状分析、体験設計、運用開始、効果測定の各段階
成果物の性質仮説的であり、検証結果に応じて変更される実際の業務運用や組織方針に反映される
活用する担当者デザイナー、開発者、企画担当者、利用者調査担当者などマーケティング、営業、顧客対応、開発、運用、経営部門など

デザイン思考で作成する画面案や模型は、最終的な商品そのものではありません。利用者の反応を確認し、現在の仮説が正しいかを学ぶための手段として利用されます。

顧客体験の改善では、体験を設計するだけでなく、現場で実行するための運用手順や担当部門、評価指標、改善サイクルまで具体化する必要があります。

3.4 評価方法の違い

デザイン思考と顧客体験では、改善効果を確認するための評価方法も異なります。デザイン思考では個別の解決策が利用者の課題に対応できているかを確認し、顧客体験では顧客と企業の関係全体が改善しているかを継続的に測定します。

比較項目デザイン思考顧客体験
主な評価対象試作品、画面案、機能、サービス案など顧客と企業の関係全体
確認する内容課題を解決できるか、操作を理解できるか、利用したいと思うか顧客が満足しているか、継続利用しているか、企業を推奨したいか
代表的な評価方法利用者観察、聞き取り、操作試験、試作品検証満足度調査、行動データ分析、問い合わせ分析、継続率や再購入率の測定
代表的な指標タスク成功率、操作時間、誤操作数、理解度、利用意向顧客満足度、継続率、再購入率、推奨意向、問い合わせ件数、手続き完了率
評価する期間試作や開発の初期段階を中心に実施サービス提供後も継続的に実施
必要な対象人数初期段階では少人数からでも重要な発見を得られる傾向を把握するため、一定期間の継続的なデータが必要になる

デザイン思考では、初期段階から大規模な調査を行うとは限りません。少人数の利用者を観察することで、操作上の問題や、担当者が想定していなかった利用者の行動を発見できる場合があります。

顧客体験では、個別の機能に対する評価だけでは十分ではありません。満足度や継続率、再購入率などを継続的に測定し、複数の接点を含む顧客との関係全体が改善しているかを評価することが重要です。

3.5 両者を組み合わせる意味

顧客体験の改善方針だけを決めても、顧客が本当に困っている問題を理解できなければ、効果的な施策にはなりません。反対に、デザイン思考で優れた案を生み出しても、顧客との接点全体に反映されなければ、体験の改善にはつながりません。

デザイン思考を問題発見と解決策づくりの方法として活用し、顧客体験を改善対象として捉えることで、両者の強みを生かせます。顧客理解から運用改善までをひとつの流れとして設計することが重要です。

4. 顧客理解を深める調査方法

デザイン思考を顧客体験の改善に活用するためには、顧客の発言だけでなく、実際の行動や感情を理解する必要があります。思い込みに基づいて施策を決めると、顧客が求めていない機能や説明を増やしてしまう可能性があります。

ここでは、顧客の実態を捉えるために有効な調査方法を紹介します。

4.1 顧客への聞き取りを行う

聞き取りでは、「どの機能が欲しいですか」と直接答えを求めるのではなく、過去の具体的な経験を尋ねます。直近で商品を探した場面、購入を迷った理由、利用中に困った瞬間などを聞くと、実態に近い情報を得られます。

顧客の回答に対して「なぜそう感じたのか」「そのとき何をしたのか」と掘り下げることも重要です。抽象的な意見を具体的な行動に変換することで、改善可能な課題が見えやすくなります。

4.2 利用状況を観察する

顧客は、自分の行動をすべて正確に説明できるとは限りません。本人が問題なく使えていると思っていても、実際には何度も同じ場所を確認したり、不安そうに操作を止めたりしている場合があります。

観察では、操作結果だけでなく、迷った場所、戻った回数、質問した内容、途中で諦めた場面を記録します。発言と行動の違いを確認することで、顧客自身も意識していない負担を発見できます。

4.3 問い合わせ記録を分析する

問い合わせ内容には、商品やサービスの分かりにくさが具体的に表れます。同じ質問が繰り返されている場合、顧客の理解力ではなく、説明や画面設計、手続きの流れに問題がある可能性があります。

問い合わせ件数だけで判断せず、質問が発生した状況、顧客の感情、解決までに必要だった時間も確認します。問い合わせ担当者が持つ経験を共有すると、顧客体験の弱点を効率的に見つけられます。

4.4 行動データを確認する

ウェブサイトやアプリケーションでは、訪問ページ、離脱場所、入力エラー、操作時間などの行動データを取得できます。多くの顧客が同じ画面で離脱している場合、その画面に共通の問題があると考えられます。

ただし、行動データだけでは、顧客がなぜ離脱したのかを断定できません。数値から問題の場所を特定し、聞き取りや観察によって理由を確認する組み合わせが効果的です。

コード例:画面離脱を記録する

<script>
document.querySelectorAll("[data-action]").forEach(function (element) {
 element.addEventListener("click", function () {
   const 記録内容 = {
     操作名: element.dataset.action,
     画面名: document.title,
     記録日時: new Date().toISOString()
   };

   navigator.sendBeacon(
     "/customer-action",
     JSON.stringify(記録内容)
   );
 });
});
</script>
 

この例では、利用者が特定の操作を行った時点で、操作名、画面名、記録日時を送信します。個人を直接特定する情報を不必要に収集せず、調査目的に必要な情報だけを取得する設計が重要です。

4.5 調査結果を複数の視点で統合する

ひとつの調査方法だけに依存すると、顧客の一部分しか見えません。聞き取りでは感情や理由を理解できますが、実際の利用者全体にどれほど共通する問題なのかは判断しにくい場合があります。

聞き取り、観察、問い合わせ記録、行動データ、アンケートを組み合わせることで、課題の深さと広がりを確認できます。異なる情報が同じ問題を示している場合、優先的に改善すべき可能性が高いと判断できます。

5. 顧客の課題を定義する方法

調査で多くの情報を集めても、そのままでは具体的な施策につながりません。顧客の発言や行動を整理し、誰が、どのような状況で、何に困り、なぜ解決する必要があるのかを明確にする必要があります。

ここでは、顧客体験の改善につながる課題定義の方法を解説します。

5.1 表面的な要望と本当の目的を分ける

顧客が「検索機能を増やしてほしい」と要望していても、本当の目的は検索することではなく、必要な商品を短時間で見つけることです。要望をそのまま実装すると、機能が増えても問題が解決しない場合があります。

顧客の要望を聞いたときは、その機能によって何を達成したいのかを確認します。目的を明確にすれば、検索機能以外にも、分類の改善、候補表示、購入履歴からの提案など、複数の解決策を検討できます。

5.2 課題を顧客の言葉で整理する

課題を企業側の事情だけで表現すると、顧客体験とのつながりが見えにくくなります。「問い合わせ件数を減らす」ではなく、「顧客が問い合わせをしなくても安心して手続きを完了できる」と表現すると、目指す体験が明確になります。

顧客の状況、目的、障害、感情を含めた課題文を作成すると、関係者が同じ方向を向きやすくなります。解決策を含めずに課題を定義することで、発想の幅を狭めずに済みます。

5.3 原因と症状を区別する

離脱率の上昇や問い合わせの増加は、問題の原因ではなく症状です。たとえば、入力画面で離脱が多い場合でも、入力項目の多さ、説明不足、個人情報への不安、エラー表示の分かりにくさなど、複数の原因が考えられます。

症状だけを改善しようとすると、入力項目を減らしても離脱率が変わらない可能性があります。行動観察や聞き取りを通じて原因を確認し、根本的な課題を定義することが重要です。

5.4 優先順位を決める

すべての課題を同時に解決することは難しいため、顧客への影響、発生頻度、事業への影響、改善の実現性を考慮して優先順位を決めます。感情的な意見や役職者の判断だけで決めないことが重要です。

顧客に深刻な不利益を与える問題や、多くの顧客が繰り返し経験する問題は優先度が高くなります。短期間で改善できる課題と、長期的な取り組みが必要な課題を分けると、実行計画を立てやすくなります。

5.5 解決後の状態を明確にする

課題を定義するときは、問題の説明だけでなく、改善後に顧客がどのような状態になるべきかも整理します。「画面を改善する」ではなく、「初めて利用する顧客が支援を受けずに五分以内で登録を完了できる」とすると、評価しやすくなります。

望ましい状態を具体化すると、施策の目的と評価指標を結び付けられます。関係者が異なる解釈をすることも減り、試作品を検証するときの判断基準として利用できます。

6. 顧客価値につながるアイデア創出

課題を明確にした後は、すぐにひとつの解決策へ絞り込むのではなく、複数の可能性を検討します。最初に思い付く案は、既存の方法や社内の常識に強く影響されている可能性があるためです。

ここでは、顧客価値につながるアイデアを幅広く生み出し、適切に絞り込む方法を解説します。

6.1 判断を後回しにして案を増やす

アイデアを出す段階で実現性や費用を厳しく評価すると、参加者は安全な案しか出さなくなります。最初は判断を保留し、量を重視して多様な案を出すことが重要です。

一見すると現実的でない案でも、その一部が優れた解決策につながることがあります。発想段階と評価段階を分けることで、既存の枠組みに縛られない案を検討できます。

6.2 顧客の目的から発想する

機能を追加することを目的にすると、複雑で使いにくい商品になりやすくなります。顧客が達成したい目的から考えることで、機能追加以外の解決策も見つけられます。

たとえば、顧客の目的が「迷わず自分に合う商品を選ぶこと」であれば、比較表、質問形式の案内、相談窓口、利用例の提示などが考えられます。目的を固定し、手段を柔軟に考えることが重要です。

6.3 異なる部門の視点を取り入れる

商品担当者だけで考えると、機能中心の案に偏る可能性があります。販売、問い合わせ対応、物流、情報管理、広報など、異なる立場の担当者を参加させることで、接点全体を考慮した案が生まれます。

問い合わせ担当者は顧客の不満を詳しく知り、営業担当者は購入前の迷いを理解しています。複数部門の知識を組み合わせることで、実際の顧客体験に合った解決策を考えやすくなります。

6.4 類似業界以外の事例を参考にする

競合企業だけを参考にすると、同じような商品や体験になりやすくなります。顧客が求める体験の特徴を抽象化し、異なる業界の事例からヒントを得ることが有効です。

たとえば、待ち時間の不安を減らしたい場合、医療機関だけでなく、配送状況の通知や交通機関の案内方法も参考になります。業界ではなく、解決したい感情や行動を基準に事例を探します。

6.5 顧客価値と実現性で絞り込む

多くの案を出した後は、顧客への価値、実現可能性、事業への効果、必要な資源を基準に評価します。単に実装しやすい案だけを選ぶと、小さな改善に偏ってしまいます。

顧客価値が高く、比較的実現しやすい案は早期に試す候補になります。価値は高いものの実現が難しい案は、機能や対象範囲を小さくして検証できないか検討します。

コード例:改善案の優先順位を計算する

改善案一覧 = [
   {"名称": "入力項目の削減", "顧客価値": 9, "実現性": 8, "事業効果": 7},
   {"名称": "相談機能の追加", "顧客価値": 8, "実現性": 5, "事業効果": 8},
   {"名称": "確認画面の改善", "顧客価値": 7, "実現性": 9, "事業効果": 6},
]

for 改善案 in 改善案一覧:
   改善案["優先点"] = (
       改善案["顧客価値"] * 0.5
       + 改善案["実現性"] * 0.3
       + 改善案["事業効果"] * 0.2
   )

並び替え結果 = sorted(
   改善案一覧,
   key=lambda 項目: 項目["優先点"],
   reverse=True
)

for 項目 in 並び替え結果:
   print(項目["名称"], round(項目["優先点"], 1))
 

評価点は絶対的な正解ではなく、関係者が判断基準を共有するための材料です。数値だけで自動的に決定せず、顧客への影響や安全性、法的な条件なども確認する必要があります。

7. 試作品を使った顧客体験の検証

アイデアは、説明を聞いただけでは正しく評価できません。実際の利用場面に近い形で顧客に触れてもらうことで、理解しにくい部分や想定外の行動を確認できます。

ここでは、試作品を効率的に作成し、顧客体験を検証する方法を説明します。

7.1 検証目的を先に決める

試作品を作る前に、何を確かめたいのかを明確にします。画面の見た目、操作の理解、情報の順序、購入意向など、目的によって必要な試作品の形や完成度が異なります。

検証目的が曖昧なまま作り込むと、時間をかけた部分が評価に不要だったという事態が起こります。ひとつの検証で確認する仮説を絞ることで、結果を判断しやすくなります。

7.2 必要最低限の形から始める

初期段階では、完成品に近い試作品を作る必要はありません。紙に画面を描き、担当者が画面の切り替えを再現するだけでも、操作の流れを確認できます。

重要なのは、顧客が体験を想像し、具体的な反応を示せることです。見た目の完成度を上げすぎると、顧客が細かな色や文字に注目し、本来確認したい流れを評価しにくくなる場合があります。

7.3 実際の利用場面に近づける

会議室で説明を受けながら操作する状況と、日常生活の中でひとりで利用する状況では、顧客の行動が異なります。可能な範囲で、実際の利用環境や目的を再現することが重要です。

たとえば、移動中に利用されるサービスであれば、短時間で操作できるか、片手でも使えるか、周囲が騒がしくても理解できるかを確認します。利用環境を考慮すると、画面だけでは見えない課題を発見できます。

7.4 顧客に考えながら操作してもらう

検証中は、顧客に「今何をしようとしているか」「どの情報を見て判断したか」を話してもらいます。操作結果だけでは分からない、顧客の考え方や迷いの原因を理解できます。

ただし、担当者が操作方法を教えたり、正しい答えへ誘導したりしないよう注意が必要です。顧客が自力で理解できない部分は、実際の提供後にも問題になる可能性があります。

7.5 結果を次の改善へつなげる

検証では、顧客が成功したか失敗したかだけでなく、どこで迷い、何を期待し、どのような感情を持ったかを記録します。複数の顧客に共通する行動があれば、設計上の問題である可能性が高くなります。

検証結果を受けて試作品を修正し、再び顧客に確認します。一度の検証で完成させようとせず、小さな改善を繰り返すことが、顧客に合った体験づくりにつながります。

コード例:簡易試作品に意見送信機能を追加する

<form id="意見フォーム">
 <label for="評価">この画面は分かりやすかったですか</label>
 <select id="評価" required>
   <option value="">選択してください</option>
   <option value="5">とても分かりやすい</option>
   <option value="4">分かりやすい</option>
   <option value="3">どちらともいえない</option>
   <option value="2">分かりにくい</option>
   <option value="1">とても分かりにくい</option>
 </select>

 <label for="理由">そう感じた理由</label>
 <textarea id="理由" required></textarea>

 <button type="submit">意見を送信する</button>
</form>

<script>
document.getElementById("意見フォーム").addEventListener("submit", async function (event) {
 event.preventDefault();

 const 送信内容 = {
   評価: document.getElementById("評価").value,
   理由: document.getElementById("理由").value
 };

 const 応答 = await fetch("/prototype-feedback", {
   method: "POST",
   headers: {"Content-Type": "application/json"},
   body: JSON.stringify(送信内容)
 });

 if (!応答.ok) {
   alert("送信できませんでした。もう一度お試しください。");
   return;
 }

 alert("ご協力ありがとうございました。");
});
</script>
 

8. 顧客体験マップの作成方法

顧客体験マップは、顧客が目的を達成するまでの行動、接点、感情、課題を時系列で整理したものです。部門ごとに分断されている情報をひとつの流れとして可視化し、改善すべき場所を共有できます。

ここでは、実務で活用できる顧客体験マップの作り方を説明します。

8.1 対象となる顧客を決める

すべての顧客をひとつの体験マップで表現しようとすると、内容が平均化され、具体的な課題が見えにくくなります。利用目的、経験、状況、契約内容などを基準に対象顧客を設定します。

初めて利用する顧客と長年利用している顧客では、必要な情報や感じる不安が異なります。改善したい事業課題と関係が深い顧客層を選ぶことが重要です。

8.2 顧客の目的を明確にする

体験マップは、企業の業務手順ではなく、顧客が目的を達成する過程を表します。顧客が最終的に何を実現したいのかを最初に明確にします。

商品購入が表面的な行動であっても、本当の目的は時間の節約、安心の獲得、家族との時間の充実かもしれません。目的を深く理解すると、購入後まで含めた体験を設計しやすくなります。

8.3 行動と接点を時系列で整理する

顧客が認知、情報収集、比較、購入、利用、問い合わせ、継続に至るまでの行動を並べます。各段階で顧客が接触するウェブサイト、店舗、広告、担当者、配送物なども記載します。

企業が管理していない接点も含めることが重要です。家族からの助言、比較サイトの評価、利用者同士の情報交換などが、顧客の判断に大きく影響する場合があります。

8.4 感情の変化を記録する

各段階で顧客が安心、期待、不安、混乱、満足、失望など、どのような感情を持つかを整理します。感情が大きく低下する場所は、優先的な改善候補になります。

感情を担当者の想像だけで記入すると、実態と異なる体験マップになる可能性があります。聞き取りや観察、問い合わせ記録など、調査結果に基づいて作成する必要があります。

8.5 課題と改善機会を明確にする

行動、接点、感情を整理した後、顧客が目的を達成するうえでの障害を記載します。情報不足、手続きの複雑さ、待ち時間、説明の矛盾、不安など、具体的な問題を示します。

課題ごとに改善案を考えますが、すぐにひとつの施策へ固定しないことが重要です。顧客が望む状態を定義し、複数の方法を比較してから試作品の検証へ進みます。

9. 顧客接点を一貫して設計する方法

顧客体験は、ひとつの接点だけを改善しても十分ではありません。広告で伝えた内容、販売時の説明、利用中の表示、問い合わせ対応が一致して初めて、顧客は安心して企業と関係を続けられます。

ここでは、複数の顧客接点を一貫して設計する方法を解説します。

9.1 顧客接点を漏れなく洗い出す

企業が直接管理している接点だけでなく、顧客が企業を知り、評価し、利用する過程で触れる情報を幅広く整理します。広告、検索結果、口コミ、店舗、契約書、配送通知なども対象です。

見落とされやすい接点に、解約手続きや問題発生時の案内があります。企業にとって望ましくない場面でも、顧客にとっては重要な体験であり、信頼を左右します。

9.2 情報の矛盾をなくす

接点ごとに担当部門が異なると、料金、条件、対応範囲などの説明が一致しない場合があります。顧客は内部事情を知らないため、説明の矛盾を企業全体の不誠実さとして受け取ります。

重要な情報について共通の基準を定め、変更時にすべての接点へ反映できる仕組みを整えます。定期的に表示内容や案内文を確認し、古い情報が残っていないか点検することも必要です。

9.3 接点間の移動を滑らかにする

顧客がウェブサイトから電話、店舗からアプリケーションへ移動したとき、同じ説明を繰り返さなければならないと負担が増えます。接点間で必要な情報を適切に引き継ぐ設計が重要です。

ただし、情報共有では個人情報の保護と利用目的の明確化が必要です。顧客の同意を得たうえで、担当者が必要な範囲の情報を確認できる仕組みをつくります。

9.4 表現と対応方針を統一する

顧客への文章、画面表示、担当者の説明が大きく異なると、企業としての一貫性が失われます。顧客にどのような印象を持ってほしいかを決め、表現や対応方針を整えます。

ただし、すべての言葉を機械的に統一する必要はありません。接点の特性や顧客の状況に合わせながら、誠実さ、分かりやすさ、安心感といった中心的な方針を共有します。

9.5 問題発生時の体験を設計する

通常時の体験だけでなく、遅延、故障、誤請求、在庫切れなどが発生した場合の対応も設計します。問題を完全になくすことが難しくても、顧客の不安や負担を減らすことは可能です。

問題の発生を早く伝え、現在の状況、対応予定、顧客が行うべきことを明確に示します。顧客が何度も問い合わせなくても状況を確認できるようにすると、信頼低下を抑えられます。

10. デジタルサービスの顧客体験を改善する方法

ウェブサイトやアプリケーションでは、わずかな分かりにくさや待ち時間が離脱につながります。対面で担当者が支援できないため、画面上の情報だけで顧客が次の行動を判断できる設計が必要です。

ここでは、デジタルサービスにデザイン思考を活用する方法を説明します。

10.1 最初の利用体験を簡潔にする

初回登録時に多くの情報を求めると、価値を理解する前に顧客が離脱する可能性があります。最初に必要な情報だけを入力してもらい、追加情報は必要になった時点で取得する方法が有効です。

登録完了を企業側の目標にするのではなく、顧客が最初の価値を得るまでの時間を短くします。利用目的に応じた案内を行い、最初に何をすればよいかを明確に示します。

10.2 入力時の負担を減らす

入力項目が多い、入力形式が分かりにくい、エラーの理由が表示されないといった問題は、顧客に大きな負担を与えます。不要な項目を削除し、入力例や条件を事前に示すことが重要です。

エラーが発生した場合は、問題のある場所と修正方法を具体的に伝えます。「入力内容が正しくありません」という表示だけでは、顧客は何を直せばよいか判断できません。

10.3 読み込み中の不安を減らす

処理に時間がかかる場合、画面が止まったように見えると、顧客は操作が失敗したと考えます。進行状況や完了までの目安を表示し、重複操作を防ぎます。

単に待機表示を出すだけでなく、現在行っている処理や、画面を閉じても問題がないかを説明します。待ち時間を完全に短縮できない場合でも、不確実性を減らすことで体験を改善できます。

10.4 利用しやすさを幅広く考える

文字の大きさ、色の違い、操作方法、読み上げへの対応などを考慮し、多様な顧客が利用できる設計を目指します。特定の利用者だけを想定すると、必要な情報にアクセスできない顧客が生まれます。

利用しやすさへの配慮は、一部の顧客だけのためではありません。分かりやすい文章、明確な見出し、十分な操作領域は、すべての顧客の負担軽減につながります。

10.5 顧客の意見を継続的に収集する

提供開始時の調査だけでは、顧客の状況変化や新しい問題を把握できません。画面内の意見送信、利用後の質問、問い合わせ記録などを活用し、継続的に情報を集めます。

質問数を増やしすぎると回答率が下がるため、確認したい内容を絞ります。回答を集めるだけでなく、改善内容を顧客へ伝えると、意見を提供する意味を感じてもらいやすくなります。

コード例:顧客満足度の平均値を計算する

const 回答一覧 = [
 { 評価: 5, 理由: "手続きが簡単だった" },
 { 評価: 4, 理由: "説明が分かりやすかった" },
 { 評価: 2, 理由: "確認画面で迷った" },
 { 評価: 3, 理由: "処理時間が長かった" }
];

const 合計値 = 回答一覧.reduce(function (合計, 回答) {
 return 合計 + 回答.評価;
}, 0);

const 平均値 = 合計値 / 回答一覧.length;

console.log(`平均評価は${平均値.toFixed(1)}です`);
 

平均値だけでは、どの体験を改善すべきか判断できません。低い評価の理由を分類し、画面、手続き、待ち時間、説明など、具体的な改善対象へ結び付ける必要があります。

11. 組織へデザイン思考を導入する方法

デザイン思考は、研修を一度実施するだけでは組織に定着しません。顧客調査、意思決定、予算配分、評価方法など、日常の業務へ組み込む必要があります。

ここでは、デザイン思考を顧客体験改善の仕組みとして定着させる方法を解説します。

11.1 小さな対象から始める

最初から全社的な改革を目指すと、調整範囲が広くなり、成果が出るまでに時間がかかります。特定の顧客層、手続き、画面、問い合わせ内容など、範囲を限定して始める方法が有効です。

短期間で調査、試作、検証を行い、改善結果を示すことで、社内の理解を得やすくなります。小さな成功を共有しながら、対象範囲を段階的に広げます。

11.2 経営課題と結び付ける

顧客体験改善を理想論として説明するだけでは、予算や人員を確保しにくくなります。継続率の低下、問い合わせ費用の増加、購入完了率の低下など、具体的な経営課題と結び付けます。

顧客への価値と事業への効果を同時に示すことで、経営層や関係部門の協力を得やすくなります。短期的な成果だけでなく、中長期的な信頼や継続利用への影響も説明します。

11.3 顧客の情報を部門間で共有する

部門ごとに顧客情報を管理していると、同じ顧客について異なる理解が生まれます。調査結果、問い合わせ傾向、行動データ、顧客体験マップなどを共有できる場所を整えます。

情報を保存するだけでは利用されないため、定期的に顧客の声を確認する会議や、改善事例を共有する機会を設けます。顧客情報を意思決定に使う習慣が重要です。

11.4 評価制度に顧客視点を入れる

売上や処理件数だけで担当者を評価すると、短期的な成果を優先し、顧客体験が後回しになる場合があります。顧客の目的達成や負担軽減に関する指標も評価に含める必要があります。

ただし、ひとつの満足度指標だけで個人を評価すると、回答を誘導する行動が生まれる可能性があります。複数の指標と具体的な改善活動を組み合わせて評価します。

11.5 試行錯誤を認める文化をつくる

新しい施策が最初から成功するとは限りません。失敗した担当者を責める文化では、検証結果が共有されず、同じ問題が繰り返されます。

小規模な検証で得た失敗を、次の判断に役立つ学習として扱います。ただし、無計画な実施を認めるのではなく、仮説、検証方法、判断基準を事前に明確にすることが必要です。

12. 顧客体験の成果を測定する指標

顧客体験改善の成果を示すためには、感覚的な評価だけでなく、適切な指標を設定する必要があります。ただし、ひとつの数値だけを追うと、顧客の実態を誤って解釈する可能性があります。

ここでは、顧客体験の改善効果を確認するための代表的な指標を解説します。

12.1 顧客満足度を確認する

顧客満足度は、特定の商品、手続き、問い合わせ対応などに対する満足の程度を確認する指標です。体験直後に質問すると、具体的な接点の評価を得やすくなります。

一方、満足度が高くても継続利用につながらない場合があります。満足度の変化だけで判断せず、行動指標や自由記述の内容も確認する必要があります。

12.2 推奨意向を確認する

推奨意向は、顧客が商品や企業を他者に勧めたいと思う程度を確認するために使われます。企業への総合的な信頼や愛着を把握する参考になります。

ただし、業界や利用場面によって、顧客が他者へ勧める機会は異なります。数値の高さだけを比較するのではなく、同じ条件での推移や、回答理由の変化を確認します。

12.3 継続率と解約率を確認する

継続率は、顧客が一定期間サービスを利用し続けている割合です。顧客体験が長期的な関係につながっているかを確認できます。

解約率が上昇した場合は、価格や競合だけでなく、利用開始時の分かりにくさ、期待との違い、問い合わせ対応なども調査します。解約直前だけでなく、利用開始からの体験を振り返ることが重要です。

12.4 手続き完了率と離脱率を確認する

登録、購入、予約、申し込みなどの完了率は、顧客が目的を達成できているかを示します。途中離脱が多い場所を確認することで、改善対象を絞り込めます。

数値が低い画面を見つけた後は、入力エラー、表示速度、説明内容、顧客の不安など、原因を詳しく調べます。離脱率だけでは理由が分からないため、行動観察や聞き取りと組み合わせます。

12.5 問い合わせと解決状況を確認する

問い合わせ件数は、顧客が困っている場所を見つけるための重要な情報です。同じ内容の問い合わせが多い場合、説明や手続きの改善によって顧客負担を減らせる可能性があります。

件数を減らすことだけを目標にすると、顧客が問い合わせにくい仕組みをつくってしまう危険があります。解決までの時間、再問い合わせ率、顧客の納得度も含めて評価します。

確認する内容主な指標読み取れること
接点への評価顧客満足度特定の体験に対する満足
企業への信頼推奨意向総合的な評価と推奨の可能性
関係の継続継続率、解約率長期的な価値と不満の蓄積
目的の達成完了率、離脱率手続き上の障害や分かりにくさ
問題への対応解決時間、再問い合わせ率支援体験の質と解決力

コード例:顧客体験指標を集計する

利用者数 = 1200
継続利用者数 = 960
手続き開始数 = 800
手続き完了数 = 620
問い合わせ総数 = 180
再問い合わせ数 = 27

継続率 = 継続利用者数 / 利用者数 * 100
完了率 = 手続き完了数 / 手続き開始数 * 100
再問い合わせ率 = 再問い合わせ数 / 問い合わせ総数 * 100

print(f"継続率: {継続率:.1f}%")
print(f"手続き完了率: {完了率:.1f}%")
print(f"再問い合わせ率: {再問い合わせ率:.1f}%")
 

指標を集計するときは、全体平均だけでなく、新規顧客、継続顧客、利用目的、契約内容などに分けて確認します。特定の顧客層だけが大きな問題を抱えている場合、平均値では見えなくなるためです。

13. 顧客体験改善で起こりやすい失敗

デザイン思考を導入しても、進め方を誤ると、会議や資料作成だけで終わる可能性があります。顧客を重視しているつもりでも、実際には企業側の都合を優先している場合もあります。

ここでは、顧客体験改善で起こりやすい失敗と対策を説明します。

13.1 顧客の意見をそのまま実装する

顧客の意見は重要ですが、要望をすべて実装すれば良いとは限りません。顧客は自分の課題を説明できても、最適な解決方法まで判断できない場合があります。

要望の背景にある目的や不満を確認し、複数の解決策を検討します。顧客の発言を否定するのではなく、表面的な要求から本当の必要性を読み取ることが重要です。

13.2 調査対象が偏っている

利用頻度の高い顧客や、企業に好意的な顧客だけを調査すると、離脱した顧客や利用を諦めた顧客の問題が見えません。既存顧客だけでなく、未購入者や解約者も調査対象に含めます。

対象者の年齢、利用経験、目的、環境などが偏っていないか確認します。誰のための改善なのかを明確にし、目的に合った対象者を選ぶことが必要です。

13.3 試作品を作り込みすぎる

完成度の高い試作品を作ること自体が目的になると、検証前に多くの時間と費用を使ってしまいます。作り込んだ案ほど変更しにくくなり、問題が見つかっても修正を避ける心理が働きます。

検証したい内容に必要な部分だけを作り、早い段階で顧客の反応を確認します。見た目、操作、情報構成など、検証対象に応じて試作品の完成度を調整します。

13.4 部門ごとの改善で終わる

ウェブサイト担当者が画面を改善しても、店舗や問い合わせ窓口の説明が変わらなければ、顧客体験全体は改善しません。部門ごとの目標だけで施策を進めると、接点間の矛盾が残ります。

顧客体験マップを共有し、どの部門がどの体験に関係しているかを確認します。部門別の成果だけでなく、顧客の目的達成を共通の評価軸にします。

13.5 数値だけで判断する

数値は変化を確認するために重要ですが、数値だけでは顧客の感情や理由を理解できません。離脱率が改善しても、顧客が強い不安を感じながら手続きを完了している可能性があります。

行動データと顧客の発言を組み合わせ、数値の背景を確認します。数値が改善しなかった場合も、施策が間違っていたと即断せず、対象顧客や検証条件を見直します。

14. 顧客体験改善を成功させる実践手順

顧客体験改善を継続的な成果につなげるには、調査、課題定義、発想、試作、検証、運用をひとつの流れとして管理する必要があります。施策を実施して終わりにせず、結果から次の課題を見つけます。

ここでは、企業が実際に取り組む際の進め方を段階的に解説します。

14.1 改善対象と目的を決める

最初に、どの顧客の、どの体験を、なぜ改善するのかを明確にします。「顧客体験を良くする」という広い目標だけでは、調査対象や判断基準を決められません。

たとえば、「初めて利用する顧客が、登録途中で不安を感じて離脱する問題を減らす」と設定します。対象顧客、体験の範囲、事業上の目的を具体化することが重要です。

14.2 顧客の行動と感情を調査する

聞き取り、観察、問い合わせ記録、行動データを使い、顧客がどこで困っているかを調べます。社内の想像だけで課題を決めず、実際の顧客情報を集めます。

調査では、問題点だけでなく、顧客が高く評価している体験も確認します。既に機能している部分を理解すると、改善時に重要な価値を失うことを防げます。

14.3 課題を定義して優先順位を付ける

調査結果を整理し、顧客の目的達成を妨げている原因を特定します。症状、原因、影響を区別し、解決後に顧客がどのような状態になるべきかを定義します。

顧客への影響、発生頻度、事業への影響、実現性を基準に優先順位を決めます。緊急性の高い問題と、中長期的に取り組む課題を分けます。

14.4 試作品を作成して検証する

優先課題に対して複数の解決案を出し、必要最低限の試作品を作成します。顧客に実際の利用に近い形で試してもらい、行動と感情を観察します。

検証結果を成功か失敗かだけで評価せず、どの仮説が正しく、何を修正すべきかを整理します。修正した試作品を再度確認し、改善の確度を高めます。

14.5 運用後も測定と改善を続ける

試作品で良い結果が得られても、実際の提供環境では異なる問題が発生する可能性があります。提供後の完了率、問い合わせ、継続率、顧客の意見を継続的に確認します。

数値や顧客行動に変化があれば、原因を調査し、次の改善へつなげます。顧客体験改善を一度限りの事業ではなく、日常的な運用として定着させることが重要です。

15. デザイン思考とCX(顧客体験)の今後

顧客の価値観や利用環境が変化し続ける中で、一度設計した顧客体験を長期間そのまま維持することは難しくなっています。企業には、変化を早く捉え、小さく試しながら体験を更新する力が求められます。

最後に、デザイン思考と顧客体験を取り巻く今後の重要な視点を解説します。

15.1 個別化と分かりやすさの両立

顧客ごとに情報や提案を変える個別化は、必要な情報を見つけやすくする一方、仕組みが複雑になる可能性があります。顧客がなぜその情報を表示されたのか理解できないと、不安や不信感につながります。

個別化を進める際は、顧客が設定を確認し、必要に応じて変更できる仕組みを整えます。便利さだけでなく、透明性と選択可能性を体験設計に含めることが重要です。

15.2 人による支援の価値が高まる

自動化によって多くの手続きを効率化できますが、複雑な問題や感情的な不安には、人による支援が必要です。すべてを自動化するのではなく、顧客が必要なときに担当者へ相談できる導線を残します。

自動化は人を完全に置き換えるものではなく、定型的な作業を減らし、担当者が重要な支援へ集中するために活用します。顧客の状況に応じて適切な支援方法を選べる設計が求められます。

15.3 個人情報への配慮が体験価値になる

顧客データを活用すると、より適切な案内や提案が可能になります。しかし、利用目的が分からないまま情報を収集すると、顧客の信頼を失う危険があります。

何のために情報を取得し、どのように利用し、いつ削除するのかを分かりやすく説明します。顧客が自分の情報を確認し、利用範囲を選択できることも、重要な顧客体験になります。

15.4 従業員体験との連携が重要になる

顧客へ良い体験を提供するには、従業員が必要な情報や権限を持ち、無理なく業務を行える環境が必要です。複雑な社内手続きや情報不足は、最終的に顧客への対応品質へ影響します。

顧客体験を改善するときは、担当者がどこで困っているかも調査します。顧客と従業員の両方にとって負担の少ない仕組みを設計することで、安定したサービスを提供できます。

15.5 継続的な学習能力が競争力になる

市場や顧客の変化が速い環境では、過去の成功方法が今後も有効とは限りません。顧客の変化を早く捉え、仮説を立て、試作品を検証し、学習する循環が重要になります。

デザイン思考を一時的な手法として扱うのではなく、組織の意思決定方法として定着させる必要があります。顧客の声と行動から学び続ける企業は、変化に対応しながら長期的な信頼を築けます。

コード例:記事情報を検索エンジンへ伝える構造化データ

<script type="application/ld+json">
{
 "@context": "https://schema.org",
 "@type": "Article",
 "headline": "デザイン思考とCX(顧客体験)とは?違いから実践方法まで徹底解説",
 "description": "デザイン思考と顧客体験の違い、調査、課題定義、試作品、顧客体験マップ、組織への導入方法を解説します。",
 "author": {
   "@type": "Organization",
   "name": "運営会社名"
 },
 "publisher": {
   "@type": "Organization",
   "name": "運営会社名"
 },
 "mainEntityOfPage": {
   "@type": "WebPage",
   "@id": "https://example.com/design-thinking-customer-experience/"
 },
 "inLanguage": "ja"
}
</script>
 

構造化データは、記事内容を検索エンジンへ正確に伝えるために利用できます。ただし、記述した情報と実際のページ内容を一致させ、公開者名やページアドレスを正しい情報へ変更する必要があります。

おわりに

デザイン思考は、利用者の行動や感情を理解し、表面的な要望の奥にある課題を発見して、解決策を試行錯誤するための方法です。一方、CX(顧客体験)は、顧客が認知、比較、購入、利用、問い合わせ、継続などの接点を通じて得る総合的な体験を示します。

両者を組み合わせることで、企業側の思い込みや部門ごとの都合ではなく、顧客の目的達成を中心に商品やサービスを改善できます。顧客調査、課題定義、アイデア創出、試作品の作成、検証、運用後の測定を繰り返すことが重要です。

顧客体験の改善は、一度の施策で完了する取り組みではありません。顧客の状況や期待は変化し続けるため、企業も継続的に学習し、体験を更新する必要があります。小さな対象から実践を始め、得られた結果を組織全体へ広げることで、顧客に選ばれ続ける商品、サービス、企業づくりにつながります。

LINE Chat